考えてみると結構厳しい?
マドカは新武器のバトンを自慢げに私に見せてきた。
ずっとこうした機会を待っていたのか、とても楽しそう。新しい装備ってウキウキするからね。
「前からアオイの斧がうらやましいと思っていたのよ。だから似たような武器をね。しかも、これ!」
なんと、もう1本同じ武器を次元ポーチから取り出した。
驚かせたかったのか、あえてもう1本のほうは仕舞ったままにしていたらしい。
「2本もあんの? もしかして、その両手の指輪が戻ってくる目印みたいな感じ?」
「そうなの! 微量の魔力で戻せるし、戻すタイミングもそれで調節できるのよ」
「え、それってめっちゃ便利じゃん。すげーバトンだね」
私の斧は勝手に戻ってくるから、器用な使い方はできない。それに私はいまいちノーコン気味だけど、マドカは鳥に一発で命中させるくらいに上手だ。
「扱いが難しいから、もっと練習が必要だけどね。ちなみにエコーロッドって名前の武器よ」
「ほえー、いいもん買ったねえ。ツバキのは?」
ツバキは小さい弓を手に持ったままで、さっきは使う様子がなかった。あの鳥はマドカだけで十分と思ったのだろうけど気にはなる。
ただ小さいだけの弓とは思えない。全体的には黒い木で作られているっぽく、中央の手で握る所に金の装飾が少しあるくらいでシンプルな感じ。
「うちのはまたあとで、お披露目するなぁ」
「もったいぶるねえ」
「そないなわけとちゃうけど。うちのは、鬼哭浄化の梓弓って言うて、邪気や呪いを払う効果があんねん」
「ほえー、そんな武器があるんだねえ」
なるほど、いいね。
ツバキは呪い系の攻撃特化だったから、それが効かない敵への対処法がほしかった。邪気や呪いを払う武器なら、まさに足りないところを補える。
実際にどう使うのかは、またあとで見る機会があるよね。
ガラスの森ダンジョンでの初戦闘を終えたあとでは、特に戦闘も起こらずに第五階層まで進めてしまった。
昼間はモンスターと遭遇しにくいのかな。案外余裕だ。
「ちょい、休憩してもええ?」
地図担当の私と戦闘担当のマドカは暇だったけど、結界を張っているツバキは警戒もしてくれているから疲れるよね。
休憩に賛成して、私とマドカが周辺警戒に気を回す。五階層毎にある転送陣に登録してしまえば、いつでもここまでスキップできる状況になった。キリのいいところではあるけど、帰るには早すぎるし、一度ダンジョンを出ると集中がぶっつり切れる。まだまだがんばって行きたいところだ。
「このペースなら、第十階層までは余裕をもって行けそうね」
「モンスターが全然、出ないもんね。深く潜ってもこの調子だったら、稼ぎになんないわ」
「さすがにそれはないんじゃない?」
「だといいけど」
ウルトラハードなダンジョンは、基本的にモンスターの数が多いはず。不思議に思うけど、出ないものは仕方がない。
この第五階層までは鳥型のモンスターばかりらしいから、地上を進む私たちは単純に遭遇しにくいのかも。結界を張っていると全然、周りが見えないしモンスターがどこにいようがわからない。もしかしたら、昼間はモンスターの活動があまりない説は当たっているのかも。
20分ほど休憩して、先に向けて進むことにした。
そうして第六階層に入ると、明らかにダンジョンの様子が変わった。まぶしい光が乱舞するガラスの森はそのままに、うるさいくらいの音が聞こえる。間違いなく、モンスターの足音だ。
「左から2、ちゃう3匹」
「情報どおりに猪型ね。予想はしていたけど、ずいぶん大きいわね」
綺麗なガラスの猪が、ツバキの『たしなみの結界』を通り抜けたせいで、のろのろと迫力なく動いている。
本来なら、まさしく猪突猛進な体当たりをかましてきたのだろうけど、これでは形無しだ。
「バトン、じゃなくてロッドだっけ。殴って倒せそう?」
猪型モンスターの分厚く大きいガラスの体は、鳥型とは違って砕くには結構なパワーがいると思う。
「エコーロッドね。やってみるわ!」
投げたロッドはくるくる回転しながら、猪の体にガツンと見事にヒット。でも傷をつけただけで倒すには全然至らず、大きく砕くこともなかった。
マドカは手に戻ったロッドを、今度は接近して持ったまま殴りつける。
殴った部分のガラスは小さく砕けるけど、一気に破壊することは無理なようだ。マドカはパワータイプとは違うし、痛みを感じないゴーレム系とは相性がいいとは言えない。ロッドで殴り殺すのは、あまりに効率が悪そうだね。
「これはダメね」
素直に諦めたマドカは、腰に装着した魔法の散弾銃に持ち替えた。
構えてぶっ放すと、2体の猪をまとめてガシャンと豪快に砕き、光の粒子と魔石に変えた。
残る1体にも連続で撃って倒してしまう。しかも、魔石と共に小さな瓶が落ちていた。
「これ、ポーションよね? 第六階層にしてはモンスターが硬いし、やっぱりアオイの『ウルトラハードモード』は違うわね」
マドカが拾い上げて、私とツバキに見せてくれた。透き通った薄い緑色の液体は、間違いなくポーションだ。
「幸先いいねー。第六階層からそこそこ取れるなら、もうちょい深く潜ればザクザク落とすかも」
「出遅れ、挽回できそうやな」
「受付の人は第十五階層まで行かないと、確率的にドロップは狙えないと言っていたわ。しかも10体倒して1本くらいと言っていたはずよ。でもアオイの『ウルトラハードモード』ならいけそうね」
「しゃー、この調子でガンガン進むよ!」
足取りも軽く先を急ぐ。深い階層に進めば進むほど、ドロップ率はきっと上がる。
順調にいけるといいなー……んんー、でもホントに大丈夫?
進みながら、ふと思って聞くことにした。
「ところでさ。私たちの出遅れって、具体的にはどれくらいだと思う? ポーション何本くらいリードされてんの?」
目標があれば、それに向かって突き進むだけ。そのほうが、わかりやすくていい。
「前から1匹」
「おりゃー! マドカ、ちょっと計算してよ。モンスターは私がやるからさ」
ツバキの声に応えて、ガラスの猪をハンマーで楽々と粉砕。私にとってゴーレム系はお得意様だ。
「そうね……えっと、まずわかりやすく遅れた期間を30日間とした場合、1日あたりに手に入れられるポーションの数をかけたら、それでわかるわね」
「右から2匹」
「ほいよっ」
「確率的に、ひとつのパーティーが1日に入手可能なポーションは、多めに見積もっても5本くらいと思うわ」
「えっと、つまり?」
「1日で5本の30日間、合計で150本ね。実際はここまでにはならないと思うけど」
多めに考えて、そのくらいのリードを許しているわけね。
まあなんだ、そのくらいなら普通に逆転できる気がするね。期間はあと1週間くらいあるし、がんばれば大丈夫かな。
「左前から1匹」
「ほいっ、あ、ポーションゲット!」
「最大を考えるなら、あとはクラン総動員でポーションを集めている場合もあるわよ」
総動員?
「クラン所属メンバーの最大50人、そこから戦闘がこなせる人だけで考えて、そうね……これも多めに7つのパーティーで協力している、なんてこともあるかも。あの蒼龍の報酬と考えれば、そこまでする価値は十分にあると思うし。クランによっては、下部組織のサブクランを動員する可能性まであるわね。そこま考えるとキリがないけど」
「ちょい待ち! えっと、じゃあ……え? つまり何本分、出遅れてんの?」
「そうね。サブクランの協力はないと考えても、30日間、7パーティー、ひとつのパーティーあたり1日5本……合計すると現時点で1,050本ね」
え、さすがに多くね? ホントに巻き返せる?
マジかよ。私たちったら、まだ2本なんだけど。
めっちゃ出遅れまくってるじゃん。




