逃げない決意
目が覚めたとき、どこにいるのか、すぐには分からなかった。天井が白い。低い音で空調が回っている。
――ああ。
現実だ。身体を起こそうとして、思わず息を止める。
重い。
筋肉痛とは違う。疲労とも、少し違う。もっと内側、骨と神経のあいだに、何かが溜まっている感覚。
昨日のログイン、その後半は、ほとんど実感がない。ほとんどすべてが圧縮されて、逃げて、隠れて、考えていた感覚だけが残っている。
洗面所で顔を洗う。鏡に映った自分は、少しやつれて見えた。
「……山の顔してるな」
小さく呟く。
髪を整えながら、昨夜のことを思い返す。
――答えは、もう出ている。迷ったままでも、戻る。正しいかどうかは、あとで考える。
食堂で簡単な朝食を取る。周囲には、同じ施設の参加者の姿が見える。だが、誰とも話さない。いや――話せない。
昨夜まで、同じ世界で同じ山を見ていた人間たちだ。それなのに、今は、全員が少しずつ違う場所に立っている気がする。
端末が震えた。ログイン準備完了。開始まで、あと十五分。
満足は、部屋に戻る。
ベッドの端に座り、深く息を吸う。
……今度は、逃げない。
そう決めた。怖さが消えるわけじゃない。自信もない。ただ、戻らない理由が、もうない。
装着したゴーグルの視界の端に、システムメッセージが浮かぶ。
――ログイン上限:8時間
――体感時間補正:有効
一瞬、眉をひそめる。
……長く、なるんだよな。
それが救いなのか、罠なのかは、それは分からない。
カウントダウンが始まる。
五。
四。
三。
最後に、もう一度だけ、思う。
美羽なら、きっと――。
二。
一。
視界が、ゆっくりと暗転する。
今回分、短いので、20時にもう一本投稿します。




