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平安京エイリアンズ  作者: 岬口大鴉
【二日目】

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11/52

文書庫への侵入

 日が傾くにつれて、多賀城の内側が静かになっていくのが分かった。

 ただ暗くなるわけじゃない。動きが整理されていく。それが、探索スキルを上げたことで見えるようになった変化だった。


 兵の巡回は、完全なランダムじゃない。

 門は三刻ごとに、通路は二刻、市庁の裏手は、交代の直後に「空白」が生まれる。

 これは頭で覚えたわけじゃない。視界の端に、うっすらと“流れ”が見える。

 ここは通れる。ここは危険。

 数値ではなく、直感として提示される情報。


「……なるほどな」


 このゲーム、ちゃんと分かるようにできている。

 市庁に潜入するならば、正面は論外だ。

 門と言っていい立派な扉には、明確に侵入不可の圧がある。

 レベル不足や役割制限が、それを僕に自覚させる。

 だが――裏手は違う。

 荷の搬入口。使用頻度は低いが、床板も、人が頻繁に通っていない感触がある。


 呼吸を整える。隠密スキルが、意識すると、少しだけ身体を軽くする。

 足音が、自分でも分からないくらい、抑えられていく。

 今なら――行ける気がする。その感覚を信じて、僕は進んだ。


 最初の関門は、難なく越えた。

 兵の視線が、ほんの一瞬、別を向く。その隙に、影へ溶け込むように動く。成功した。成功体験が、はっきりとあった。


――次の通路。


 ここで、違和感が走った。

 兵ではない。歩き方が違う。重心が低く、音がしない。

 官人――それも、かなり位の高い。この距離で、気配が薄すぎる。

 探索スキルが、警告を出す。


 危険度:高

 対象:高位NPC


 表示は短い。だが、意味は重い。こいつは、他の普通のNPCと同じルールで動いていない。

 やり過ごそうと、身を寄せた。

 完璧だったはずだ。視線も、音も、一切、重なっていない。

 それなのに。


「――そこ」


 低い声。

 穏やかだが、逃げ場のない響き。

 振り返ると、高官が立っていた。

装束は地味だが、空気が違う。このNPCは、守る側ではない。管理する側だということが感じ取れた。


「……軍団兵が、ここで何をしている」


 問いではない。確認だ。

 隠密スキルが、完全に沈黙している。

 レベル差が、はっきりと分かる。


 そのとき。「ちょっと、あなた!」と甲高い声があがる。

 脇の回廊から、女官が顔を出した。彼女もNPCだ。

 その視線が、一直線にこちらを射抜く。


「そちらは立入禁止です」


 ああ、と理解した。失敗だ。

 高位NPCに感知され、低位NPCの目視でジエンドということだ。

 この組み合わせは、現時点では回避できない。

 視界に、短いログ。


 侵入:失敗

 信用:低下(軽微)


 納得できる。理不尽ではない。今の自分では、ここまでというだけだ。

 高官は、じっと僕を見ていた。

 怒りはない。警戒も、最小限。


「……次は、表を歩け」


 それだけ言って、去っていく。追及も、拘束もない。

 だが、覚えられた。それが分かる。

 

 そそくさと市庁を抜け出し、城壁巡回に戻ったころには、過度な緊張が抜け、リラックスしていた。そしてしっかり頭が働く。単純な仕事は、考えごとには向いている。

 失敗したが、収穫は大きい。巡回には規則があるし、NPCにもレベル差がある。権限という壁が存在するし、探索スキルは、道を示してくれるが、できるとは限らない。


 夜。宿舎に戻る。

 身体は疲れていたが、思考は冴えていた。今日は、失敗した。でも――正しい失敗だ。次は、もっと深く潜れる。そう確信しながら、僕は横になった。



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