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平安京エイリアンズ  作者: 岬口大鴉
【幕間】

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19/49

近衛恒一の視界

 近衛恒一は、瀬戸澄佳から目を離していない。それは無意識ではないし、偶然でもない。意図しているし、計算もしている。


 彼女がどこに座るか。誰と話すか。どんな顔で笑うか。全部、把握している。

 当然だろう。自分のものにしたい女なのだから。それをしない奴は傲慢だし、甘い。世の中を舐めている。

 この試験バイトに参加した理由は、はっきりしている。金のためではない。経験のためでもない。

 瀬戸澄佳が手を挙げたからだ。

 彼女が「行く」と言った。それだけで、俺にとっては十分だった。それは素直に認める。


 近衛家は名家だ。皇族にも近く、実質的にこの国の制度を作り、支え続けてきた。いわばこの国の中心に常にいる家である。

 その家の子息、それだけで努力しなくても、たいていのものは手に入る。


 だが――瀬戸澄佳は、そうではない。

 落ちない。媚びない。自分を特別扱いしない。

 だからこそ、欲しい。


 別に今までにそういう者がいなかったわけではない。でも、それも自分の才覚で手に入れてきた。そのときの、あの達成感に勝るものはない。だからこそ、一番でいる必要がある。ゲーム内でも。集団の中でも。そして、彼女の視界の中でも。

 表向きは仲間と楽しんでいる。冗談も言う。余裕の笑みも見せる。「ゲーム、面白いな」と口にもする。それは決して嘘ではない。彼らは、癖はあるけど、みんないいやつだ。人間誰にだって癖はある。中でも俺が一番の癖強だ。それも自覚している。


 このVRゲームも楽しい。俺の職業は強い。ほとんどチートに近い性能だ。


 俺の、統率と指揮スキルは、支配下のNPCはもちろん、そうでないNPCだって誘導という形でかなり操作できる。しかも、そんなNPCたちを強化できる。

 さらに思考判断の加速化や、運気の向上までついている。おまけに、身分も高いとくれば、いけるところまでいける。そんな未来しか見えない。

 勝てる。上に行ける。誰よりも上に。その感覚は正直いつだって気持ちのいいものだ。

だからこそ、瀬戸に見せたい。


――ほら、俺は一番だろう?


 仲間たちは、そんな俺を盛り立ててくれる。


 鷺沢は、勝手に動くが、使える。基本的には眺めているだけの奴だが、好奇心旺盛で、情報を集めには便利だ。あいつの「面白い」の基準は俺とはずれているが、それでも俺が欲しいものを知っていて用意してくれている。自分の価値をわかっている。制御は難しいが、放っておけば面白い結果を持ってくる。


 三好は、すこし距離が近すぎるが、扱いを間違えなければ便利だ。身体も好きにできるし、俺の言うとおりに動く。ゲーム内の役割も、毒と薬、その両方を使えるのは強みだ。ただ、感情が絡むと判断が鈍るところはある。派手な格好をしてる癖に、意外と乙女な部分もある。


 藤巻は、理屈っぽいが合理的で、頭もいい。だから当然使えるが、そう自分で思っているところが、逆に扱いやすい。優秀な参謀としてまさに適任だ。

 あいつは自分の能力を過信し、個人主義なところがあるが、それがいい。俺は知っている、個人の力よりも数の力の方が強力なことを。あいつは、俺の領分に入ってこない。たとえ入ってきたとしても、俺には勝てない。あいつは、俺と家柄抜きで個人同士ならば対等だと思っている節はあるが、そうでない。だが、もちろん「友人」にそんなことを俺は言わない。


 国分は、逆に、考えよるよりも行動のやつだ。馬鹿ではないが、賢くもない。自分でもそれをわかっているからか、普段は無口なやつだが、その素直な態度は気に入っている。あいつは嘘をつかない。ついても隠せないことを自分でわかっているからだ。だから裏切らない。信用できる。

 それに、体を動かすことならば、俺と対等か、ものによってはそれ以上の能力もあるだろう。ゲーム内で武官として置くならば、これ以上ない優秀な部下だ。


 俺たちの戦力は十分。それぞれ駒としても、悪くない。全員まとめて、「近衛恒一」というパーティの一部だ。


 ただ瀬戸だけが違う。

 彼女は仲間ではあるが、同時に、攻略対象でもある。

 だから、俺は常に彼女をチェックしている。視線がどこへ向くか。誰の言葉に反応するか。


――満足燈彦。


 あの男に向けられる視線は、少し気になる。

 正直、その理由がわからない。能力が高いわけでもない。立ち回りが上手いわけでもない。協調性もない。

 なのに、瀬戸はあいつを見る。それは、表面的には好意的なまなざしではないかもしれない。しかし、見るということは何かを意味している。

 苛立ち? そうじゃない。少し気になる程度だ。

 あんな奴に奪われるとは思っていない。

 自分のほうが上だ。立場も、力も、将来も。ゲームの中でも、現実でも。


 だから今は、楽しむ。

 瀬戸のそばで笑い、仲間と騒ぎ、「いい夏休みだな」と演じる。その裏で、ちゃんと計算している。

 この一ヶ月――ゲーム内時間での話だが――は、明らかにチュートリアルだ。多賀城。軍団。評価点。すべては、試されている。

 誰が従うか。誰が逸脱するか。誰が、それを見ているか。

 満足は、逸脱している。しかも、自覚的に。つまり、俺の支配下に入ろうとしない。それは、気に入らない。瀬戸が、奴を見ることも含めて。


「……まあいい」


 結論は急がない。

 そのうちイベントが起きる。そのとき、自分が中心にいればいい。瀬戸が頼る位置にいればいい。

 ゲーム内で満足燈彦が、何かを企んでいることも察している。だが、それは脇役の物語だ。

 

 主役は、俺だ。

 

 瀬戸澄佳も、このゲームも、この夏も。


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