ちょっとした先々への展望
伝説のダンジョンハンターが企画したイベント、その名も蒼龍杯。
パンチングマシンで上位に入ったハンターに招待状が送られ、参加した時点で伝説のハンター『蒼龍』が所有する何かをもらえる。そんなイベントだ!
蒼龍杯への参加者は、まず予備選考に挑み、それを勝ち抜けば本選考に参加できる。
予備選考では期間内に集めたポーションの売却価格で競い、本選考は予備選考突破者同士で戦うという流れだね。その本選考も明後日に開催される。さっさと終わるのはいいことだと思う。
改めてパンフレットを読み返すと、ちゃんといろいろ書いてあるね。
でも難しい字が多くて、読む気が失せるんだよなー、もう。
タクシーで移動し、ダンジョン管理所を歩いていると、聞きたくなくても噂話が勝手に耳に入る。
「なんか結構、話題になってるっぽいね」
本選考に出場が決まった翌日、私たちパーティー3人は朝もはよから集まっていた。
いつもの調子を取り戻すべく、久しぶりに神楽坂ダンジョンで労働だ。
「結構どころか、ハンターの間では蒼龍杯の話題で持ちきりよ? なんでアオイが他人事なのよ」
「いくら伝説のハンターっていったってさ、所詮は引退したジジイの道楽じゃん。大げさじゃない?」
「だから、そのくらいすごいハンターだってことよ」
そんなもんかね。というか、関係ない奴らが気にしてどうすんだって思うけど。
「予選で落ちた連中は、すでに報酬をもろうてるらしいなぁ」
もうかよ。誰が予選を突破するか、査定の前にはわかっているようなことは聞いたけどね。それにしても報酬を渡すのが早すぎる。いつ渡したんだよ。
「それも含めて話題になっているわ。数人が報酬の内容を明らかにしていたけど、参加者自身よりも少し上のランクの武具が与えられているみたいね。特にレベルの高いハンターにとっては、破格の参加賞よ」
「ちゅうことは、予選を突破した人たちは、もっとええ報酬があるってことやんな」
それはそうだよね。期待してもいいはず。
ただ、私は武具はもういいのがあるから、装備系はいらないんだよね。せめて、もらえる物が選べる方式ならと思ってしまう。あのいかつい査定係のおっさんには、クランハウスがほしいって言ってあるから、蒼龍が気を使ってくれたらいいんだけど。
なんにしても他人からめぐんでもらう物のことで、あれこれ考えても仕方ないよね。とりあえずは本選考で勝つことを考えよう。
「ねえ、蒼龍杯のことはいいとして、それが終わったらもっと深い階層を目指さない?」
「うちも思うとった。富山であれだけモンスター倒したのに、うちはひとつもレベル上がってへん」
いつものようにダンジョンに突入し、真の自由を感じながら着替えていると、マドカとツバキが言った。
たしかにね。私もレベルは上がってない。ガラスの森ダンジョンでは第十五階層をメインに戦っていたから、普段の神楽坂ダンジョン第十七階層よりもモンスターのレベルが低かった。
マドカはレベル16から17に上がったけど、私とツバキは変わらずだ。
たぶん4,000体近いモンスターを倒したはずなのに、もらえた経験値が案外しょぼい。というか、レベルアップに必要な経験値が多すぎるんだよ。
「いいね、深い階層目指そうよ! お金はだいぶ稼げたし、しばらくは経験値重視でやっていこっか」
ポーションの売却で、ひとり当たり1億4千万円近い取り分になった。貯金も合わせると、タワマンが余裕で買えてしまう額がついに貯まってしまった。
でもなんだろう。人というのはわがままなものなんだね。
いざ買えるだけのお金が貯まると、割と慎重な気持ちになってしまう。
そして、ひょっとしたら蒼龍からクランハウスをもらえるんじゃないかと思えば、タワマンを買っても意味ない可能性が出てきてしまった。
何か別のすごい物を買うのもいいし、クランハウスがダメならもっと超すごいタワマンを買うのもいい。
東中野で一番のタワマンではなく、日本で一番のタワマンを狙うのだってありだ。
日本一のタワマンがいくらか知らないけど、きっと何倍かはするよね。夕歌さんやマドカに言ったら馬鹿にされそうだけど、蒼龍杯が終わったら相談しよう。そうしよう。
ふふふ、どうせなら狙うは日本一だよ。
「次の目標は、サブクラスの獲得ね」
「おうよ!」
次のレベルまでは、どんなもんだっけかな?
■星魂の記憶
名前:永倉葵スカーレット
レベル:18(レベル上昇に必要な経験値:311,888)
クラス:はぐれ山賊
生命力:72(+1,440)
精神力:72(+2,880)
攻撃力:72(+3,060)
防御力:72(+1,440)
魔法力:72(+1,530)
抵抗力:72(+1,350)
運命力:588
スキル:ウルトラハードモード(試練を与える。ダンジョン難易度の上昇、難易度に応じた報酬獲得率アップ、成長率が難易度相応に変化)
:ソロダンジョン(専用のダンジョンに入ることができる)
:武魂共鳴(装備品が使用者と結びつき、レベルに応じて成長する)
:毒攻撃(攻撃時に毒ダメージを与える)
:星の糸紡ぎ(星魂紋の詳細が可視化される)
:状態異常耐性(状態異常への耐性を得る)
:カチカチアーマー(カチカチしたシールドを召喚する)
:キラキラハンマー(キラキラするハンマーが追加攻撃する)
:生命力吸収(攻撃時のダメージに応じて、対象から少しだけ生命力を吸収する)
:念動力(念じることより物体に干渉する)
:健康体(病気知らず)
クラススキル:拘束具破壊(拘束具を簡単に破壊できる)
:威嚇(威嚇対象に恐怖感を与える)
加護:弁財天の加護(魅力・芸術能力・財運アップ。五頭龍をソロ討伐し弁財天に認められた証)
:厄病神の加護(災厄を返し悪因悪果を与える。疱瘡悪神をソロ討伐し厄病神に認められた証)
:瀬織津姫の加護(精神力増強、攻撃力増強、スキル威力増強。戦闘技術を磨き瀬織津姫に認められた証)
:座頭法師の加護(演奏能力・呪いへの耐性アップ。暗闇での視界が利くようになる。座頭法師に認められた証)
ふーむ、レベルアップはまだ先だね。
今日のところは蒼龍杯に向けた肩慣らしとして、計算するとこの第17階層で戦うなら、あと1,300体くらいのモンスターを倒さないとレベルアップできない。
それでやっとレベル19になれる。レベル20に上げるならさらに大量の経験値が必要になると思えば、第十七階層で稼ぐのはちょっと厳しそう。
効率のいいお金稼ぎと戦闘技術を磨こうの期間はとりあえず完了できたとして、そろそろ次に進むべき時期ってことだろうね。
よっしゃ、サブクラスでは超カッコいいクラスをゲットするぞ。
これはもう、絶対に! そのためにがんばってるんだから。
数時間ほど次から次へとモンスターを倒しまくり、ちょいちょい休憩をはさむ。
元からここで戦いまくっていたけど、富山遠征を経て私たちは個人個人の戦闘力が高まっているし、連係力もだいぶいい感じだ。
ここで新たなメンバーを入れてしまえば、3人での完成形に近いと思うこれが一時的に崩れるよね。それを惜しいと思うと同時に、人数が増えた状態でいまのような状況にまで持っていければ、無敵の超つよつよパーティーの誕生だ。私はそれを楽しみにしたい。
今後を思えば必須でもあると思う。
私としてはいけるなら、レベル50でゲットできる上級クラスを目指したい。
でもそこまでレベルを上げるなら、第五十階層近いところまでいかないと無理だ。モンスターの強さはこことは比較にならないだろうし、3人では厳しくなるのは簡単に想像できる。
先を考えれば、新たな仲間はなんとしてもほしい。
蒼龍杯後はより深い階層を目指しつつ、仲間集めもがんばろう。
「葵姉はんの対戦相手、決まっとるな」
労働後にメシ屋でまったりしていると、ツバキがそんなことを言った。
「発表されてんの?」
「これよ」
マドカもチェックしていたらしく、スマホの画面を見せてくれた。
「ふーん、沖田瑠璃? 名前だけわかってもね。もしかして有名人とか?」
「あたしは聞いたことないわね。いえ、待って。どこかで見たような……ツバキ、見覚えない?」
「うちは記憶にあらへん」
別に誰が相手でもいいよ。
関係なく勝つんだからね。もうボコボコにしてやるわ!




