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平安京エイリアンズ  作者: 岬口大鴉
【七日目】

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七日目のログアウト

 山は、静かすぎた。さっきまで感じていた圧も、ざわめきも、どこかへ引いている。追手はいない。だが、安全でもない。

 僕は、岩に背を預けたまま、呼吸を整えようとして――そこで、違和感に気づいた。


……時間。


 体感が、おかしい。疲れている。だが、「疲れた理由」が思い出せない。

 狩った。逃げた。隠れた。戦った。それは確かだけれど、どれくらいここにいた?

 端末の隅に、淡い警告表示が浮かぶ。


――ログアウト推奨

――連続稼働時間:上限付近


「……は?」


 思わず、声が出た。


……そんなに?


 山に入ってから、一日も経っていない感覚だ。

 それなのに、身体は重く、思考は鈍い。


……逃げてるな。


 誰からということ、ではない。多分、僕は決断から逃げていたのだった。


 山が荒れ始めた。近衛が動いた。そして退いた。それなのに、自分は――まだ、山の中だ。ここにいれば、何も気にしなくて済む。そのことに、僕は気づいてしまった。


「……くそ」


 歯を食いしばり、ログアウト操作を選ぶ。


 逃げだ。


 でも、一度この世界を離れなければ、次は選べない。

 視界が、ゆっくりと暗転する。山の冷気が、消えていく。


**


 慧日寺にある分社は、整いすぎていた。清潔で、安全で、正しい。だからこそ、息が詰まる。


 私は、与えられた部屋で一人、座っていた。

 ここでも結界は張れる。祈りも捧げられる。だが――遠い気がする。何かに阻まれているのかもしれない。とにかく、山の神の気配が、薄い。つながりが、弱い。


……閉じ込められたのか。


 そう思った瞬間、また口惜しさが胸にこみ上げる。自分は、そんなに弱くないはずだった。神にも認められ、理屈でも、信仰でも、負けていない。それでも、ここにいる。それは力が、足りなかった。ということだ。

 その事実だけが、重く残る。


 通知が浮かぶ。


――ログアウト時間です。


 私は、一瞬だけ迷った。

 このまま、私はログアウトしていいのか。もっと抗う術をさがした方がいいのではないか。今はこの世界にとどまり、考えるべきではないかと……。

 だが。


「……違う」


 小さく呟き、ログアウトを選択する。

 ここは、いろいろな意味で本当の自分の居場所じゃない。ならば、冷静に考えることができる現実に戻り、考え直す方がいい。薄れる視界の中で、山の方角を思い浮かべた。


――待っていて。


 それは、神に向けた言葉でも、人に向けた言葉でもあった。


**


「……今日は、ここまでだ」


 俺は、淡々と告げた。

 指揮は終わった。判断も下した。誰もが、従っている。問題は、起きていない。

 それなのに――胸の奥が、ざらつく。


 藤巻が、隣でログを確認している。


「そろそろ制限時間、全員、ログアウトの時間だ」


 俺は、短く頷いた。


「分かっているよ」


 だが、視線は報告書に固定されたままだ。瀬戸のログ報告。満足の潜伏が予想される位置……。どちらも、分析が足りていない。どちらも、完全には掌握できていない。


……なぜだ。


 判断は正しい。手続きも正当。それなのに、事態は自分の思う通りに収束していない。


「……管理が、足りないということか」


 そう結論づけて、ログアウト操作を行う。現実に戻れば、整理できる。そう信じて。


**


 藤巻は、最後に一度だけ近衛を見た。

 何か言いかけて、やめる。

 そして、同じようにログアウトした。

明日は、少し短いので2本投稿します。12時と18時に1本ずつです。

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