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平安京エイリアンズ  作者: 岬口大鴉
【一日目】

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説明会

 初日のお試しログインが終わったあと、参加者はそれぞれ割り当てられた個室に案内された。

 ちなみに、やはりVRシステムに体が合わない人もいたようで、最終的な参加者は12名となったようだ。

 白い壁に、簡易ベッドとデスク。端末と、VR用のカプセルが一基。最低限だが、生活はできる。


「基本的に、ここが各自の拠点になります」


 久世は、廊下に設置されたモニター越しに説明した。全員が同じ映像を見ているが、声は各個室に直接届く。


「プライバシー確保のため、VRルームは個室です。他の参加者のログや状態は、原則として見えません」


――原則として。


 その言い回し、いつも少しだけ引っかかる。


「では、この後、17時から多目的室でミーティングを行いますので、それまで自由時間です」


 久世がそうとだけ告げて、通信を切った。

 自由時間とはいっても、ミーティングはあと20分後だ。やることは着慣れた部屋着、ジャージとスウェットに着替えるくらい。自販機でペットボトルのお茶を買ってから、地下の多目的室に向かった。


「では、いくつか質問が出ている点について説明します」


 画面が切り替わり、簡単な図が表示される。


「まず、貢献点のシステムですね。これは、ゲーム内において、どれだけちゃんとプレイしてくれたか。つまりテストプレイヤーとしての、ゲーム内貢献を表すものです。試験終了時にこれが高ければボーナスもでますので、きっちり稼いでくださいね。ちなみに単位には反映されませんので、そこはご了承ください」


 久世がそう冗談めいてそういうと、遠慮がちな笑い声が聞こえた。しかし僕は笑えない。もろにプレッシャーである。――適当やるなよと釘を刺された気分だった。


「評価点って、それってどうすれば稼げるんですか?」


 派手目な格好をした女子が尋ねる。お付き合いするには、イベントごとにさぞ金がかかるのだろう。

そんなモテない男子の偏見をよそに、久世はしっかりと彼女の問いに答える。


「基本は、ゲーム内でロール、つまり与えられた仕事、その役割をこなせば増えていきます。あとは、イベントへの貢献などです。つまり、基本はゲームスコアと同じものだと考えてもらっていいと思いますよ」


「それって、ゲーム内のアイテムとかとも交換できたりしますか?」


 こんどは、いかにもゲーマー風の男子が質問する。その発想はなかったが、むしろそれが当たり前なのか? ぼっーと生きてるんじゃねえよ、僕。


「鋭いですね。でも、いまはなんともいえません。あ、これほとんど答えいっちゃてるね」


 久世がそう笑うと、会場で笑いがおきる。しかしながら、僕にはまったく答えはわからない。どっちなの?


「最後に、ゲーム内時間と現実時間の差について」


 少し空気が変わる。


「このVRでは、現実時間一日に対して、おおよそゲーム内で10日が経過します」


 誰かが、息を呑む音がした。


「ただし、誤解しないでください。あなた方が一日分の体験を、10日分、感じるわけではありません」


 久世は、言葉を選ぶように、少し間を置いた。


「人の記憶は、すべての時間を等しく保存していません。印象的な出来事だけが残り、それ以外は、曖昧にまとめられる」


 睡眠の話が出た。通学路の記憶や昨日の昼食を思い出せるか、という例がつづく。


「このシステムでは、重要度の低い時間を、脳に負担をかけない形で圧縮します」


 圧縮、という言葉が、少しだけ強く響いた。


「あなた方の主観は連続しています。ただし、記憶として残るのは、意味のある場面が中心になります」


 質問が飛ぶ。


「じゃあ……何年もいた気分になるんですか?」


「いいえ」


 久世は即答した。


「長くいたという事実は認識しますが、すべてを生きた感覚にはなりません」


 一人の男子が、手を挙げた。あの近衛という「貴族」と一緒にいた一人。見るからに「私、賢いですから」という感じだ。


「つまり……」


 少し言葉を探すようにして、彼は続ける。


「イベントが起きたところは、ちゃんと記憶に残るけど……何も起きない時間は、曖昧になるってことですか?」


 久世は、わずかに頷いた。


「例えば、ずっと移動しているだけ、とか」


 彼は続ける。


「道中のことは覚えてないけど、長い距離を歩いたなとか、疲れたなって感覚だけ残る、ああいう感じですか?」


 一瞬、久世は言葉を選ぶように黙った。


「……近いですね」


 完全な肯定ではない。だが否定でもなかった。


「細部は抜けますが、身体感覚や経過時間の印象は残ります。……なので」


 久世は、そこで一度区切った。


「ゲーム内で数か月過ごした、という事実は自覚します。ただし、そのすべてを一日分の密度で思い出すことはありません」


 誰かが、納得したように息を吐いた。それは安心だったのか、理解したからこその不安だったのか、僕にはわからなかった。


「この方式により、長期の実験でも、精神的・生理的負荷は安全域に収まっています」


 最後に、久世はこう付け加えた。


「これは、現実から切り離される実験ではありません」


 一瞬、間が空いた。


「終われば、戻れます。少し時間の感覚がずれるだけです」


 スライドが暗転し、会議室が明るくなる。説明は、それで終わりだった。


 部屋に戻ると、会議の微かな余韻の中で、僕はベッドに腰を下ろした。

 

――少し時間の感覚がずれる。


 その言葉を、どこまで信じていいのかは、まだわからなかった。

 ただ一つだけ、確かなことがある。

 この部屋で過ごす時間と、あの森で過ごす時間は、もう、同じ速さでは流れないということだった。

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