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平安京エイリアンズ  作者: 岬口大鴉
【八日目】

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瀬戸澄佳の正しい利用法

 藤巻直人には、すでに結論だけは見えていた。


……このままじゃ、何度やっても、捕まらない。


 ログは正直だ。

 修験道の封印線が切られ、修復が追いつかず、満足燈彦は、常に一歩先にいる。単独で動き、補給もない。組織的な支援もない。それでも――取り逃がしている。

 藤巻は、端末を閉じた。


「……逃げ道が、多すぎる」


 山というフィールドが、彼の味方をしている。修験道は、人のための道だ。だが、満足は、人の道を歩いていない。


「力で囲んでも、意味がないな」


 近衛は、黙っていた。怒っていないわけじゃない。だが、爆発もしない。それが、藤巻には分かった。


……考えてる。


 ここで感情に任せて動く男じゃない。


「……人質」


 藤巻は、あえて口に出した。

 近衛の視線が、鋭く向く。


「……その言葉、軽々しく使うな」


「分かってる」


 藤巻は、淡々と返す。


「だが、だからこそ、最も効果的なんだ」


 近衛は、答えない。

 藤巻は、それ以上、踏み込まなかった。

 今は……使えない。


 今、瀬戸を使えば、満足は確実に捕まえることができるだろう。

 だが同時に、すべてが壊れる。近衛自身の立場も。瀬戸との関係も。正しさの拠り所も。だから、決断できない。

 そのときだ。修験者の一人――年嵩の僧が、恐る恐る口を開いた。


「……あの」


 近衛と藤巻、両方をうかがう。


「古来より、この山では……」


 嫌な予感が、藤巻の背中を走る。


「巫女を、鎮めとして……」


 言葉を濁しながらも、はっきりとした意図。


「人柱、という手段も……」


 一瞬、空気が凍った。

 近衛が、ゆっくりと振り向く。


「……もう一度、言え」


 声は低い。


 僧は、震えながらも続ける。


「山の怒りを、人の身で受ける……。それが、最も確実かと……」


「ふざけるな」


 近衛の声は、怒鳴り声ではなかった。

 それが、かえって怖い。


「それは、管理でも、交渉でもない。ただの、責任放棄だ」


 僧は、何も言えなくなる。

 藤巻は、内心で息を吐いた。


……そこは、譲らないか。


 だが同時に、理解もした。現場では、この提案が出るほど、追い詰められている。


 巫女。瀬戸澄佳。

 今や、すべての論点が、そこに集まっている。

 山を鎮める存在であり、人と神の境界をつなぐものであり、満足を縛る唯一の鍵。そして――誰も、雑に扱えない存在。

 藤巻は、近衛の横顔を見る。


……どうする、恒一。


 今はまだ、猶予がある。満足は逃げている。瀬戸は生きている。山は、臨界に近いが、まだ動かない。

だが――このままでは、選択肢は、一つずつ消えていく。


 藤巻は、静かに告げた。


「今回……時間は、味方じゃないからな」


 近衛は、目を伏せる。


「……分かってる」


 声に、苛立ちが滲む。


「だが、汚いやり方で終わらせる気はない」


 それは、誇りか。それとも、恐れか。藤巻には、まだ判断できなかった。

 

 ただ一つ、確かなことがある。

 満足を捕まえるには、瀬戸を無視できない。そして、その選択をする瞬間が、確実に近づいている。そして、どうしても近衛ができないのならば、自分や他の誰かがその役割を、否応なく担わせられるかもしれない。そんな予感がしていた。

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