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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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99/210

バラの花咲く大豪邸

 夕歌さんと話した翌朝に、さっそく蒼龍の電話番号にかけてみれば、午後ならいつ行ってもいいと言われた。

 私は立派な成人女性だから、気を使って手土産の話をしたのに、すげなく「いらん」とか言いやがったから持って行ってやらない。


 せっかく、とんでもなく美味いどらやきがあったのに。神楽坂の名物だったのに。後悔すんなよ!


 お昼ご飯を済ませたら、3人でタクシーに乗って移動する。

 神楽坂から練馬の指定の住所までは、途中の池袋や江古田を通過し、40分くらいで到着できた。そこは駅や大きな道路から少し離れた場所で、まさに閑静な住宅街? そんな感じの場所だった。


 目的地の住所には大きく長い塀と立派な門があり、庭も広いのか道路からは建物が見えない。ちょっと想像以上のお金持ちの邸宅って感じ。なんとくイメージしていたクランハウスとはどうにも違う。


 たぶん、個人宅だよね?

 高級ホテルには少し慣れた私だけど、個人の邸宅となるとまた雰囲気がね。

 ちょっとばかし、緊張してしまうわ。


「表札とかないけど、ここで合ってるよね?」


 でっかく『蒼龍の家』とか書いとけよ。まったく。もし違う人の家だったら気まずいわ。


「地図アプリの表示でも、ここの住所で間違いないわ。インターフォン押してみて」


 なんだか緊張しながらピンポンを押そうと近づくと、


「永倉様、それとお連れの皆様でございますね」

「うおっ」


 突然声をかけられて、驚いてしまった。

 いつの間にか、大きな門の脇にあった普通サイズの入り口が開いていて、どうやらそこから現れたようだ。


「……執事じゃん」


 ザ・執事の称号に相応しい、もう見るからに執事。執事選手権で殿堂入りしていそうな初老の紳士が、優しい笑顔で私たちを見ている。あ、蒼龍杯の時にもいた人だわ。


「ちょっとアオイ。あの、はい。そうです。蒼龍様にお招きされた永倉葵と、そのハンター仲間の九条姉妹です」

「はい、承っております。どうぞこちらへ」


 執事が完璧な執事すぎて、なんだか現実感が薄いわ。

 役作りに徹したプロの役者じゃないのかね、あれは。


 マドカに背中をつつかれて、慌てて小さな扉を潜り抜けた執事を追いかける。

 するとその向こうは真っ白いタイル張りの道が続いていて、道から外れた所にはお金持ちの庭感あふれまくるアイテムが満載だった。


「バラじゃん。バラが咲いてんじゃん」


 そこら中で真っ赤なバラが咲いている。マジかよ。庭にバラが咲いている家とか、そんなのリアルにあるんだ。

 というか、いまの季節ってバラって咲くの? 昼間はまだあったかいけど、朝と夜は結構寒いんだけど。


 生け垣や花だけでなく、小さな噴水やら池やら、よくわからんシャレた何かがいくつも配置されている。でも窮屈な感じは全然なく、それだけ庭が広い。


 タイル張りの道の向こうには、これまた当然のようにバラが咲き乱れる庭に相応しい、ちょっとしたお城みたいな洋館が鎮座している。

 私たちったら、映画の世界に迷い込んでしまったのかもしれない。


 いや、驚き戸惑っているのは私だけだ。お嬢のマドカとツバキは、平然としている。

 これが文明レベルの格差だ。私も早く追いつかないと。


 真っ白なタイルの道が汚れないか微妙に気にしながら歩いていると、アーチ状の雨除けのある玄関扉の前に到着する。

 自動ドアでもあるまいに、両開きの重そうな扉が音もなく開かれると、中からザ・メイドさんがふたりも並んで出迎えてくれた。チャラいミニスカメイドではなく、クラシックスタイルのメイドさんだ。カッコいい。


「いらっしゃいませ。こちらをどうぞ」


 はいはい、言うとおりにしますとも。

 アホみたいに広い玄関で靴をぬぎぬぎして、ふかふかスリッパに履き替える。

 そしてホールに。うん、足を踏み入れる前からわかっていましたよ。


 もう絵に描いたような、お金持ち洋館スタイルの内装ですわ。

 渋いこげ茶色の階段が優雅なカーブを描いて上に伸びていて、頭上には出ましたこれ、シャンデリアですよ。壁には誰かわからん巨大な姿絵が飾られているし、華道でもやってんのかっていう派手に飾り付けられた花瓶もある。


 うん、なんかもういちいち驚くのも飽きたわ。やってられないね。


 私には精神的な場違い感がどうしてもあるけど、マドカとツバキにとっては特になんということのない家なんだろう。

 一応は私も英国お嬢様風スタイルの服装だから、外見的には違和感ないはずだ。アウターのテカテカピンクのスカジャン以外は。でもこれ、背中の虎の刺繍が、マジでイケてるからね。お気に入りだよ。


「蒼龍様は書斎でお待ちです」


 そう言って先導するザ・執事についていく。

 やっぱ広い家って、全体的にゆとりがあっていいね。蒼龍にもらえるクランハウスは、ここまでじゃなくても広いのだったらいいな。


 少し歩いて廊下の途中で立ち止まると、そこにはまた重厚としか言いようがない木製の扉だ。執事が洗練された仕草で扉を叩く。

 すると「入れ」と聞き覚えのある渋い声がした。

 執事が開けてくれた扉の向こうには、前の時と似たようなテカテカしたスーツに黒シャツ、そしてふちなしの細長いメガネをかけたおっさんがいた。そいつが偉そうに椅子にふんぞり返っている。


 蒼龍のおっさん、相変わらずやっぱコワモテだわ。絶対に5人は山に埋めてるわ。貫禄が違うよね。


 しかーし、私だってテカテカ具合は負けてないわ!

 一瞬だけおっさんに背中を向けて、かっちょいい虎の刺繍を見せてつけてやった。どうだね、うらやましいかね?

 ふふん。

 そうしてから遠慮せずに先頭切って部屋に入り、挨拶を決めてやる。


「おいすー、来たよ」


 しゅたっと手を上げる、愛嬌も愛想も満点なあいさつ。

 今日も円滑なコミュニケーションが取れること間違いなしだ。


「ああ、お前は元気だな。そっちは仲間だったな?」

「そうだよ」

「お初にお目にかかります。あたしは九条……」

「いや、堅苦しいって。蒼龍のおっさん、こっちは私のマブダチでマドカとツバキね。ほらほら、座った座った」


 せっかく来たんだし、もらうものだけもらって帰るのもね。ちょっとくらい世間話するのもいい。だったら、堅苦しいのは抜きでいいよ。

 なにやら慌てるマドカは恐縮しながら座り、ツバキはいつもどおりに特別な反応なく座った。

 タイミングを計っていたのか、メイドさんによってティーカップが置かれ、たぶんアールグレイだろう紅茶の香りが広がる。あー、やっぱどらやき持ってくればよかったよ。絶対、紅茶に合うわ。


「遠慮はいらん。永倉のようにリラックスしろ」


 気の利くジジイじゃないか。その一言のお陰か、マドカはようやく落ち着けたみたいだ。

 せっかく伝説のハンターの家にいるんだから、ちょっとくらい楽しんで帰りたいよ。緊張したままでは、楽しめないからね。

 よし、そうとなれば私から世間話でも振ってみようじゃないか。


「そういや、蒼龍のおっさんて練馬に住んでるんだね。世田谷とか六本木? みたいな場所に住んでると思ってたわ」

「何を言っている。ここは俺の家ではなく、お前に譲り渡すクランハウスだ。当然だが、ずっと維持管理は続けていたから、見たとおり不備はない。譲渡にあたっては、お前たちが使いやすいよう手も加えている」


 たしかに、綺麗で立派なお屋敷ではあるね。

 でも、それはおかしいだろ。だって、ここ練馬じゃん。

 私は都心がいいって言ったんですよ。


 ここ、練馬じゃん。

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― 新着の感想 ―
若者にとっては練馬は都心じゃないんよオジサン…….名前名乗るだけだと若者にはわからないよ、蒼龍だよって言えって言われたじゃん
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