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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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ブルジョワな戦い

 ガラスの森ダンジョンで、本格的に活動を始めて5日目。

 私たちはほかのハンターがそうしているように、夜に活動していた。


 ホテルには早朝に帰り、朝っぱらから温泉に浸かって、朝メシを食べたらすぐに寝る。

 起きたらまた温泉に入って、夕方まで悠々と休む。そして晩メシを楽しみ、食休みをはさんだらダンジョンに出勤。


 普段との違いは、昼夜逆転生活と温泉、そしてご飯が豪華。すぐに飽きるだろうけど、いまのところは楽しい毎日だよ。悪くないね。


「おいすー、ギャル。登録よろ」

「あんた、毎回言ってるけど、なれなれしいんだけど。ギャルじゃないし」

「いや、誰がどう見てもギャルだから。それに名前教えてくんないじゃん」


 ダンジョン管理所受付係のギャルはちょっと気難しい。もう慣れたけど。

 やいのやいのやっていると、受付に並ぶ列の後方から不穏な声がした。


「だから、割り込むなと言っている」

「あ? そっちが割り込んでんだろうが!」

「いいか、小僧。ケンカ売るなら、相手を選んでからにしろ」

「なんだと?」


 うるせえな。ケンカなら外でやれよー。

 誰だよと思って後ろをチラ見すると、すらっとした黒スーツの女と不良っぽい若者が、顔を突き合わせるようにしてにらみ合っていた。


「おい、ここじゃマズい。出禁になっちまったらどうすんだ」

「てめえもいい加減にしろ。次にトラブったら、クビだって言っただろうが」


 ケンカになるのかと思いきや、お互いの仲間が仲裁に入ってすぐに引き離した。

 不良集団が外に出ていき、黒スーツの女のほうも袴姿やケバケバしい感じの女と一緒にいったん列から離れた。

 嫌だねえ、ピリピリしちゃって。


「アオイ、何してるの。行くわよ」

「ほーい」


 よし、今日も元気にダンジョンアタック。

 いっぱいポーション稼ぐぞ。



 私たちの狩場は第十五階層に定まっている。

 もうちょい先の階層にも行ってみたけど、ポーションゲットの効率がいいのはここしかない。それというのも、第十六階層からはモンスターの防御力が異常に高くなって、マドカのロッドでの撃破が厳しくなってしまった。それに加えて、モンスターの出現数があまり多くない。


 逆に第十階層から第十五階層までは、防御力が弱いモンスターが数を頼みに襲ってくる感じだった。

 数は脅威になる一方で、ドロップ狙いのハンターとっては都合がいい。


 初日はほぼ移動、2日目は移動と狩場選び、そして3日目から第十五階層を根城にバリバリ戦い、今日が5日目だ。もう結構慣れたね。


「ういー、あらかた片付いたー。ちょっと休んだら次ね」

「もうモンスターより、ドロップアイテムを集めるほうが大変よね」

「……うち、腰痛いわぁ」


 ホントに。毎回そうだけど大量にモンスターを倒すと、そのあとの魔石やアイテム集めが疲れるしめんどくさい。

 時計を見れば、ダンジョンに入ってから4時間くらい経過していた。


「まだ、ぶっちぎりで勝つには足りないわね。残り今日を含めて3日、このペースで続けないと」


 富山に到着した直後は遊び気分だったくせに、ほかのハンターのやる気にあてられたのか、マドカは気合十分だ。


「でもいまのペースだったら、ただ勝つんじゃなくて、ぶっちぎれそうってことでいいんだよね?」

「ええ。前にクラン単位の総がかりでポーションを集めた場合って話をしたわよね」

「クラン総動員で超がんばれば、7日間で1,000本以上は稼げるかもって話だったっけ?」


 その数の多さはインパクトがあったから覚えている。


「予備選考は『集めたポーションの売却価格を競う』というものだから、元々手元にあったものや、ドロップ以外で入手したものも含められると思うわ。ポーションの価格はだいたい20万円、そして下層まで行けるハンターがいた場合には、上級ポーションのドロップも狙える。上級ポーションの取引価格はひとつ桁が変わって約300万円だったはずよ」


 ポーションが1,000本以上に、上級ポーションね。上級ポーションは第三十五階層以上からドロップって話だから、まとまった数は普通は用意できないと思うけど。


「まどかおねえは、勝つには2億円以上と見込んでるわけやな」


 よくわからんけど、計算するとそれくらいの金額になるってことかな。


「最低でも2億、絶対に勝つには3億以上ね。ぶっちぎりで勝つには、4億円分はほしいと思ってるわ」

「うへー、金額で考えるとすげー勝負だね」


 ランキング上位者だけを集めての蒼龍杯だからか、金額の規模が庶民の感覚とかけ離れているね。


「ポーションて、時価やなかった? これだけの短期間に、こぞってポーション集まったら、取引価格下がりそうや」

「予備選考は決まった価格で査定されるから、そこは考えなくても大丈夫よ。それにダンジョン管理所じゃなくて蒼龍のところで査定するから、上級ポーションを大量に集めた事実を広く知られる心配もないわ」

「蒼龍ってジジイが、秘密をバラさなきゃいいけどね」

「あの人はレジェンドハンターよ? ハンターの秘密を守るなんて当然のこと、心配いらないわ」


 集めたポーションの中から、透き通った青色の液体が入った小瓶を眺める。これが300万円とはねえ。

 高価なものでもたくさん持っていると、どうにも実感が薄い。少し前の私だったら、手が震えただろうにね。


 私の『ウルトラハードモード』なダンジョンでは、第十階層からたまに上級ポーションがドロップした。第十五階層を拠点に大量のモンスターを倒していれば、1日で50本くらいは手に入る感じだ。もう私たちにとっては貴重でもなんでもない。

 だいぶ出遅れていたけど、5日目になって勝ち目が見えてきた感じだ。



 それにしてもだよ。レベル20にも至っていない少人数のパーティーが、大量の上級ポーションを持っていればちょっとおかしいし、バレれば注目の的になってしまう。

 たぶん、いい意味じゃなく悪い意味で注目されるよね。


 絶対、まともにモンスターを倒して集めたとは思ってもらえず、なんらかの卑怯な手段を使ったと疑われて、入手手段も問われるだろうね。

 レジェンドのハンターだって同じ疑問を抱くだろうけど、予備選考に入手手段の指定はない。ここが予備選考の重要な部分な気もする。


 どんな手を使ってでも結果を出せ。蒼龍とやらはそう言っている気がしてならない。


 手段を問わないということは、自力でドロップを狙おうが、大金かけてかき集めようが、コネを使って集めようが、なんだろうが自由ということだからね。夕歌さんもマドカも、そう解釈している。


 もし私たちが特殊なスキルで集めたと推測しようが、レジェンドと呼ばれたほどのハンターにとって、それほどのインパクトはないと思う。常識からは外れた存在だからこそのレジェンドなんだからね。

 つまり、細かいことを考える必要はないってことだね。


「ふいー、そろそろ休憩はいいよね。じゃんじゃん稼ぐよ!」


 なんにしても順位は発表されるらしいから、トップ通過することには意味がある。

 3人ぽっちのパーティーがトップだったら、これまでとは比べ物にならない注目が集まる。蒼龍杯にエントリーしているのは私だけど、パーティー単位での注目になるはず。


 これまでのように勧誘されることは変わらないとしても、しょぼい奴らからは声をかけづらくはなるよね。気やすく声をかけられない状態にはなる気がする。


 お前らとは住んでる世界が違うんじゃ! 気やすく話しかけんな!


 いやー、そんな感じでお高くとまっていきたいわ。

 私たちを引き入れるのではなく、むしろ私たちの仲間になりたいと思わせたい。そういう流れになれば、パーティーメンバー集めにいい影響があるはず。たぶん。


 勝った後のことまで見越してしまうとは、私たちもなかなかのもんだよ。

 うんうん、将来有望とはこういうことだよね。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 >蒼龍氏はレジェンドやし情報お漏らしせんやろ 情報お漏らしはしないかもですが、葵ちゃんの情報を得て蒼龍氏『自身が』葵ちゃんを欲する可能性は有りそうですよね。 まぁ未来のことは未来…
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