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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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予備選考の行方

 査定のために入った部屋をきょろきょろ見回してみれば、かなり殺風景だった。


 刀や壷が飾ってあったり、達筆の書が壁にかけてあったりもしない。なーんもない。

 ほとんど物がなく、ちょっとした棚と大きなテーブル、それと椅子がいくつかあるだけ。普段は使っていない部屋っぽいね。


「何をしている、そこに座れ」


 まあ座るけど。テーブルを挟んで向かい合う形で腰を下ろす。

 細長メガネの向こうの目が、異様に鋭い気がする。タダモンじゃないわ、こいつ。

 それにしてもだよ、めっちゃ見てくる。なんだろうね?


 いやらしい感じとは違うと思うけど、ちょっとキモイわ。

 というか、なんか私が品定めされているかのような感じで気に食わない。

 査定するのは私のことじゃなくて、ポーションのはずだよね。


「えっと、とりあえずポーション、いっぱいあるんだけど。全部出したらいい?」

「ああ。先に聞くが、何本あるんだ?」


 聞いて驚け!


「ポーションが670本に、上級ポーションが90本だよ。これでよろ」

「全部買い取りでいいのか?」


 うお、特別なリアクションなし。我ながらちょっとおかしい数を言ったと思うんだけどね。

 肝の据わったおっさんだ。上等だよ。


「うん、売りたくないのは別に取ってあるし。これは全部買っておくれ。じゃあ、出してくよ」


 小瓶をせっせと数本ずつまとめて取り出しては、テーブルの上にどんどん置いていく。とんでもない数を実際に見れば、少しは驚いてくれるかも。

 ところがだよ。ロクに見もせず、おっさんは回収して別の次元バッグに放り込んでしまう。


 ホントに査定できているのかね?

 あとでケチをつける気じゃあるまいね?

 そんなセコくはないよね?


 なんにしても、こいつ動きが速いわ。

 怒涛の勢いで小瓶を置いていくそばから、回収されて消えていく。この私についてくるなんて、なかなかやるじゃん。

 意地になって素早く置いているのに、全然余裕で対応されてしまう。


 ハハッ、やるじゃん。でも本気の私についてこれるかな?


「うおおーーーっ」


 負けるかよー!

 せっせ、せっせ、せっせ!



 ――微妙に息が上がってきたところで、ふと我に返った。ちょっと待てい。


 いや、普通におかしいだろ。

 絶対に査定なんかしてないだろ。

 ポーションの代わりに栄養ドリンク置いてもバレないだろ。

 そんな気がして仕方ない。なんだよ、こいつ。

 はあ、疲れた。


 残りわずかとなっていた小瓶をのろのろと数回に分けてテーブルに置いたら、これで終わりだ。

 だいたいの金額はあらかじめ、マドカから教えられている。もしそれと全然違ったら、文句を言ってやる。


「たった7日間で、よくこれだけ集めたな」


 何気ないその発言にちょっと驚いた。


「え、もしかしてわかるの?」


 予備選考は11月3日からが正式な開始日で、そこから7日間でポーションを集めろというものだった。

 でもそのポーションをいつゲットしたかなんてわからない。だから開始日のずっと前から集め始めるのが当然、みたいな考えが主流だったと思う。


 私たちはいろいろあって出遅れた上に、富山入りしたあとでも最初は遊びまくってしまった。その影響で、図らずもルールに沿った日付からポーション集めをしていた経緯がある。

 だからここに持ってきたのは、ドロップしたての新鮮ポーションばかりだ。


「ポーションには消費期限があるのを知っているか?」

「へえ? そんなのあんの?」

「十分な効果を見込めるのは3年までだな。ドロップから5年以上も過ぎたポーションなど使い物にならん。つまり、劣化するということだ」

「あーっと。じゃあ、その劣化具合を査定してたってこと?」

「それができなければ、査定にならんだろう。ゴミが混ざっている可能性もあるからな」


 マジかよ。あのスピード感で、しかもそんなちょっとの劣化を?

 数か月とか年単位の劣化ならともかく、数日程度の劣化を見極めたと? マジかよ。


「どうやってんの? ダンジョンの中でスキル使うなら、わからなくはないけどさ」

「ダンジョン外でもある程度のスキルは使用可能だ。かなりの習熟は必要になるが……そんなことも知らんのか?」

「へー、そうなんだ」


 普通に知らなかったわ。このおっさんは常識のように言うけど、夕歌さんやマドカからも聞いたことがない。ホントかね。


「それに魔法道具の多くは、ダンジョン外でも使用可能なものが多い。マジックバッグはお前も使っているだろう。これもそうだ」


 あ、そのメガネがそうなのか。なるほど。

 いやー、それにしたってちょっとおかしい気がするけどね。いろいろさ。


「まあいいや。それで、査定の結果は?」

「文句なしだ。現金を用意するから少し待て」


 おっさんは足元にあったまた別の次元バッグをテーブルに乗せると、ごついケースを5つ取り出して、4つをこっちに差し出した。

 さらに5つ目をぱかっと開けると、札束を取り出して雑に積み始める。その積まれた束に加えて、端数のお札をさらに重ねた。


「これで全額だ、確認しろ。そのケースには1億ずつ入っている」


 おっほほー!

 遠慮なく4つのケースを開け放って、詰め込まれた札束を確認。さらにテーブルに積まれた札束もちゃんと数えるよ。

 うん、間違いなさそうっていうか、細かい数字までは合っているのかどうかわからん。目標の4億は超えているから、とりあえず大丈夫っぽい。


「ところで私って、予選通過できると思う? できるよね? さすがにさ」


 ぶっちぎりのトップ通過が目標だった。そのためにがんばったんだからね。


「お前はトップ通過だ」

「え、断言? なんでわかんの?」


 いやいや、私たちは結構早い時間に査定に来たはず。もう結果がわかるなんて、それはおかしいだろ。


「予選に挑むハンターの動向はつかんでいる。査定の前から、ある程度の順位は見えていて当然だ。正式な順位は今夜発表するがな」


 そういうもん?


「永倉、本選考には必ず参加しろ。いいな?」

「まあうん。そりゃ出るよ。賞品ほしいし」

「何か希望はあるのか?」


 もしかしたら、このおっさんが蒼龍のジジイに伝えてくれるのかも?

 別に秘密にすることはないし、正直に言っておこうかね。


「希望なら、クランハウス一択だよ。都心にあって、土地と建物が立派なやつね。私のパーティーってみんなホテル暮らしだし、これから先にクランも作りたいからさ。すっげーのもらえるなら、ほしいじゃん?」

「そうか、わかった」

「よしなにたのむわー」


 これで会話は終わりとばかりに、おっさんが立ち上がった。

 私だって長居したいとは思っていない。お金を次元バッグに放り込み、これにて退散だ。


「ほいじゃねー」


 なんだよ、見た目はめちゃ怖いおっさんだったけど、普通に話せる感じだったわ。人は見かけによらないね。

 部屋を出て廊下をとっとこ歩いていると、足音で気づいたのかマドカとツバキが姿を現した。


「どうだった?」

「予想どおりの感じで売れたよ。細かいことはあとで話すわ」


 ちらほらと私たち以外のハンターらしき人たちがいる。査定にやってきているらしいね。

 あんまり自慢げに話すと、また変な噂が出回りかねない。

 人前で余計なことは言わなくていい。用済みのここからは、ささっと出ることにした。


 そういや蒼龍はたくさんポーションを買い取ってどうするんだろうね。しかも割高でさ。夕歌さんは溜め込んだ資産を処分するつもりとかどうとか言っていたけど、その一環でお金をバラまく感じなのかな。

 まあ私は得したんだし、ジジイがどういうつもりかなんて、どうでもいいやね。



 査定を終えた私たちは、その日は休みにした。旅の疲れが残っている感じで、どうにも調子が戻らない。

 ちょっとだけ買い物をしたら、マドカとツバキの部屋でゆっくりまったりと時間を過ごした。


 そしてその夜、予備選考の結果が発表された。


 マドカのスマホに表示されたそこには、16歳から20歳の部のトップに私の名前があった。

 査定係のおっさんからフライングで聞いてはいたけど、私が間違いないくトップだ。


 がははっ、やっぱ結果が出ると嬉しいね。

 勝ったー!

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― 新着の感想 ―
しょーもない事で張合うなしw と思ったけど葵ちゃん中卒でそういうお年頃だったわね 若い娘さんだから許される愛嬌や!
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