スポンサーからのご招待券
「おいすー、夕歌さん」
銀座での買い物の後、情報収集と魔石の換金のため東中野ダンジョン管理所を訪れた。
「おいすー、3人とも。ちょうどよかったわ」
「なにが?」
「いくつか用事があって。まずは葵ちゃん、手紙を預かってるのよ」
ダンジョン管理所に預け物なんて、そんなシステムあったんだ。
誰からだろうと思っていると、夕歌さんはもったいぶらずに何やら大きな封筒を差し出した。これが手紙?
「え、なんか気持ち悪いわ。誰から?」
「ダンジョン管理所本部からよ。パンチングマシンのランキング上位入賞者には、連絡が行くって言ったわよね。葵ちゃんはスマホも住所もないから、連絡はこの管理所で受けることになっているのよ。私ならホテルの雪乃にもすぐ話が通せるし」
「そういうことかー。ランキングの期間が終わったらどうとかって、話があった気するね」
「アオイ、入賞者へ連絡って何かあるの?」
たしか、上位の何パーセントかに入っていたら、どこぞのお店で使える割引券がもらえるという話だった気がする。
そんな話をマドカとツバキに話しつつ、封筒をバリバリ破いて中身を取り出した。
「うん、50%オフの割引券。それと、なんじゃこれ?」
お札を模したような形の割引券とは別に、薄い冊子が入っていた。
硬くて立派な質感の表紙は真っ白で、そこに金色の文字で「蒼龍杯」と書かれている。
ぺらっと表紙をめくって中を見ると、「永倉葵スカーレット様」と手書きの文字で丁寧に宛名が書いてあった。
マドカとツバキ、そして夕歌さんにも一緒に見てもらう。
「綺麗な装丁ね。葵ちゃん、次のページは?」
ページをめくって次を読めば目的がわかった。
これは蒼龍杯とやらへの招待状らしい。
「すごいわよ、これ」
まだ詳細はわからないというのに、夕歌さんはすでに感心している。なんで?
「蒼龍って、もしかしてあの財前龍治ですか?」
「間違いないわね。あの方以外が『蒼龍』を使うのは、ハンターの世界ではちょっと考えられないから」
マドカと夕歌さんはわかっているようだけど、私とツバキはおいてけぼりだ。そんな様子を理解したのか、夕歌さんが説明してくれた。
「現役時代に『蒼龍』の異名で活躍した、レジェンドハンターのひとりよ。もう30年は前に引退した人だけどね。どうやらパンチングマシンのランキングは、その蒼龍が企画したみたいね」
「蒼龍は資産家で、引退後はこうした個人スポンサーの企画を実施することでも知られているわ。そうですよね、夕歌さん」
「今回はかなり久々だけどね。葵ちゃん、冊子の続き見せて」
ふーん、お金持ちの道楽的なイベントかな。なんか白けるわ。
いいご身分だよ、まったく。そんなもんに付き合っていられるか!
「ほい、あとは適当に見といて。面白そうだったらお呼ばれするわ」
「葵姉はん、蒼龍はビッグネームや」
「ツバキも知ってんの? まあ、私には関係ないし知らない人だからね。ちょっとオレンジジュース飲みたいから、買ってくるわ。中身はあとで教えてよ」
「しょうがないわねえ。私の分も買ってきて」
「ほーい」
死にぞこないの爺さんが道楽で企画したイベントなんか、ホントにどうでもいいし興味がわかない。
みんなに任せて自動販売機のある場所に移動した。自分の分だけ飲み干したら、みんなの分を適当に買って戻る。
「アオイ、ちゃんと見たほういいわよ」
「いろんな賞品が、もらえるみたいや。中にはクランハウスもある」
あんですと?
「ハウス? 家がもらえんの?」
「ちょっと考えられない規模の賞品がラインナップされているわね。これ、蒼龍は貯め込んだ財産の大部分を処分する気じゃないかしら」
「え、なんか美味しい話ってこと? だまされてない?」
「ダンジョン管理所公認のイベントだから、だますなんてありえないわ」
さすがに興味をひかれて、ちゃんと見ることにした。
みんなの説明と合わせ理解した蒼龍杯とは、ダンジョンハンターとしての実力を総合的に評価するイベントだった。
予備選考と本選考があり、予備選考では一定期間内に集めた、あるドロップアイテムの合計価格で競う。本選考は予備選考を勝ち抜けたハンター同士が戦い、勝者を決めると。こういう流れらしい。
それと選考は年齢の区分によって分かれていて、私の場合には16歳から20歳の部に出場するようだ。
そして肝心の賞品。
レジェンドがコレクションしている数々の武具や道具、これが一番の目玉ということらしい。
そのほかには、日本全国にいくつもあるクランハウスも賞品として提供される予定になっているのだとか。
大盤振る舞いなのが、これは参加するだけで何かしらの賞品をゲットできることだ。がんばらなくても、最低でもレジェンドのコレクションの何かはもらえるわけだね。
「でもこれ、予選を抜けて勝っても何がもらえるとか、決まってるわけじゃないね。なんか怪しくない? せっかく勝ってもジジイに好かれなかったら、しょぼいもの渡されそうじゃん」
「失礼なことを言わないの。あのレジェンドの蒼龍が、そのハンターに相応しいものを選んでくれるのよ? 葵ちゃん、わかってないわねー」
「えー、んなこと言われても」
ともかく、なにやらスゴそうなイベントへのご招待券を手に入れてしまったようだ。
「あ、待って。そもそもさ、クランハウスってなに? 普通の家とは違うの?」
さっきツバキが言っていた。武器とかは間に合ってるからいらないけど、クランハウス? それは気になる。
「クランメンバーが住む家に決まってるじゃない。アオイ、この先クランを作るなら、クランハウスの用意は必須よ」
「つまり、土地と建物ってこと?」
「葵ちゃん、クランの作成条件としては賃貸でも大丈夫だけど、これは蒼龍が提供するクランハウスよ? マンションの部屋ということはないわ。まさに土地と建物だと思うわよ」
マジかよ。そんなん、ほしいに決まってるじゃん。タワマンどころじゃないわ。
土地と建物! しかも無料!
「いやいや、まだ信じられんわ。それって田舎じゃないよね? 私ったらシティガールだから、都会じゃなきゃ嫌なんだけど」
「賞品リストには、地方のも都心のもあったわよ。武具じゃなくてクランハウスなら、ある程度は希望を聞いてくれるんじゃない?」
スポンサーのジジイが賞品を決めるというのが気にはなるけど、もし本選考で勝てば少しくらいは希望を聞いてくれるんじゃないかと期待はできるのかな。そうじゃなかったら、あちこちで悪口言いまくってやる。
「うおおおー! 俄然やる気が湧いてきたわ。絶対、勝つ」
家がもらえるとかマジかよ。
どれだけの人数で競い合うのかは不明みたいだけど、年齢で区分けされているなら、ベテラン勢とは争う必要はない。
これは勝ったな、とやる前から思ってしまう。私ったら、結構強いからね!




