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平安京エイリアンズ  作者: 岬口大鴉
【二日目】

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期限までにできること

 ログアウト処理が終わると、天井が戻ってきた。

 白い。静か。現実の匂い。

 個室のVRルームは、完全な遮音構造になっている。隣に誰がいるのかも分からない。それが、今はありがたかった。

 身体は、思ったより軽い。疲労はある。だが、昨日ほどではない。脳が、まだ向こうに寄っている感覚だけが残っている。

 僕はベッドに腰掛けて、壁際のモニタを立ち上げた。

 メモ用。解析用。これからやるのは、プレイじゃない。整理だ。


 まずは、現状確認。

 多賀城での活動期限は残り20日あまり。つまり、現実世界ではだいたい4日目のログアウトまでということ。

 思ったより、ずっと短い。


 スキルの状況は、現時点で使えるのは、これ。


 探索:初級 → 中級手前

 ・巡回の流れが見える

 ・危険度の事前察知が可能

 隠密:初級→ 中級手前

 ・一般兵・低位官人は回避できる可能性高

 ・多分、まだ高位NPCには通用しない

 侵入:未習熟

 ・裏動線の把握はできる

 ・施錠解除や封印解除・武力突破は不可能


 結論は明確で、このスキルだけでは文書庫には届かない。


 一番の障害、壁となっているのは、人だ。

 高位の武官NPC。数は不明。少なくとも、複数いるはずだ。

 その特徴は分かっている。音や視線ではなく、ゲームの権限で侵入を感知する。これは、どうしても逃れられないゲームの設定だ。あと、巡回ルートが固定されていない。彼らの任務が巡回ではないので、一般NPCとは挙動ロジックが違うということだろう。

 つまり――スキルだけでは回避できない。

 もう一つ。目ざとい女官の存在。視認判定が異様に高くて、役割外行動に敏感。ただ、たぶん評価点依存で反応が変わると思う。しかし、僕の評価点は現状では最底辺。上昇も見込めないので、結局はかなり厄介な存在だ。


 しかも、まだ分からないこともある。一番重要なのに、まだ見えていない点だ。


・高位NPCは、何人いるのか

・交代や不在のタイミングはあるのか

・文書庫の「中」の構造

・記録がどう分類されているのか

・その他


 加えて、不確定要素を挙げだしたらきりがない。ここは、自力探索だけでは限界がある。少なくとも僕の持っている情報だけでは足りないのは確かだ。

 だから、結論は一つ。誰かの手助けが必要だ。城内に自由に出入りできる誰か。高位NPCの動線を知っている誰か。できれば、裏情報にアクセスできる誰か。

 候補は、限られている。官人。僧。あるいは――評点の高いプレイヤー。


 思い当たるプレイヤーは数人いる。しかし、それは近衛とその取り巻きの中にだ。

 僕が協力を申し出たとしても、それに見合う報酬、対価が用意できるか。これが大きな問題になる。

 僕が持っているのは、米と引換札(少量)、狩人としての労働力とせいぜい探索情報くらいだ。


 金はない。信用も低い。だが――情報は、交換できる。

 特に、森や城外の情報。これは、多賀城にいる連中が、あまり持っていない類のものだ。

 とはいっても、彼らが欲しがるかもしれない情報を意識しながら過ごしていなかった。記憶は圧縮されている。僕にとって価値がないからだ。けど後天的に価値が生まれたら、その記憶が解凍できるのか。それは定かではない。

 ここで、近衛のグループの面々を、改めて思い返してみる。協力してくれる可能性、取引できる可能性のある人物はいるか。


 まず、近衛亘一。

 彼は、貴族。平たく言えば多賀城内のお偉いさんだ。情報漏洩という、評価点を下げるようなことをするわけがない。対価? 彼はなんでも持っているだろう。僕が支払えるものにはなさそうだ。


 次に、藤巻直人と三好千紗。

 藤巻は文官で近衛の参謀的な立場。当然、書庫を見ることはできるだろうけど、基本あちら側のプレイヤーだ。一応アプローチはしてみてもいいが、その対価が用意できるかの可能性は低い。


 三好は薬師でありながら、女官というか秘書のような感じで近衛と一緒にいる。現実世界では近衛の隣にいつもいる派手な子ってイメージだけど、ゲーム内ではちゃんと女官ぽくって驚いている。ただ、彼女は僕みたいな男を相手にするイメージがない。優しいギャルって現実にいるの?


 あとは、国分修司。

 僕と同じ軍団所属だけど、階級が違う。100人くらい部下がいるんじゃないだろうか。真面目そうで、正直いって取り入る隙がなさそう。一応、上司にあたるし。それに基本武官側だ。市庁の中の構図くらいは知っているだろうけど、取り入るメリットを感じない。


 そして、最後が鷺沢里穂。

 彼女は、他の四人と違って、市井のキャラクター設定だ。商人、いや行商人なのかな?

 とにかく、今は多賀城内の市で店を出している。市井の情報はたくさん持っているだろうし、グループ内の横のつながりを使えば、僕よりも他の四人から情報をもらいやすそうな存在でもある。


 ここで、僕は、モニタを閉じた。頭の中は、驚くほど静かだった。

 焦りはある。でも、混乱はない。やることは、決まっている。

 次にログインした後にやることは、スキル上げをしつつ、ひとまず市場で鷺沢を探し、接触すること。そして、市庁、特に文書庫周辺の観測を続ける。現実時間で二日、ただゲーム内では20日ある。しかしながら、もうゼロから始める時間でもない。

 ベッドに横になる。天井を見ながら、ふと、思う。

 矢代美羽も、こんな整理を、一人でやったのか。それとも――誰かが、彼女の手を引いたのか。

 答えは、まだない。ただ、次のログインで、その答えに一歩、近づく。そう信じて、僕は目を閉じた。


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