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平安京エイリアンズ  作者: 岬口大鴉
【八日目】

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深夜の管理フロア

 久世理沙は、一人だった。

 管理フロアの照明は落とされ、必要なモニターだけが淡く光っている。この時間帯に残るのは、決まって彼女だけだ。


 参加者は全員、ログアウト済み。バイタルも安定。強制遮断なし。


「……いつも通りね」


 そう呟いてから、自分の声が妙に乾いていることに気づく。

 報告書用のチェックだ。形式的な最終確認。

 私は、端末を操作し、参加者ごとのログを流していく。

 数値は、整っている。心拍変動、脳波同期率、ストレス指標。どれも、理論曲線の中に、きれいに収まっている。


「……」


 そこで、スクロールを止めた。


……整いすぎている


 実験は、こんなふうに進まない。必ず、どこかで歪む。感情か、判断か、疲労か。

 特に今回は、多くのイベントが起きている。放火から始まり、疑惑、山中での異常行動。山狩り。地震、そして神託の発生。

 それなのに、数値だけが静かだ。


「……ログ欠損?」


 イベント影響履歴を開く。

 本来、強い体験には必ず影響が出てくる。しかも、分かりやすく。戦闘や神的干渉。精神負荷の急上昇の数値として現れるはずだ。

 だが、そこにあるはずの現象が見られない、抜け落ちている。記録はある。数値も多少は変動している。ただ――規定値以上に変動しない。

 因果が欠けている。あるいは、ログに反映されていない? システムエラー? 一時的な通信不良?

そう考えて、首を振る。


……この程度で、システムログが消えるわけがない。


 最後に、体感時間ログを開く。参加者の主観を、AIが再構成したものだ。満足の項目で、一文が目に留まる。


「長時間滞在の自覚なし」

「疲労感のみ残存」


 瀬戸は、ほぼ正常、変わらず同じ傾向。

 近衛は、満足の逆だった。いや、ベクトルが逆なだけで、状態としてはむしろ近いともいえるかもしれない。判断間隔の短縮、時間経過を短く感じている。


「……圧縮率」


 小さく呟く。今日、自分が説明した調整。だが、これはまだ適用前だ。


……じゃあ、なぜもう影響が出てる?


 椅子に深くもたれ、目を閉じる。


「……順調」


 そう書けば、何も問題はない。むしろ、成功例だ。だが、胸の奥に残る感覚が、それを拒む。


――管理できていない部分が、増えている。


 研究者としての勘が、そう告げている。誰かが、先に入りすぎている。いや――誰か、ではない。何かだ。

 保存ボタンを押す。報告書は、無難な文面になるだろう。


「想定通り」

「経過良好」

「問題なし」


 それが、今の正解だ。

 立ち上がり、フロアの照明を落とす。

 去り際、端末の画面に戻り、一つの項目にだけ、指が止まった。


――強制ログアウト設定。


 一瞬、本当に一瞬だけ、迷いが走る。そして、何もせず、手を引いた。


「……明日、もう一度」


 誰にともなく言って、部屋を出る。管理フロアは、再び静かになった。

 だが、モニターの奥で、世界は確実に、人の手を離れ始めていた。

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