久世班のミーティング
会議室は、明るすぎるくらい整っていた。
白い壁。均一な照明。ゲーム内の土と石の匂いが、まだ鼻の奥に残っているのが、逆に浮いて感じられる。
今日のミーティングは、久世が担当するプレイヤーだけが参加している。個別面談の延長だが、別々に伝えるのが手間なことがあるとのことで、集められたかたちだ。つまり、この会場に来ているプレイヤーは、近衛、藤巻、三好、国分、鷺沢、瀬戸、そして僕の7名である。
久世が前に立つ。表情は、いつも通り冷静だ。
「みなさん、ひとまず一週間、お疲れでした。大きな事故も起きず、まずはなによりでした」
その言葉に、誰も頷かない。起きていない、という定義が、もう共有できていない。
「実験の進捗としては、想定以上に順調です」
藤巻が、わずかに眉を動かす。
「そのため、今日からいくつか 調整が入ります」
一拍置いて、久世は続けた。
「ログイン上限は、これまで通り8時間です」
室内の空気が、ほんの少し緩む。
「ただし――」
その一言で、再び緊張が戻る。
「ゲーム内での 体感時間の圧縮率を変更します」
一瞬、意味が追いつかない。
「簡単に言うと、同じ8時間で、より多くの時間を過ごせるようになります」
藤巻が、即座に口を開く。
「……イベント密度に応じて、記憶の定着を変える?」
久世は、否定もしなかった。
「移動や待機など、意味の薄い時間は圧縮されます。重要な場面ほど、鮮明に残る形の調整が入ります。結果として、みなさんへの負荷はむしろ下がっています」
三好が、小さく笑う。
「……楽になる、ってやつ?」
「理論上は、そうなります」
その「理論上」という言葉が、やけに軽い。
僕は、自分の感覚を思い返す。
二日いた自覚はない。ただ、疲労だけが残っていた。
……逃げ場が、減ったな。
瀬戸は、黙ったまま、手を握りしめている。だが、その表情は嫌がってはいない。むしろ、望むところという風に見える。
近衛は、資料に目を落としながら、何かを考えている。すでにこの調整を受け入れ、次の手を検討している様子だ。
同じ説明を聞いて、それぞれが、それぞれに思いを巡らせていた。
久世は、最後にこう付け加えた。
「不安があれば、個別に相談してください」
VR後遺症など、様々な懸念を皆が持っているはずだ。だが、それは初期契約の際に確認したうえで、このバイトは行われている。今更、何かいうべきことではないのかもしれない。
久世の発言に手を挙げるものはなく、ミーティングは終了となった。
それぞれが会議室から散っていく中で、僕は、もう一度だけ瀬戸を見る。今度は、目が合った。だが、それだけだった。言葉は、まだ追いつかない。
実験は順調。時間は伸びる。身体は楽になる。
――そう説明された。
けれど、誰もが感じている。次にログインしたら、もっと深く入り込むと。
現実は、もう一度だけ息継ぎを許してくれた。そして、それはさらに深く潜る準備でもあった。




