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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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久々のぼっち行動

「話は変わるけど、もうひとついい?」

「まだあんの?」


 夕歌さんからまだ用事があるらしい。というか、私たちのほうの用事がまだ何も終わっていない。


「預かってた装備なんだけど、あれって葵ちゃん専用になってるでしょ? その制限を解除できるかどうか試してもいいかって言われてるんだけど、どう?」


 ソロダンジョン産の装備品は、私以外に使いこなすことができない。その制限を取っ払えるなら、それは私にとってもありがたいこと。売ることができずに、たまっているのがめちゃたくさんあるからね。売れるものなら売りたいわ。


「別にいいけど、結局のところ鑑定はできてないってこと?」

「そうみたいなのよ。凄腕の解呪師に協力を依頼して、実験してみたいんだって。それで、最悪の場合は装備が壊れるかもしれないって。その場合には一応、買取りになるみたいなんだけど、未鑑定の状態だから高くは買い取れないってさ。どうする? 嫌なら断れるわよ」


 解呪って、呪い扱いなの? そういう感じ?


「どうせ使わない装備だからいいけど、あれってたぶんすごい性能だよ? それだけはわかっといてほしいよねー。あ、私からも条件出していい?」

「通るかどうかはわからないけどね。どんな条件?」

「もしその解呪とやらが上手くいったらさ、私にもその凄腕を紹介してよ。解呪してほしいのがいっぱいあるんだよね。言うだけ言ってみてくれる? 無理なら諦めるし、装備は好きにしていいよ」


 鑑定が上手くいったところで、私はすでに自分の鑑定モノクルであれの性能は知っている。失敗して壊されたら、安値で買い叩かれる。どっちにしても、私が得することは何もない。

 本当なら断ってもいいんだけど、夕歌さんには世話になっているからね。これくらい好きにしてくれたらいいよ。どうせ使わん装備だし!


「紹介は先方の意向もあるから、どうなるか聞いてみないとわからないわね。とにかく、伝えてみるから」

「うん、たのんます。ほんじゃ、こっちの用件ね。とりあえず、魔石の換金よろ」


 いつものようにドバドバッと大量の魔石を渡し、精算してもらった。


「はい、17,418,336円ね。等分して口座に入れておくわね」


 こんなやり取りはすでにひと月半くらいの間で、何度も繰り返した。レベル10台後半の私たちにしては異常な稼ぎだけど、いまさら驚く奴はここにはいない。

 とにかく、これが3日分の稼ぎ。3人で山分けしても今日、銀座で散財した分を回収できたのはよかった。



「さてと。旅行はどうしよっか?」

「取りやめね。もたもたしていたら、せっかくの仲間候補が取られてしまうわ」

「うちもそう思う」

「だよね」


 教えてもらった仲間候補は、若い女子だけの少数パーティーだ。放っておかない奴はたくさんいるだろうし、そもそも仲間を求めている人たちなんだから、適当な相手が見つかればすぐにでもお試しパーティーは組んでしまうはず。もしかしたら、どこかのクランに入っちゃう可能性だってある。

 私たちも早く行動しなければ。こういうのは早い者勝ちなんだから、遊んでる場合じゃない。


「旅行するつもりだったの? いいわねー」

「ずっと神楽坂ダンジョンに潜ってたからね。さすがに飽きたし、どっか別のダンジョンに行ってみたいねって。で、どうせなら旅行を兼ねようってことになってさ」

「それで夕歌さんに、どこかおすすめの場所を聞こうとしていたんです」

「へえ、そうだったのね。ダンジョンで観光誘致をやってる場所もあるから、暇になったらまた聞いて」


 その時は世話になろう。いろいろ話しているうちに、随分と遅い時間になってしまった。


「じゃあそろそろ帰るわ。明日からさっそく、仲間候補の調査に乗り出そう!」

「夕歌さん、ありがとうございました」

「おおきに」

「またねー」


 誰もいないダンジョン管理所で、朝まで受付にいなければいけない夕歌さんは、それはそれでキツイ仕事だ。他人事ながら大変だね。



 そして翌朝。

 昨晩の帰りがてらに、タクシーの中で今日からの方針を決めていた。

 ダンジョン探索はいったん休止して、仲間候補の調査に全力で当たる。


 夕歌さんが調べてくれた情報は、事細かでとても役立つ内容ばかりだった。

 相手のパーティーが主に活動しているダンジョンだけではなく、活動時間まで調べ上げてくれていた。それにしたがって張り込めば、高確率で接触できるはず。


 でも私たちはいきなり声をかけるのではなく、まずは普段の様子を見ることにして、その上で仲間にしたいと思ったら改めて声をかけてみることにした。猫を被るのがうまい奴はいっぱいいる。


「ほんじゃ、一次選考はふたりに任した!」

「任せて。仲間選びで妥協するつもりはないから」

「葵姉はんも、気ぃつけて」

「うん、大丈夫。またあとで!」


 ダンジョンで様子を見るとは、すなわちダンジョンの中にも入るということ。管理所で受付を済ませる姿だけを観察したところで、大したことはわからないのだから当然だよね。

 私は強制ウルトラハードモードがあるから、スキル『ソロダンジョン』の発動抜きには、うかつにダンジョンに入れない。そこで、仲間候補の調査観察はお任せということになった。



 その代わり、私は別のことをする。

 新たな仲間を迎える前に、身辺整理はやっておいたほうがいい。全部まとめて片付けることは無理でも、少しマシな状況にはできるはず。そういうことだよ。


 私たちは基本的に3人で行動することが多くて、ひとりでのこのこ出歩く機会は少ない。

 そんな私が明るいうちから堂々とぼっち行動をしていれば、妙な奴らが近づきやすくなるというわけだ。


 日頃から私たちを付け回すうっとうしい連中に、ちょいと挨拶をくれてやる!

 朝から目立つように行動しているから、後をつけることは簡単なはずだよ。


「んー、あんな奴らのためだけに、私の時間を使うのはもったいないよね。どうせならちょっとは役に立ってもらわないと」


 朝っぱらから元気にお散歩開始。たくさん釣りあげたいから、ちょっと長めに歩く。

 そうして向かったのは、上野を通過したさらに先、浅草だ。


 浅草の遊園地のすぐそばにある、花やしきダンジョンと呼ばれている場所にやってきた。ゆっくり歩いていたら2時間近くもかかってしまった。お陰でいっぱい釣れたけど、運動不足の奴らは途中でリタイヤしたっぽい。情けない奴らだよ。


 さて、花やしきダンジョンには初めて来たけど、ここは第一階層しか存在しないダンジョンとして有名らしい。

 しかもモンスターは深夜に強いのが1体だけ出現して、倒すと翌日の同じ時間まで出てこないのだとか。おまけに障害物がなく高低差もない、広場のようなダンジョンと聞いた。


 そのような低階層しかないダンジョンは、ダンジョン自体やハンターの能力研究に利用価値が高く、いくつか存在するそれらは政府機関や研究所が抱え込んでいるらしい。

 花やしきダンジョンは、一般に開放されている中では珍しい第一階層のみのダンジョンということになるっぽい。


 夕歌さんから聞いた話によれば、ハンター同士が戦うイベントには毎回利用されているらしく、蒼龍杯の本選もたぶんそこになるようだ。

 私としてはその下見を兼ねて、という感じかな。


「ほんじゃまあ、いっちょケンカ売ってみますかねー」

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