小さな余韻
再ログインの瞬間、僕は気づかなかった。
だが――戻る前より、戻った後のほうが 現実が遠く感じられた。その違和感は、まだ名前を持たない。
山は、静まりすぎていた。意識が戻った瞬間、満足は、違和感を覚えた。音が、ない。鳥の声も、風に揺れる葉の擦れる音も、聞こえない。
――静かすぎる。
前回までの山は、もっとざわついていた。人の気配。怒り。警戒。それらが、一度、全部引いたあとの静けさだ。
……終わったのか。
そう思って、すぐに否定する。終わった、というより――片づいたのだ。人の側の都合で。
僕は、岩陰から身を起こし、ゆっくりと歩き出す。地面は、なんか温かい。火山の熱というより、押さえ込まれたままの熱。噴き出さなかった分、内側に溜まっている。
……怒ってるな。
だが、暴れてはいない。怒りを、選別している。
沢に出る。水は流れている。だが、その音が遠い。
結界の感触を探る。
いつもと違った。結界はあるが、所々ほつれている。こんなことは今までなかった。
「……瀬戸」
名前を口にして、大事なことに、今さら気づく。
庵の方角を見る。駆け出す。いつもならば張りつめて感じ取る結界が、そこにほとんど揺れない。破られた、というより――管理がされていない感じ。劣化している。
その瞬間、山の奥で、低い圧が動いた。言葉ではないが、意味ははっきりしている。僕にそれを知らせるなにか。庵に直接行って、確認するまでもない。
ただ、リスクを冒してでも、僕はこの目で確かめたかった。――彼女が、奪われたことを。
……こうなるのか。
僕が逃げている間に、決着はついていた。
誰もいない、見張りすらいない庵へ、僕は向かっていく。別に争ったような痕跡はない。ただ、たくさんの足跡が残されていた。強引だが、確実なやり口だ。誰の仕業かは、考えなくてもわかった。
約束を、彼女を、守れなかった。後悔ばかりしてしまいそうになるが、今日の僕はすでに決めた。そうやって、自分の殻にこもって逃げることはしない。
――だが、挽回できないわけじゃない。
システム表示が、視界の端に浮かぶ。
・環境安定度:低
・主要調停要素:欠落
調停要素……巫女、か……。
つまり、今の山は――誰の言葉も聞かない状態ということだろう。
僕は、拳を握る。逃げないと決めた。正面から行く。隠れない。逃げない。
山を落ち着かせるには、人の都合を一度、真正面から叩くしかない。
僕は、西の方角を見た。
遠い道のりだろう。だが、行く。
山は、それを止めていない。むしろ――行け、と言っている気がした。




