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平安京エイリアンズ  作者: 岬口大鴉
【八日目】

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65/99

選択する権利

 夜が、深くなっていた。慧日寺の回廊は、昼とは別の顔をしている。灯りは少なく、足音が、やけに響く。

 私は、ここに来て、初めて巫女の装束を身にまとった。そして、自分がどこへ向かっているのかを、はっきりと理解していた。


……止めに行く。


 山を、封印を。そして――このまま進んで、誰かが破滅を選ばされる流れを。

 そして、それでも誰かが破滅するしかないのであれば、それが、自分であるなら……それでも、いい。

怖くないわけじゃない。でも、考え続けて、何もしないまま、事態が悪化するほうがもっと、怖かった。


 近衛の部屋の前で、私は一度、深呼吸をした。


「……失礼します」


 返事は、すぐに来た。


「入れ」


 近衛は、書き物から顔を上げる。一目で、気づいた。


「……その恰好」


「私、山に行きます」


 空気が、一瞬で変わる。


「……何だと?」


「封印を解くわけじゃありません」


 言葉を選びながら、それでも、まっすぐに言う。


「山の神に、直接、向き合います」


「馬鹿なことを言うな」


 近衛は、即座に否定した。


「今は、いつ地震、それこそ噴火があってもおかしくない。今の山は管理できてない状況なんだ」


「だから……です」


 瀬戸は、一歩も引かない。


「管理の外で、起きていることだから……」


「巫女……が、勝手に動いていい話じゃない」


「私は、勝手に動いているつもりはありません」


「……じゃあ、何だというんだ」


「選んだんです」


 その言葉に、近衛の表情が、はっきりと歪んだ。


「……選ぶ?」


「人に任されるのでも、命じられるのでもなく、私が、自分で決めます」


 沈黙。


 近衛は、ゆっくりと立ち上がった。


「……それは、許可できない」


 声は、低く、冷たい。


「君の身に、何かあったらどうする」


「それは、私の責任」


「違う」


 近衛は、はっきりと言った。


「俺の責任だ」


 瀬戸は、言葉を失う。


「君は、今や、鍵だ。山にとっても、人にとっても。そんな存在を、危険に晒す判断は、認められない」


「……それは」


 瀬戸は、胸が苦しくなる。


「私を、物として見ている言い方だよ」


 近衛の目が、わずかに揺れた。


「……違う」


 だが、否定しきれない。


「君を、守っている」


「守るために、私の意志を、奪うのね」


 その言葉が、決定打だった。


 近衛は、一瞬、目を伏せ――そして、決めた。


「……千沙」


 静かに呼ぶ。


 そして、次の瞬間、私の首筋に微かな痛みが走った。


「……」


「すまない」


 近衛は、視線を逸らさずに言う。

 私が、振り返ると、屏風の裏に三好が立っていた。その手には、笛のような細い筒が握られている。その表情には、同情と後悔とが入り混じっているようだった。


 体の力が抜ける。血流が遅くなり、体がしびれている。神経がうまく筋肉に命令を出せない。そんな感覚。


「……安全のためよ」


 そう言って、一歩、近づいた。


「瀬戸さん、動かないでね。安静にしていれば、すぐに体調は戻るから」


「……っ」


 私は、後ずさるが、まともに足が動かない。倒れそうになるのを、近衛が抱きかかえるように支える。


「……近衛……!」


 声は、最後まで、届かなかった。


「すまない、……だが、これが、俺の選択だ」


 それは、謝罪だったのか、言い訳だったのか。それとも決意だったのか。

 意識が、暗くなる。そして、最後に見えたのは、近衛の背後で、目を伏せる三好の姿だった。


……私……、選んだ、はずなのに……。

明日は2本投稿します。12時と18時です。

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