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平安京エイリアンズ  作者: 岬口大鴉
【八日目】

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封印を貼り直す者たち

 まだ山に朝霧が残る時間帯、境内ではすでに僧と修験者たちが動き始めていた。読経の声は低く、一定のリズムを保ち、山の空気に溶け込んでいる。

 近衛亘一は石畳の上に立ち、その様子を、腕を組んで眺めていた。


「……騒ぎすぎじゃないか?」


 俺の背後で、藤巻が静かに首を振る。


「いや、むしろ遅いくらいだ」


 藤巻は手元の端末――ゲーム内では「記録札」として表示されるもの――に視線を落としたまま続けた。


「山の環境値が、今朝から明確に変動している。火口付近の霊的圧、過去ログと比較しても異常だ」


「噴火するって言いたいのか?」


「可能性ではない」


 藤巻は顔を上げ、言葉を選ぶ。


「封印が弱まっていると見るのが自然だ」


 その言葉に、俺は眉をひそめた。


「……徳一の封印だろう? 百五十年前に施された」


「ええ。ですが、それも永続的なものではない」


 藤巻は淡々と説明する。


「徳一の封印は、怒りを鎮めるものではない。力を流し、抑え、時間を稼ぐための措置なのだろう」


 近くで話を聞いていた老僧――この寺の高僧NPCが、ゆっくりと頷いた。


「その通りだ。徳一菩薩は、山を縛ったのではない。人と神の間に、布を一枚、挟んだだけだ」


「……その布が、破れかけていると?」


 俺がそう問うと、老僧は否定も肯定もしなかった。


「緩んでおる。それだけは確かだ」


 修験者たちが、次々と符を準備し始める。木札、縄、経文、印。明らかに、封印を貼り直す動きだった。

 一瞬、迷った。


――これで、本当にいいのか。


 だが、ここで何もしなければ、「何もしなかった責任」は自分に返ってくる。


「……やってくれ」


 短く言った。


「山が静まるなら、それでいい」


 封印に向け実行部隊が動き出す。修験者たちは、封印のための道具を携え、経を唱えつつ、山に入っていく。本堂では、前線部隊を押し上げるように、集団での経の大合唱が始まった。

 そして、しばらくすると、空気が確かに変わっていった。山の霊的圧が、少しずつだが着実に下がっていく。


「……効いてますね」


 藤巻の声には、確信があった。

 事実、噴気は弱まり、地鳴りも収まる。数値上は、成功だった。


**


 境内の端に立たされて、じっと山を見つめる瀬戸澄佳だけは、まったく別のことを感じていた。


……違う。


 胸の奥が、ざわつく。

 怒りが消えたのではない。向きが変わっただけだ。表面的に封じられたことで、山の神は、さらに深く、内側に怒りを溜めている。


 小さく呟いた。


「……これ以上、強めると。山は、人のほうを向く」


 その言葉は、誰にも拾われなかった。



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