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平安京エイリアンズ  作者: 岬口大鴉
【三日目】

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16/48

チャンスの見つけ方

 ゲーム内の睡眠を取り、幾分か集中力が回復したような気がする。

 多賀城の朝は、いつも同じ匂いがする。乾いた土、馬糞、炊き出しの煙。リアルでいうなら、まだ昼過ぎ頃だろうか。しかしながら、体はきちんとこっちに来て「二日目」として覚えているのが不思議だった。

 今日は、市庁方面には行かない。その判断だけは、固まっていた。市場に向かう途中、露店の呼び声が重なり合う中で、聞き覚えのある声があった。


「そこの兄ちゃん、昨日の続き、どうだい?」


 鷺沢だった。

 昨日よりも少しだけ距離を詰めて、満足は立ち止まる。現実では、声を交わしたこともない。ただ、ファミレスで見かけたことがある、という程度の関係だ。


「……別になにも、君は、自分の店はどうした」


「今日は商会の仕事の手伝い。私は余所者だからね。こうやってポイント稼いでおかないとね。あんたは? 兵役サボり?」


 笑いながら言うが、声は軽いし、責める調子はない。

 僕は露店の品を眺めるふりをしながら、周囲に視線を走らせた。市場にはNPCも多い。だが、鷺沢は明らかに違う。

 反応が速いし、視線が合う。問いかけに、考える間がある。


「潜入は、できた?」


 鷺沢が、唐突に言った。


「……失敗した」


 本当は、行ってすらいない。

 だが、そう言うと、鷺沢は「ああ」とだけ頷いた。


「だろうね。あそこ、単純な隠密じゃ無理だよ」


「知ってるのか」


「知ってるってほどでもない。たださ」


 鷺沢は、露店の奥から木札を一枚取り出した。昨日と似ているが、文様が違う。


 「NPCってさ、嘘つかないでしょ?」


 その言葉に、僕は一瞬、言葉を失った。


「質問には答える。でも、意味までは教えない。だから、聞き方を間違えると、正しい情報だけ渡されて詰む」


 鷺沢は、それを攻略という言葉でまとめなかった。あくまで、経験談として語る。


「人間相手だと、曖昧な情報も出る。噂とか、愚痴とか、感情とか。でもNPCは違う。役割しか持ってない」


 彼女いうことはわかりにくいけど、わかりやすかった。

 昨日、聞き取れた女官たちの会話。意味は分からなかったが、言葉自体は正確だった。あれは――ヒントだった。


「……じゃあ、NPCから情報取れるって気づいてるやつ、少ないな」


「ほとんど気づいてない」


 鷺沢は即答した。


「だって、NPCと話しても面白くないもん。人間の方が話していて楽だし、早い。でも、このゲーム――たぶん、逆だね。うん」


 僕は、露店の品から一つ、小さな護符を手に取った。説明も聞かずに、新たに稼いだ米を差し出す。


「これ、何に使うんだ」


「安心料。効果は……気休め」


「いいよ、勉強になった」


 鷺沢は少しだけ驚いた顔をしたが、すぐに受け取った。


「忠告しとくとさ……」


 最後に、彼女は声を落とした。


「市庁は、……一人で行くのはおすすめしない」


「それは考えたよ、でもアテがないのが正直なところ。買収できるような対価も用意できない」


「そうだったね。じゃなきゃ私の客になんかならないもんね」


 図星。そう言われると、苦笑いしかできない。


「まあ、普段の市庁じゃないならチャンスはある、と思う」


 少し自信なさげに鷺沢はいう。


「チャンスね……」


「ピンチはチャンス、みたいな感じ?」


 その言葉が、胸に残った。

 市場を離れながら、僕は考える。探索スキルは足りている。隠密も、悪くない。だが、それだけでは足りない。

 この世界は、力よりも関係で開く扉が多すぎる。

 そして、その関係というやつは――僕にとって、結構な苦手意識のあるものだった。

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