城の外
多賀城の外れ。城と市の境界を越えた途端、空気が変わった。
城内から聞こえてきていた祈りの声が、消える。代わりに、風と、獣の気配。
ここでは、神も仏も、距離を取る。
狩りは、ゲームとしては、効率がいい。
一度倒した獲物は、次からはオート処理。
時間は圧縮され、結果だけが返ってくる。
肉。皮。評価点。
そして――穢れ。
この数値がネガティブなものだとはわかるが、毎回、確実に溜まっていく。しかしながら、どんなデバフ、デメリットがあるのか、システムは教えてくれない。
ただ、分かりやすい反応はすぐにあった。
狩りを終えて城下に戻ると、NPCの視線が変わる。
初日にはおぼろげだった視線がより、はっきりとしていた。
「……狩人か」
それは、評価ではない。分類だ。
仏教的にも、神道的にも、嫌われる役割。
この時代、ある程度、神仏習合が進んだ世界では、居場所がない。
「土人かよ」
聞こえるように、言われた。
反論はしなかった。
この世界では、それが正しいのだろう。
城下に与えられた狭い自室に戻るころには、空の色が少し変わっていた。
現実なら、まだ昼過ぎくらいの時間なのだろう。だがこの世界では、一日が、ちゃんと一日として進む。
井戸で汲んできた水で体を拭うと、ちゃんとすっきりした感覚がする。本日溜めた「穢れ」の数値も、目に見えて減った。しかし、完全にではない。
HPも減っている。これは、宿で休むことで回復するそうだ。なので、僕は部屋で横になる。すると瞼が自然と重くなった。
そして、次の瞬間には瞼をこすっていた。鳥のさえずりが、どこからか聞こえる。また、時間が圧縮されたようだ。
眠った感じは確かにある。疲れも取れている。この時間感覚には、少し慣れが必要そうだ。
身支度を整え、自室を出ると、まずは市場に向かった。
市は、朝だからか昨日よりも賑わっていた。
通貨は、基本は米だ。
その質と量でその価値が決まるようだが、なんとなく触れば分かる。当時の人たちの標準スキルとして、このゲームでは設定されているのだろう。なので、NPCとの売買に困ることはない。
他に通貨の代わりになるのは、多賀城の官人が配っている札である。これは、僕たちプレイヤーに配られる。来訪者向けの補給物資でもあり、通貨のようなものでもある。
「城内引換札」
薄い木札で、焼き印のような紋。
任務の達成度に応じて渡され、城の中でだけ使える。
保存食や簡易な護符、道具の修繕などに使えるということだ。
貨幣ではないが、信用の証だ。
猟師である僕にも、最低限の分は渡された。警備をさぼった分、評価は低い。それでも、「完全な不審者」ではないらしい。
他のプレイヤーたちも、それぞれの役割を生きていた。
兵役に就いた者。僧として寺に入った者。市で商いを始めた者。
誰もが、レベル上げという言葉を使わない。
代わりに、
「慣れてきた」
「板についてきた」
そんな言い方をしている。
この世界では、それが正しいのかもしれない。
猟師スキルは、地味だが確実に伸びる。罠の設置が早くなる。痕跡の見落としが減る。
数値は最小限しか表示されない。だが、身体の動きが変わる。それが分かる。
――さて、試してみるか。
どうなるかはわからないけど、早速、僕は市庁内にあるだろう記録保管所、文書庫に潜入することを決めた。




