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平安京エイリアンズ  作者: 岬口大鴉
【四日目】

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21/60

夜 多賀城

 夜の多賀城は、昼とは別の城だった。

 灯りは最小限。松明の間隔は広く、影が多い。石畳の起伏は昼よりもはっきりと足裏に伝わってくる。

 僕は、城内の外縁を歩きながら、呼吸を整えていた。蝦夷の狩人という設定は、この時間帯に都合がいい。夜に動くこと自体が、不自然ではない。


……始める。


 城の一角、物資倉に近い場所。昼間に確認しておいた、乾いた木材と油の匂い。彼は腰を落とし、手早く準備を整える。

 大きく燃やす必要はない。「音と匂い、そして判断を狂わせる程度の混乱」があればいい。

 火種を落とす。すぐには燃え上がらない。しばらくしてから、じわりと煙が立ち始めるのを確認して、その場を離れた。


 数分後。


「火だ!」


 誰かの声が、夜気を裂いた。完全な火事ではない。だが、蝦夷の最前線という場所で、火はそれだけで事件だった。

 武官が動く。数が減る。巡回が崩れる。


……思ったより、早い。


 僕は影から影へと移動する。視界は狭いが、その分、見られる範囲も限られる。

 スキルが、静かに働いているのが分かった。足音が、音として認識されない。松明の明かりの縁で、存在感が薄れる。


 文書庫の前に立つ。

 昼間は、常に誰かがいた場所だ。厄介な高官NPCはいない。今は、女官が一人。顔は緊張している。火の方を、何度も気にしている。

 僕は、距離を測る。近づく。離れる。女官の視線の揺れを読む。


……いける。


 背後の暗がりを使って回り込む。女官が振り返った、その瞬間には、もうそこにいない。

 扉は少し重い。だが、施錠は簡易だ。昼間よりも警戒が薄い。

 木が、わずかに鳴る。動きを止め、息を殺す。

 外で、誰かが走る音。怒号。火は、ちゃんと仕事をしている。

 扉が、開いた。中は暗い。書庫特有の、墨と埃の匂い。外の喧騒が、嘘のように遠い。

 静かに中へ滑り込む。扉を閉める音も、騒動のせいで今は気にならない。外はそれどころじゃない。


……入った。


 まだ、何も見ていない。名前も、年数も、記録も。

 だが、ここまで来た。


 夜の多賀城で、火の匂いを背にして、ようやく書庫の闇の中に僕は立っていた。

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