レジェンドからの報酬
派手なキラキラしたハンマーがたくさん現れて、地面と沖田ちゃんをドドドンと叩いて終わり。
いい感じのフィニッシュだったのでは?
戦った時間は短かったけど、沖田ちゃんのお陰もあって私の実力をちょっとは披露できたよね。
これで私を勧誘するんじゃなく、私のパーティーに入りたい! そう多くのハンターに思わせられたらいいのだけど。
ついでに弱い奴らが身の程を知って、気やすく私たちに声をかけないでくれよと思う。
倒れた沖田ちゃんには、スタッフの人が3人も駆け寄って様子を見つつポーションを使っていた。
どうやら気を失っているわけでもないらしく、スタッフの呼びかけに反応している。タフだね。
というか、沖田ちゃんだよ。強いし年も私と近いし、仲間になってくれないかな?
前にここで戦ったスカウトマン、あれはレベルが結構高かった気がするけど、あんなのよりずっと強かった。戦った感覚的に、平均的なステータスはマドカと変わらないように思う。そうだとすれば、レベルも私たちに近いはず。
あとでちょっと声だけでもかけてみようかな。言うだけはタダだしね。
「それにしても、ホントうっさいわ。全然、聞こえねー」
マイクを通して何かを言われている気がするけど、ダンジョン内の反響がすごくで耳がおかしくなりそう。
まあ盛り上がっているということは、それだけ評判になる戦いだったってことでいいんだよね。たぶんね。
有象無象の観客をなんとなく見回していると、いきなり静かになった。急に無音になったんだけど。
びっくりしていると「永倉」と渋い声をかけられた。
「おお、蒼龍のおっさん。これって魔法道具?」
「遮音の魔法道具だ、範囲は狭いがな。それより永倉、その装備はどこで手に入れた?」
細長メガネの奥の目が鋭い気がする。ハンマーとブーツと魔法学園の制服ルックは、特に目立つからね。
私の装備はどれも見るからにめちゃ強い感じあるし、そりゃあ気になるか。伝説のハンターなら目利きもできそうだし。
「ほとんど東中野ダンジョンだよ。ま、私はちょっとスキルが特殊だから、誰の参考にもならないけどね」
「そうか。たしかにそれなら、俺から武具を贈る必要はないな。報酬はクランハウスでいいのか?」
「うおっ、くれんの? クランハウスくれんの? やった!」
「とっておきをくれてやる。後日、この紙に書かれた場所に来い。細かい話はその時だ」
あらかじめ準備していたのか、小さな封筒を差し出されたので素直に受け取った。
「オッケー。後日って、いつ行けばいいの?」
「前もって連絡さえすれば、いつでも構わん。連絡先もその中だ」
「じゃあ早けりゃ1週間以内ね。遅くてもそうだね、今月中には行くよ。仲間にも話すから、みんなで一緒に行っていい?」
「好きにしろ」
うおー、やった。クランハウスをゲットしちまったよ。これって、めちゃでかいよね。
しかも伝説のハンターが、とっておきなんて言うくらいだからね。きっと超すごいクランハウスに違いないよ。高級住宅街の豪邸で、さらに広い庭までついちゃう感じとか?
こいつはめっちゃ、わくわくしてきたわ。
それにしても、これでホテル暮らしともおさらばかー。ホテルはホテルで便利だったから、ちょっとだけ名残惜しい感じはするね。
あ、タワマンを買う前に、クランハウスとはいえお家をゲットしちゃった。これも運命ってやつかね。
「沖田、体はどうだ?」
蒼龍の声に、あれこれとした妄想から現実に意識が戻った。
立ち直った沖田ちゃんが、しっかりした足取りで近づいていた。
「大丈夫です」
「なら早速だが、報酬を受け取れ。沖田、お前にはこれだ」
おっさんは足元に置いた次元バッグから、立派な刀を取り出した。
光の加減で青っぽく見える黒い鞘と柄のそれは、とても綺麗であると同時に、寒気を感じるような異質な存在感があった。なんかすごい武器っぽい。
「……冷たいですね」
受け取った沖田ちゃんがびっくりしている。どうやら冷え冷えになっているみたいだけど、まさか冷たいものと一緒に保管でもしてんのかね。マジかよ。
「これは『迅雷・村雨丸』という。少しだけ抜いてみろ、ゆっくりとだ」
言われた沖田ちゃんが、慎重な手つきでちょっとだけ刀身が見えるように抜いた。
その時からモヤモヤと刀から霧が発生し始める。ついでにちょっと寒くなってきた気がする。
なんだよ、それ。超すげー!
「その刀の真価は使っていればわかるだろう。言っておくが、お前のための刀だ。金に換えるなよ、俺でも二度とは手に入らん」
「私の事情をご存じなのですか?」
「本選考に通した者の身辺は確認している。お前たち程度の問題であれば、この永倉に手伝わせればいい。簡単にカタがつくだろう」
「はい、そうできればと考えていました。蒼龍様、もしかしてこの組み合わせも?」
「特別な計らいをした覚えはないが、そもそもお前以外で永倉の相手が務まる同年代はそういない」
なに? なんの話? 問題ってなに?
ふたりで通じ合っちゃって、なんなんだよ。
「永倉、あとで沖田の話を聞いてやれ」
「え? あー、うん。別にいいけど」
よくわからんけど、聞くだけならね。なんか思わせぶりで、気になるっちゃ気になるし。
「このすぐあと俺の会見がある。興味があるなら残れ」
「それは全然、ないわ。じゃあ沖田ちゃん、行こうよ」
「はい、行きましょう」
イベントは終わりみたいだから、ふたりでささっと退場することにした。
更衣室にもまだ残っているハンターがいたので、余計な話はせずにここでもささっと着替えてしまう。沖田ちゃん、普段着も和装なのか。なかなかファンキーだね。
目配せしてダンジョン管理所の外に出たら、ナイスタイミングで現れたタクシーを捕まえた。
「永倉さん、どこへ?」
「なんか話があんだよね? だったら落ち着けるところがいいよ」
よくわからんけど、こっちからも話がある。
タクシーのおっちゃんにホテルの名前を言って出してもらった。
「私の仲間も一緒に聞いていい?」
「それは私にとっても都合がいいです」
「都合? ふーん」
なんだろう。蒼龍のおっさんも思わせぶりなこと言ってたね。
気になるからはっきりしてもらおっと。ややこしい話じゃなければいいけど。
うん、やっぱややこしかったら聞かなかったことにしよう。
悪いけど、私たちも忙しいし!