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平安京エイリアンズ  作者: 岬口大鴉
【三日目】

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14/52

ファミレスの朝

 個室で食べる朝食は、どうにも落ち着かない。

 味がしないわけじゃない。でも、この部屋にいると現実と切り離されたまま一日が始まる感じが、少しだけ重かった。

 僕は部屋を出て、研究棟の外に出た。

 徒歩五分ほどの場所に、よくあるファミレスがある。この時間帯なら、そう混んでいることもないだろう。

 ただ、店に入った瞬間、すぐに分かった。


――ああ、いるのか……。


 奥のボックス席に六人。瀬戸と近衛、それに取り巻きの藤巻、三好、国分、鷺沢の四人。僕が知っているバイト参加者が全員で朝食。僕は誘われてないけどね。

 視線が合う。一瞬だけ。

 瀬戸が、軽く会釈をした。近衛 恒一も、気づいたのが分かる程度に、顎を引く。僕も、同じくらいの距離感で返す。

 それだけ。同じ席には、座らない。そもそも誘われてないものね。

 僕は、二つ隣のボックス席に腰を下ろした。注文を済ませてから、自然に背中を預ける。

 声は――聞こえる。

 意識していなくても、聞こえてしまう距離だ。


「……でさ、評価点の話なんだけど」


 近衛の声は、はっきりしている。朝から元気だ。


「あれ、普通にやってたら結構差つくぞ」


「戦闘系が有利だよね」


 三好の声、そういえば彼女は女官と薬師だった。


「有利っていうか、分かりやすい。討伐、警備、イベント対応。全部スコア化されてる」


 この声は藤巻。冷静な分析に思わず、なるほど、と僕はコーヒーを飲む。


「探索とか、隠密は?」


 別の女性の声。鷺沢だ。

 近衛が、少し間を置く。


「……評価されにくい。少なくとも序盤はな」


「じゃあ、何やるのが正解なん?」


「多賀城の仕事を真面目にやること。それが一番、確実だ」


 分かりやすい。国分の面白みのない模範解答。

 そのとき、瀬戸の声が聞こえた。


「でも、それって――、あの世界の外を見ないってことですよね」


 一瞬、空気が変わる。

 瀬戸さんは堅苦しいね。同級生で敬語は距離とってますアピールだよ。そういえば、いつだったかグループワークで一緒だったときに、敬語で話されて距離感じたわ、僕も。思わず敬語で返しちゃったし、僕も。

 近衛が、少しだけ笑う。


「何言ってるんだよ。所詮ゲームだし、ただのバイトだぞ、これ」


「ええ。でも、ただのバイトなら、あんな作り方しない」


 瀬戸は、感情を抑えたまま続ける。


「評価点の説明が曖昧すぎるし、多賀城内のゲームで終わるようなことは求められてないと思う」


「考えすぎだって」


「……そうでしょうか」


 僕は、視線を落としたまま、フォークを動かす。

 瀬戸の声は、落ち着いている。でも、どこか引っかかっている。


「私は、このゲーム、というか試験バイトに、何か別の意図を感じるんです」


 三好が、「別の意図?」と聞き返す。


「つまり評価点から逸脱する人を求めているというか、そういう存在を見極めるような……なにかを」


 近衛が、肩をすくめる。


「危ない発想だな」


「でも、確かにそういう人のほうが面白そう」


 同意したのは鷺沢の声。

 そして、一瞬、沈黙。

 その間に、僕の料理が運ばれてきた。皿の音が、妙に大きく聞こえる。

 近衛 恒一が、言った。


「ま、好きにすればいいさ。俺は勝ちに行く」


「……ええ」


 瀬戸の返事は、短い。


 しばらくして、彼らは席を立った。

 通り際、瀬戸が、ちらりとこちらを見る。

 視線が、合う。今度は、少しだけ長い。そして、明らかに睨まれる。なに、僕なにか嫌がられるようなことした?

 そして、少しだけ何か口にしそうな雰囲気――でも、何も言わない。

 ドアが閉まる。

 

 そして店内が、どこにでもあるファミレスの朝に戻る。

 僕は、コーヒーを飲み干した。


――評価点。模範解答。逸脱。


 彼らは、彼らのやり方で進むのだろう。僕は――、僕のやり方で行く。


――さあいこうか。今日は、三日目のログインだ。


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