技巧派対決!
いよいよ沖田ちゃんと対戦だ。出てこいやと呼ばれたので天幕を出れば、すごい歓声というか怒号のような声がうるさいわ。
ダンジョンの壁や天井に声が反響して、何を言われているのかさっぱりわからん。
「うっさいなー」
アクセサリー一式に、魔法学園の制服ルックとロングブーツのいつものハンター装備。そこにハンマーと投げ斧を持つのが、私の普段のスタイル。
でも今日は投げ斧はなしでいい。あれはたくさんのモンスターを倒すためには便利だけど、今日みたいな戦いにはいらないね。
頼れるハンマーさんがあれば、私は誰にも負けないと言い張ってやる。
あと今日は単に勝てばいいわけじゃない。仲間集めの宣伝のためにも、わかりやすいパフォーマンスが重要になる。そいつを意識して戦わないとだ。
もしかしたら、それは相手の沖田ちゃんにとっても同じかもしれない。
ずんずん花道を進んで行けば、相手もちょうど中央に到着する感じになった。
少し離れた場所で立ち止まって、向かい合う。
誰かがマイクを通して何か話しているようだけど、うるさくて全然聞こえないわ。その間は自然とお互いの雰囲気や装備を観察する時間となった。
「ふーむ、ふむふむ」
相手の沖田瑠璃ちゃんは、とってもキリリとした印象の女子だ。年は私よりも少し上くらいかな。そもそも16歳から20歳の部だから、どれだけ年上でも20歳より上ってことはない。
装備は袴姿の和装。上は水色と白のグラデーション? 下は紺色っぽい感じで、普通の和装ならありそうな柄がない。当然ながら普通の布製とは違うはずで、武骨な装備としての風格をほんのりと感じる。
金属感バリバリの防具といえば、右手の甲から腕を覆うものくらいかな。袴の丈が長くて足元はよく見えないけど、たぶん草履ってことはないだろうね。
唯一見えるところにつけているアクセサリーは、左手首にある細くて青い腕輪だけ。あの腕輪、どっかで見たことある気がするけど、どこだっけな。気のせいかな。
そして一番大事な武器だけど、なんでか沖田ちゃんは持っていない。まだ次元バッグから出してない? 隠したいのかな。
いや、そもそも次元バッグを装備していないようにも見える。もしかして、あの右手の手甲で殴る戦闘スタイル? それにしては左手には同じような装備をつけてないのが気になるね。
まあなんだろうが、どんとこいだ。
どんなスキルを使うのか、どんな戦い方をするのか、全然わからんのがわくわくする。
私と同じように観察していた沖田ちゃんは、いまは目を閉じて集中している。やる気は十分のようだね。
いつ始まるのかなと思っていたところで、すでにうるさかった歓声がより大きくなった。
うるせえなと文句が口から出そうになった瞬間に、下がりつつ連続で立ち位置を変える。止まっている暇はない。
「うおいっ、いつ試合始まったの!」
全然わからんかったんですが。まさかのフライングじゃないよね?
縦横無尽に振られる刀をすいすいと立ち位置を変えることで避けまくる。その刀もいつどこから取り出したの?
ちょっと仕切り直すかと思って間合いを離したら、すいっと空中を滑るような不自然な動きと速さで迫って来られた。
そういうスキルっぽいね。そして、私は見た。
刀を振ろうとするその瞬間に、彼女の手には刀がなかった。でも、振り始める瞬間には刀を握っている。意味わからん。幻の刀、なわけはないよね。
しっかし、沖田ちゃん。これ結構強いわ。基礎的なステータスがどうのというより、技術が高い。
ウルトラハードモードのダンジョンで戦ったイレギュラーモンスターで、技巧派の奴らと何回か戦った経験を思い出す。
思い返せば私はそいつらのお陰で技術をぐぐんと伸ばせたところがあるけど、沖田ちゃんはあの時の感覚に近いものがある。イレギュラーモンスターに比べたら、全然余裕あるけどね。
そして、沖田ちゃんほどの実力者ならわかったはずだ。
ここまでの短い攻防で、私がまだまだ本気じゃないことを。
だからか、攻撃が加速している。力を尽くしてさえ、私にどれだけ届かないか。その差を見極めようとしているから、防御のことを全然考えていない。結構、無茶するね。
聞こえないけど何かを叫びながらの多段突きを、避けるのではなくスキル『カチカチアーマー』で防御した。
いまの攻撃は威力はそこそこだけど、とにかく多段に繰り出す速度がすごかった。必殺技的なスキルかな。
「なかなかやるじゃん」
カクカクした透き通ったバリアに弾かれて、普通なら体勢を崩すところを沖田ちゃんはスキルの移動能力で立て直す。そういうところも巧いね。
全力攻撃でちょいと息が上がってきたのか、沖田ちゃんの攻勢が鈍ったのを見逃さない。もうネタ切れかな、だったらこっちの番だよ。
「ほいよー!」
ちょいっと地面を蹴ったら、ハンマーの間合いに捉えてしまう。
どうする? このタイミングは避けられないよ?
目線で送る無言の警告は通じただろうか。
上から振り下ろしたハンマーは肩を狙ったものだけど、刀では防いでも受け止められない威力があるはず。私のほうがパワーは圧倒的に上だよ。
「おらよっと!」
防御の姿勢を取らなかった沖田ちゃん。硬直したように無防備な肩に命中したはずのハンマーが打ったのは、なんと幻だった。
ここまで幻と戦っていたわけはない。身代わりの術みたいなスキルだろうね。あのタイミングでよくやれたものだ。これも巧いし、気づけなかったのが怖いくらいにすごい。
幻を打って消えた瞬間に、すぐ近くに本物の沖田ちゃんが現れる。
これを連続で叩いてやろうとすれば、今度はすいっと動くスキルで逃げられた。
でも甘いよ、逃がさない。ひと息つけると思わないでよね。
追い抜くくらいの勢いで追いかけて、今度は身代わりの術も効果ないくらいの攻撃を繰り出すことにした。
こっちも必殺技でいくぞ。
「おらーっ、『キラキラハンマー』くらえっ!」
振りかぶる実体のハンマーに合わせて、魔法のハンマーがいくつも出現し、点ではなくちょっとした面での攻撃みたいな感じになる。
これを避けたり防いだりできるかな?
「あ、これはダメか」
わかっていますとも。
私ったらホントに強いからね。本気出したらやっちまいますわ。
体を縮めて防御姿勢を取った沖田ちゃんを打つことはせず、キラキラを消してハンマーも寸止めだ。
ところが勝負あり、と思ったのは勝手な判断でしかなかった。
沖田ちゃんは勝負を捨ててない。
寸止めしたつもりのハンマーを恐ろしく速い前転で避け、その勢いのままに、またいつの間にか手に持った刀で渾身の突きを繰り出す。超至近距離のこれは、普通は避けられない。
「おらーっ」
やらせはしないよ。一連の動作は、最初の動き出しの時点で予測できている。私ったら強いからね。
前転に合わせてぱぱっと下がり、お腹に向かって突き出された刀をすくい上げるハンマーの一撃で吹っ飛ばした。
おおー、これでも終わらないか。根性あるねえ。
刀を失ったはずの沖田ちゃんの手には、また違う刀があって即座に横薙ぎに振るわれる。
ただ、これは力が乗ってないね。
手首を蹴っ飛ばして刀を逸らし、振り上げたままのハンマーをくらわせてやる。
「今度こそ『キラキラハンマー』じゃい!」
最後まで諦めない沖田ちゃんは、移動スキルと身代わりの術まで駆使して逃れようとしたけど、範囲重視で発動したスキルからは逃げられない。
キラキラしたハンマーの群れが広く地面をぶっ叩く。手ごたえあり!
かなり手加減したけど、沖田ちゃんにも当てちゃった。なかなか強い子だし、この程度の威力なら大丈夫だよね。
「ふいー、勝ったー」
見たか! ま、いっちょこんなもんだよ。
短いけど沖田ちゃんの実力の高さもあって、ちょっとは見ごたえある戦いになったはず。
うんうん、歓声がアホみたいにうるさいし、評判は悪くなさそうだね。




