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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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ギトギト床とおっさんは干天の慈雨

 気絶したスカウトマンを警棒でぶん殴って無理やり起こし、二度と近づかないと約束させた。


 約束を守る保証はどこにもないけど、私にこれ以上できることはない。こういうのが簡単に引き下がるとは思えないし、きっとまた同じことを繰り返す。

 それにスカウトマンはまだほかにもいるし、違う種類の不審者だっている。あいつだけをどうにかすればいい話とは違う。


 状況をよくしていくには、やっぱりもっと力を持たないといけないよね。

 若い女子が3人しかいないから、甘く見られてしまうのはありそう。仲間が増えれば少しはマシになるのかな。マドカとツバキの仲間探しに、大いに期待したいね。


「永倉さんは、いつもあんなことをしているんですか?」


 敗北者を追い返したあとで、なんとなくの流れで受付のお姉さんとお茶をすることになった。喫茶スペースで腰を落ち着けていると、そんなことを言われた。


「いやいや、まさか。人をぶちのめすなんて初めてだよ?」

「随分と手慣れているように見えましたが……」

「誤解だって。モンスター倒しまくってるから、それと変わらないだけ。ホントだよ」


 まったく、ひどい誤解だね。缶の紅茶に口をつけたら、怒ってますとばかりにちょいと勢い強めにテーブルに置いた。


「ならいいのですが」

「そんな暇人じゃないって」

「でも、あれってわざとですよね? わざわざ誘い込んだのでは?」


 なかなか鋭いっていうか、バレバレじゃん。


「最近ああいうのに、ずっと追い回されててさ。ちょっと話をつけようと思っただけだよ。私ったら結構強いし」

「いくら強くても、あの手の輩は何をするかわかりません。警察に相談は?」

「してないけど、取りあってくれんのかな」

「困っているなら、相談だけでもしてみては?」


 相談してさっさと追っ払ってくれるならいいけど、どうせそうはならない気がする。


「うーんと、あんな奴らに時間かけたくないから、直接話してでどうにかしようとしてんだよね。かよわい女子なら仕方ないけど、私はそうじゃないし」

「そうだとしても危険です。もし何かするなら、なるべく人目のある場所がよいと思います。今日のような形でよければ、私のほうでも協力はできますから」


 なんと、そいつはありがたい。


「じゃあまた誰か引っ張り込んだら、その時はよろしく!」

「予定があるのですか?」

「ほかにも変な奴らはいるからね。たぶん、ここを出たらまた追っかけられると思うよ」

「有名人は大変ですね」


 おかしな話だよ。俗にいう有名税というやつ?

 私は有名になったお陰でお金を稼げたことはなく、ハンターとして普通に魔石の換金で稼いでいるだけだ。変な税を取られるいわれはまったくない。腹立つわねー。


 さて、まだ午前中だし、今日はもう少し続けたいね。変な奴らを追い払おう。

 嫌なことは早めに終わらせたいわ。グイッと紅茶を飲み干した。


「よっしゃ! 有名人の永倉葵、ちょいと出撃してきまっす!」

「えっと、何をするのか知らないけど、気をつけてくださいね」

「ほーい。お姉さん、今日はありがとねー」


 勢いよく立ち上がり、紅茶の缶をゴミ箱に押し込んだ。

 あ、もしかして。英国お嬢様風ファッションじゃなくて、ヤンキー風にイメチェンしたら、少しはマシになったりするのかな。

 まあ私の趣味じゃないし、それはいいか。



 花やしきダンジョン管理所を出てヴィンテージ風腕時計を確認すれば、まだ11時前。今日はまだこれからだ。

 秋晴れで10月にしては気温も高く、散歩にはちょうどいい。憂鬱になりかける気分を、秋らしからぬ陽気が少しだけ晴れやかにしてくれた。


 浅草から上野方面に向かって歩いていると、やがて感じる複数の視線。気のせいでなければ、いつものストーカーやまた別のスカウトマンだろうね。ダンジョンに入る前よりも確実に増えている。


 この吸引力! 冷静に考えて、私ったらすごいわ。


 とりあえず、今度はどうしようかな。受付のお姉さんは、人目のあるところでどうのと言っていたけど、人目のあるところでケンカはちょっとね。割とノープランだ。


「まずは……ラーメン屋かな」


 お腹減った。腹が減っては戦はできぬと言うし、どっかで食べるぞ。

 ラーメン、ラーメン!


 いまの私が求めているのはシャレたメシではない。塩気の強い脂ぎった、パンチのある食べ物だよ。


 決断はとても早い。ラーメン屋を思い浮かべてから、最初に見つけた小汚い店に迷わず突貫する。

 さっと店内を見たところ、半分ほど席が埋まっているね。雰囲気的にきっと地元の人に愛されるお店だ。期待できる。

 ギトギトした床を慎重に歩き、適当な席に腰かけたらさっそく注文だ。私はメニュー選びに時間をかけない。


「オヤジ! チャーシュー麵大盛りと半チャーハン、それと焼き餃子!」

「あいよ」


 ラーメン屋における贅沢よくばりセットを注文しちゃう。この黄金のコンビネーションは外せない。

 あ、ニラ玉もいっておくべきだったかな?

 いや、まずは基本セットでよしとしよう。足りなければ追加注文だ。


 水を飲まずによだれを飲み込みながら静かに待っていると、私の横に腰かける不審な気配。そいつはメニューを見るでもなく、私の横顔をじろじろ見ている。視線を向けずとも、そのくらいわかりますとも。


 この独特の気色の悪さは、ストーカーのものだろうね。スカウトマンとはちょい違う。

 とにかくだ。私の食事の邪魔をしようとは、それだけはとても許せん。


「オヤジ! ちょっと席移動するわ!」

「あいよ」


 すぐ隣の席に不審者がいる状況では食事に集中できない。お店の中でケンカするわけにはいかないし、穏便に移動だけでこらえてやる。この野郎!

 カウンター席の真ん中付近から、奥の端っこに向かって移動した。


 するとどうだ、なんと追いかけてきやがった!

 マジかよ、こいつ。そんな露骨な真似をするとはまさかだよ。



 ところがです。悪漢には天罰がくだるのですな。

 ギトギトの床に足を取られたストーカーは、すってんころりん。


 通路横のテーブル席のほうに倒れ込み、精悍な肉体労働者系のおっさんたちがいるテーブルに突っ込んだ。いくつものお皿がひっくり返り、食事中のそれらがぶちまけられる。


 いやいや、大げさに転びすぎじゃない? それにしてもひどい有様だ。あー、もったいない。

 なにか異様な雰囲気で静まり返る店内には、店のオヤジが鍋を振る音だけが響いている。


「……こいつはねえちゃんの連れかい?」


 被害者のおっさんだ。そのブルース・ウィリスっぽいハゲのおっさんが、なぜか私に向かって聞いてきた。ラーメンの汁が太ももにかかったけど、熱くないのかな?


「なに、こいつがねえちゃんの後についていったように見えたからよ」

「あ、そういうこと。全然、違うっす。むしろ付け回されて困ってる感じっす」

「わかった。おらガキ、店出るぞ。オヤジ! 勘定つけといてくれ」

「あいよ」

「ちょ、ちょっと待て、あ、んぶううーっ」


 ハゲのおっさんは大きな手でストーカーの顔面をつかみ、引きずるようにして仲間のおっさんたちと一緒に店を出て行った。

 すごいおっさんだ。頼もしいぞ。

 見送って、席に着く。ふいー、やっと落ち着けるわ。


「チャーシュー麵大盛りと半チャーハン、それと焼き餃子、お待ち!」


 なにごともなかったように注文したメシが目の前に置かれる。ちょっと不思議なオヤジだね。

 想像以上のチャーシュー麵のビジュアルの強さに、食べる前から満足感を覚えた。


「いただきまーす」


 とにかくメシだよ。不審者のことなんかもう忘れた。

 うん、悪くない店だね!

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