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論外と思っていた人たち

 沖田ちゃんと一緒に、マドカとツバキの常宿にタクシーで乗りつけた。

 さっそく高級ホテルに突撃だ。


「こんにちは、永倉さん」

「おいすー、おっさん。マドカ呼んでくださいな」


 私は宿泊客でもなんでもないのに、まるで常連客のようにフロントのおっさんに対応してもらう。もうお互い、慣れたもんだよ。

 間もなくツバキも連れたマドカがやってきて、とりあえずラウンジに移動した。


 さすがは高級ホテルのラウンジと、いつも思う。

 まだ明るい午後の日差しが大きな窓から差し込んで、キラキラしたシャンデリアに反射している。もう見るからに豪華。ピカピカの黒い床といい、優雅な雰囲気も満点だ。この空間にいるだけで文明レベルの上昇を意識できるのがいいよね。


「こっちは沖田ちゃんね。なんか聞いてもらいたい話があるんだってさ」

「アオイの対戦相手よね? ネット中継で見ていたわ」

「そうそう、その沖田ちゃん」


 いまの格好もダンジョン装備も和装だからね。わかりやすいわ。

 適度に人のいるラウンジには、穏やかな音楽が流れている。これも優雅ですわ。

 白い革張りのソファに腰を落ち着けて、簡単にお互いの紹介を済ませてしまう。そうしていると、いいタイミングでピシッとした店員さんがやってきた。


「ご注文をお伺いいたします」


 声のトーンや細かい仕草からして、この人がいるだけで格調高い感じがする。バイトじゃなくてプロだね。


「アールグレイを」

「……うちはハニーレモネード」


 こういう場所に来ておいてなんだけども。オシャレマックスなお店って、コーラとかメロンソーダとかないんだよね。

 しゃーない。味がよくわからんけど、マドカと同じのにしよう。


「私もアールグレイ? それでたのんます。沖田ちゃんは?」

「じゃあ、私も同じもので」


 店員さんはお店に相応しい優雅な感じで注文を復唱し、一礼すると立ち去った。完璧っす。


「あ、沖田ちゃんの話の前に。蒼龍からの報酬、希望通りになりそうだよ」

「本当に? すごいじゃない」

「細かいことは別の日に話すってことになったから、一緒に行こうよ」

「わかったわ。日取りは決まっているの?」

「好きな日を連絡しろって言ってたね。引退してるから、たぶん暇なんだよ」

「そういうことを言わないの」


 うだうだやっている間に運ばれてきた茶で喉を潤し、香りで気分を落ち着ける。これ、文明レベルの高いお茶ですわ。

 さてと、込み入った話をするにはいい頃合いだよね。


「では沖田瑠璃ちゃん、お話をどうぞ」


 心構えのためか、居住まいを正す和装の少女。なんか緊張感あるわ。


「先にひとつ確認したいのですが、永倉さんたちのハンターとしての活動は、3人パーティーで間違いないですか? どこかのクランやパーティーに入る予定はありますか?」


 お、これってもしかして。そういう話の流れかな?

 マドカとツバキと顔を見合わせて、とりあえず私から答える。


「3人で間違いないよ。仲間は募集中だけど、私たちがどっかに入るんじゃなくて、よさそうな相手ならこっちに受け入れたいなって思ってるところ」


 どこかに取り込まれるのではなく、あくまでも私たちに主導権がないと上手くはいかないと思う。私とマドカのスキルは特殊だからね。

 この沖田ちゃんなら、実力的にいい感じ。性格も悪くなさそうだし、仲間に入りたいって言うなら、ひとまず入れてみるのはありだと思う。


「実は私のほうは4人組でハンターをやっていまして。もしよければ、組んでみませんか? 最初は仮ということで構いません」

「え、4人?」


 それは想定外だわ。私たちより多いじゃん。

 いや、沖田ちゃんほどの実力者なら、すでにパーティーは組んでいるよね。そりゃそうだ。


「ちょっと待って。アオイ、ここからはあたしが聞くわね?」


 マドカが何か思いついたような顔をしている。任せよう。


「沖田さん、あたしたちと組みたい理由を教えてくれますか?」

「組みたい理由はいくつかありますが、まずは実力です。永倉さんと対戦してよくわかりましたが、同年代でこれほどの実力者はおそらく他にはいません。その永倉さんが組まれている九条さんたちも、相応に優れた実力者と考えています」


 まあ、それはそうだね。実力を見て組みたいと思うのは、普通のことだよね。


「次に私たちのパーティーが合わされば、人数的にちょうどよいと思ったのと、ハンターとしてのメンバー編成です。私のパーティーは、前衛が私に後衛がひとり、そしてサポートがふたりの編成です。私の見立て違いでなければ、相性がいいと思いませんか?」


 なるほどね。

 私は前衛、マドカは前衛から中衛、ツバキは中衛から後衛って感じだ。そこに前衛と後衛、サポートが加わってもおかしな形にはならない。どんなサポートができるのかっていうのは気になるけど。


「実際に試してみなければわからないけど、編成についてはその通りかもしれないわね。ほかには? 実力とパーティー編成の相性だけ?」


 どんな目的があって組みたいと言い出したのか。疑り深いマドカは気にしているようだ。

 ここで沖田ちゃんは、またもや居住まいを正した。


「……正直に話さなければなりませんね。一番の目的はお金です。私たち4人は借金を抱えていて、これを何とかしたいと思っています。永倉さんたちと組めば、もっとダンジョンの深い階層に進むことが可能になり、効率的にお金が稼げるのではないかと期待しています」


 なんと、借金かい。込み入った事情をぶっこんできたね。


「お金は大事よね。それは借金を抜きにしても理解できるわ。でも、あたしたちじゃなくてもパーティーは組めるはずよ。どうして、それをしてこなかったの?」


 マドカの追及がすごい。


「これもいずれわかることなので、正直に言います。私たち4人は経歴にも問題を抱えています。具体的に言えば、それぞれに前科があります。私の場合には賭博ですが、犯罪歴に加えて借金持ちの4人組では、なかなか話がよい方向には進みません。特にクランはスポンサーの絡みもありますから」


 え、このマジメそうな沖田ちゃんが、賭博で捕まった経験があんの?

 マジかよ。全然、そんな風には見えないね。むしろマジメっぽい雰囲気なのにギャンブラーかよ。なんかすごいわ。


「あたしたちは必要な人数が集まり次第、クランを作るつもりよ。そこはどう考えるの?」

「実力で悪評を見返す、としかいまの私には言えません。ですが、それだけの実力があるとは自負しています。あなたたちは注目のパーティーです。有力なクランからも誘いがあると噂されているのに、そこに加わらないことには理由があると思っています。もしかしたら、私たちがその条件に当てはまる可能性はある、そう考えたからこそ、今日この話を持ちかけました」


 ほうほう、なるほど。私たちがほかの奴らを避けまくっている理由は、沖田ちゃんに限らずあれこれと想像はされているだろうね。

 やっぱり私と元アイドルのマドカ絡みの理由は想像しやすいかも。下手な男や嫉妬深い女は普通に嫌だし、ランキング入りした私の実力も考えれば、弱い奴とは組む気にならない。


 すでにあるクランは人数が多いから、そこに入るとどうしても人間関係がめんどくさい。

 私たちがどこにも入らない理由として、自分たちで独自にパーティーを作り、いずれはクランを立ち上げようとしている可能性は普通に考えられると思う。


 沖田ちゃんはたしかに強かったし、その沖田ちゃんが認める仲間なら同じくらい強いとも期待はできる。

 いまの私たちの目標は、もっと深い階層に行ってレベルを上げ、サブクラスをゲットすること。そしていずれは上級クラスにって感じだ。お金を稼ぎたい沖田ちゃんと目的は重なる。


 スポンサーの重要性を私はたぶん理解できてはいないけど、やっぱり実力重視で仲間は選びたいよね。

 それでもって、いまのところ仲間にしたいと思えて、どこのクランにも属していないのは沖田ちゃんだけだ。


「……どうする? ウチのパーティーはアオイが要よ。アオイが嫌なら、いまの時点でお断りしたほうが双方のためだと思うけど」

「そうだね。私としては沖田ちゃんはいいと思ったけど、でも仲間にするなら4人まとめてだよね? なら、ほかの人たちとも会ってからじゃないと何とも言えないわ。あとクランのこととスポンサーのことも、もう一回よく考えたいね。深い階層に行きたいって考えは合いそうだけど、それだけじゃ決められないよ」


 この場でさくっと決めることではないよね。


「ということよ、沖田さん。お互いのパーティー内でも話し合って、今後を考えましょう。とりあえずは、連絡先だけ交換しましょうか」

「はい。今日はこちらの意思をお伝えしたかっただけなので。では私はこれで」


 沖田ちゃんはそう言うと、千円札をテーブルに置いて去っていった。

 借金があると言っていたのに律儀だね。私なら絶対におごってもらう。ついでに帰りのタクシー代もせびるのに。律儀な女子だね。


 さて、マドカには何か思うところがありそうな雰囲気だった。

 なんだろうね? もし嫌なら、無理に合流するつもりはないんだけど。

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