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平安京エイリアンズ  作者: 岬口大鴉
【六日目】

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35/49

 目を開けると、天井が低かった。いや、正確には梁が近くて、天井はその奥に闇のように広がる。うっすらと屋根の茅葺がむき出しで見える。

 少しだけ眠った感覚がある。眠った記憶というのもおかしな話だけど、それが圧縮されていないのは初めての経験かもしれない。


 古い木の匂いと、木が焦げる匂い。

 僕は、一瞬、どこにいるのか分からず――それから、遠くに聞こえる滝の音、沢のせせらぎを聞いて、ようやく思い出した。

 身体を起こそうとして、やめる。だるい。全身が重い。だが、あの鉛のような重さではない。現実でもなじみのある疲労感だ。

 胸の奥を探る。あいつは、いる。ただし、静かだ。


「……起きた?」


 声がした。

 その方向に顔を向けると、瀬戸澄佳が土間の入口に立っている。装束は着替えている。さっきより、ずっと巫女だ。


「水、飲める?」


 僕は体を起こし、差し出された椀を受け取る。

 冷たい。ただの水。なのに、喉を通るたび、頭がはっきりしていく。


「……助かった」


 この庵には、まともな部屋といえる場所は、僕が寝ている板間だけだった。しかも、多分4畳半ないくらいの狭さだった。その一段下に、小さな竈がある土間がある。


「あと、ごめん。寝床をとっちゃたな」


 素直に言うと、瀬戸は少しだけ目を伏せた。


「別に大したことしてない。ただ、あなたが倒れたから、そこに寝かせただけ」


「実は、こっちに来て布団で寝るのは初めてだ」


 そういうと、瀬戸は少し驚いた顔をして、そのあと少し表情を曇らせる。きっと僕の境遇を少し想像して、憐れんでくれたのだろう。こういうのを、感受性が強いというのだろうか。それとも優しいということなのか。そんなことを思いながら、僕は椀を置く。


「ところで、何してたのあんなところで」


 少し非難が混じっている、とがめるような声。


「あっ……、そうじゃない、本当に誤解なんだっ…って」


 そうだった、僕はあの沢に転げ落ちて、そして彼女が禊をする姿を覗いて、いや見とれて……。そう考えながら、おもむろに瞼を閉じる。うむ、あのとき網膜に焼き付いた映像はしっかり脳裏に焼き付いている。このゲーム、そういう規制とかされないのね。


「そこの人、思い出さない!」


 そう言われて、すぐに僕は目を見開く。


「って、そうじゃなくて……、なんで、そんな状態になってるのかってことを聞きたいの」


 そうだった。僕はどうして、こんなことになったんだっけ。途中の記憶がいろいろと曖昧だ。


 今の僕は逃亡者。前回、安積の川辺でログインして、聞き込みでは収穫があったけれど、近衛たちに出くわした。絶対絶命のピンチのところで、あいつがまた目を覚まして、それで逃げて、逃げて、山の中をさまよい歩いた。そして……。


「山で、何かに怒られた」


 僕がそういうと、瀬戸が顔を上げる。


「この山で、なにかに?」


「そう、なにかに……。人ではない、NPCでももちろんない。なんだろう」


「……返事、した?」


 一瞬の沈黙。

 僕は、思い出す。左右から来た圧。夫婦のような気配。


「会話したかどうか、ちょっと記憶は曖昧なんだ。でも確実に意思はあった」


 瀬戸の指が、きゅっと握られる。


「……どんな?」


「怒ってた。理由も、はっきりしてた」


 僕は、ゆっくり言う。


「穢れを纏った神を持ち込むな、って」


 瀬戸は、息を止めた。


「……穢れを、纏った」


「たぶん僕の中にいるなにかを、そう呼んだ」


 瀬戸は、しばらく黙ってから、ぽつりと言う。


「……私は、返事をもらえなかった。何度も、挨拶したのに」


 僕は、その言葉を聞いて、少しだけ申し訳なく思った。


「僕は、たまたまだ。追われて、転げ込んだだけだ」


 瀬戸は、首を横に振る。


「それでも、私ができなかったことを、あなたはした」


 視線が合う。でも、どこか遠く感じる。現実でも、ゲームでも、距離感は変わらない。

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