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自販機の前
僕が紙コップのコーヒーを取り出したとき、同時に、隣の機械が低い音を立てた。
顔を上げて脇を見ると、一瞬、思考が止まる。
瀬戸だった。
紺のキャミソールに、薄手の白いパーカー、そしてひざ丈のハーフパンツ。髪はまとめきれず、少し乱れている。眼鏡をかけているのも驚きだった。
ゲーム内の巫女装束とは、あまりにも違う。学園での凛とした装いともまた違う。完全に、オフの恰好だ。
「……」
どちらからともなく、声が出ない。
無事だった? 大丈夫? そんな言葉が、喉のあたりまで来て、引っかかったまま落ちてこない。
瀬戸の目は、まだどこか遠い。山を、そのまま持ち帰ってきたような顔だ。
そこへ、足音が重なった。
近衛の姿、その後ろに三好。少し遅れて藤巻と国分。
全員、「ゲームの続きの顔」をしている。
近衛は、一瞬で状況を把握しようとして、何も聞かずに視線を外した。
藤巻は、一歩引いた位置で、みなの表情を観察している。
三好だけが、空気を和らげるように言う。
「……とりあえず、全員、起きてるみたいね」
誰も笑わない。
コーヒーの紙コップが、やけに熱かった。
本日19時にもう1本投稿します。




