怪しげなお仲間候補
和装の凛々しい女子のいなくなったホテルのラウンジで、お茶のお代わりを注文して仕切り直す。
お茶の良し悪しは全然わからんけど、ここのアールグレイ? とやらは香りも味もかなりいいと思う。私の文明レベルは確実に上昇を続けているね。
「いやー、まさか賭博で捕まってるとは思わんよね。私はあんま気にしないけど、ツバキは沖田ちゃんのこと、どう思った?」
「……ええ人とは思ったけど、慣れてへん人と話すのは苦手や」
私とはだいぶ打ち解けたけど、そもそも人見知りだからね。まあ仲間になれば、その辺も大丈夫でしょ。
「マドカは?」
「思い出したのよ。夕歌さんがくれた仲間候補のファイルがあったでしょ? 経歴だけ見て候補から外したパーティーに、沖田さんの名前があったはずよ」
「あ、そういや前科モンのパーティーがあったわ。あれのこと?」
「そう。4人パーティーで、全員が前科持ち。あれは論外だと思って、夕歌さんにファイルを返してしまったけど」
具体的な内容はよく覚えていないけど、なんかそんな奴らのファイルがあったね。
「ほな、夕歌はんにもういっぺん見してもらわな」
「だね。ところでさ、スポンサーの話とかって実際どうなの?」
「沖田さんにはああ言ったけど、あたしはスポンサー契約については慎重になるべきと思っているわ。契約内容によるけどね」
ほうほう、そうなんだ。お金がたくさん入るに越したことはないと思うけど。
「慎重に?」
「基本的にスポンサーだってお金を出す以上は、こちらにあれこれと要求することになるわ。例えば、広告宣伝のためにあたしたちの写真を使うとか、そのための撮影とか。イベントへの出席を求められたりね。武具のメーカーだったら、新製品を使ってほしいとか、あるいはテストに協力してほしいとか。スポンサーによっていろいろよ」
うーん、めんどくせえ。でも、だからこそお金がもらえるわけだ。
「特に厄介なのが損害賠償よ。スポンサーの好感度やイメージを損なう行動をしなければいいのだけど、アオイにその自信ある?」
「え、私たちは美少女だし、何をやらかそうが好感度なんてずっとマックスだよね。イメージなんて下がらないよ」
「あのね、そんなわけないでしょ。あたしだって、アイドルの時は大変だったんだから」
マジかよ。美少女は何をしても無罪でいいだろ。
「まどかおねえは、スポンサー契約いらへんの?」
「いらないっていうか、リスクを抱えてまで契約する必要はないかなって思ってるわ。現状でもお金はかなり稼げてるし、これから深い階層に行けば、レベルを上げるついでにもっと稼げるようになるから」
たしかに。前に計算してもらったことがあるけど、もし下層の第三十一階層で魔石をザクザク取れるようになれば、7人で山分けしても第十七階層の倍近くの稼ぎになるのだ。ダンジョンの下層に行くというのは、それだけすごいのだ!
「そうそう、稼げちゃうからね。イベントに引っ張りだことか、広告に出まくりとか、そんなのどうでもいいわ。普通にストイック系のクランでよくない? 実際、私たちってダンジョンハンターなんだからさ、魔石で稼げばいいじゃんね。外からうだうだ言われたくないわ」
私は芸能人じゃなくてダンジョンハンターなんだよ。魔石を売るだけで十分以上に稼いでいける。
スポンサーとやらに遠慮して、ほしいと思った仲間をあきらめるのは変だよね。
「そうしている上位クランもあるから、考え方としてはそれほど突飛ではないわよ」
「うちはどっちでもええけど……人数集まってから話したらええのとちゃう?」
おっと、それもそうだね。私たちだけで全部決めたら、クランを作る時のメンバーに不満が出るかも。
「とりあえずは、夕歌さんにファイル見せてもらおうよ。沖田ちゃんの仲間のことが知りたいわ」
「そうね」
まだどうするかわからんけど、上手くいけばあれこれ一気に進展しそうな気がする。
私はたぶんハンターしかやれないし、これで生きていくしかない。変な面倒を抱えるよりも、普通にハンターとして成功できればそれでいい。誰に何を言われようがどう思われようが、必要と思った奴を仲間にする。そうシンプルに考えたいし行動したいわ。
そのままホテルで晩メシやらお風呂やらを堪能していたら、ちょうどいい時間になった。
タクシーで東中野まで移動して、ダンジョン管理所に入る。
「おいすー、夕歌さん」
「おいすー、みんな久しぶりね」
今日もいつもと変わらず、このお姉さんは暇そうだ。
ほかに誰もいないのをいいことに、私たち3人はカウンターの中に入り込んで、勝手に椅子に腰かける。すると夕歌さんがポットからコーヒーを注いでくれて、さっそく雑談タイムに突入した。
「蒼龍杯、見てたわよ。葵ちゃん、すごかったわね」
「まーね! あのくらい余裕よ。私ったら、めちゃ強いからさ」
「今日はその報告?」
「そうだね、その辺の報告やら相談やら? あとは富山で稼いできた魔石の換金もよろー。ちょっと数が多すぎるから、時間ある時にやっといて。次元バッグごと渡しとくわ」
4,000体近いモンスターを倒した戦利品だ。つまり、魔石もそれだけある。
「あー、そうしてもらえると助かるわね。このバッグって、ソロダンジョンのじゃないんだ?」
「こういう時用にいくつか買ったんだよ。次元バッグとかめっちゃ持ってるのに」
言いながら大きなバッグを渡してしまう。
深夜に働く夕歌さんは基本的に暇しているから、魔石の査定は私たちが帰った後からやってもらえばいい。
「はーい、後日口座に振り込んでおくわね。1週間くらい待っておいて。あ、そういえば葵ちゃんの相手って、沖田瑠璃ちゃんだったでしょ?」
「あ、それそれ。そのことを聞きたかったんだよ」
「夕歌さん、前に仲間候補としてファイルを渡してくれましたよね?」
それだけで夕歌さんには通じたようだ。席を立つと、机の引き出しからファイルを持ってきてくれた。
「これでしょ、やっぱり仲間にほしくなった?」
「それがさ、沖田ちゃんのほうから誘われたんだよ。4人パーティーだけど、一緒に組まないかーって話になってさ」
「へえ?」
「少し話したんですが、4人とも借金を抱えているみたいなんです。沖田さんの人柄はよさそうだったんですけど、ほかの3人のプロフィールを確認したくて」
マドカはそう言いながら、ツバキと一緒にファイルに目を通し始めた。
「借金? そこまでは管理所のデータにはなかったわね。前科持ちで借金持ちか……元はといえば私から薦めておいてなんだけど、大丈夫そう?」
「会って、話してみてだね。借金の理由とか金額がどのくらいかもわからんし。なんかムカつく感じの奴らだったら、いくら沖田ちゃんはよくてもやめとくよ」
「ほら資料、アオイも目を通しておいて」
「ういー」
これから仲間になるかもしれない奴らの基本情報だからね。一応、見ておきますかね。
マドカがクランやスポンサーについて夕歌さんに質問しているのを聞き流しながら、資料に目をやる。
ふーむ、ふむふむ。
読めない漢字をツバキに教えてもらいながら、のろのろと読み進めた。
まずは沖田瑠璃ちゃん。18歳でクラスがさんぴん侍……さんぴん侍? なんじゃこりゃ。それでもって、聞いた通り前科は賭博と。
次にパーティーのリーダーポジの人が、大蔵銀子で22歳。ちょっと年上のお姉さんだね。クラスが債鬼……うーむ、これもわからん。で、前科が暴行と恐喝って。マジかよ、おっかねー。
そして黒川まゆ、まゆまゆかー、可愛い名前だね。まゆまゆは21歳か。これもちょっとお姉さん。クラスは闇落ち夜鷹……さっきからなんだよ、こいつらのクラス。全然わからん。前科は詐欺ね。
最後に水島梨々花、リカちゃんか。19歳のお姉さんでクラスは池ポチャ回収師。池ポチャ? えっと、前科は賭博と窃盗ね。はいはい。
うん、改めてなんだこの4人組。いろいろおかしいだろ。
前科がアレだし、とにかくクラスが変! おまけに全員が借金持ちなんだよね?
もう意味わからんすぎて、笑っちまうわ。




