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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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大人の社交場

 天下の往来で少々取り乱してしまった過去はもう忘れた。数秒前のことでも過去は過去、過ぎ去りし過去なのです。

 私のような立派な成人女性は、つまらない過去など振り返らない。もう世界の常識。


 さっきのあれは心の叫びであって、ほんの少し外に漏れてしまったかすかな吐息のようなもの。それはきっと風に流れてすぐに消えたはず。

 びっくりした顔をする友には、最高の笑顔で接しよう。なにも心配することはない。


「ふいー、結構遅くなっちゃったね。そろそろお店予約した時間じゃない?」

「……そ、そうね。近いから、まだ間に合うわ」


 今日の目的はあれこれの買い物だけど、一番の目的は予約した魔法武器専門店だ。そこでマドカとツバキが武器を見る。


 マドカに付いて表通りからは外れた道に入っていくと、聞いたとおりに少し歩けば到着した。

 ほほう、知る人ぞ知るという場所な感じ。ただ、ここもやっぱり超立派な建物だね。銀座感あるね。出ちゃってるね。


 もう店構えからして、貧乏人どころか庶民を拒絶している。ここはお前がくるよう場所ではない、そう言われている気がして仕方ない。被害妄想だろうけど。

 でもガラス張りとは違う、内部がまったく見えない店というのはどうにも入りにくい。入れるものなら入ってみろ、そう言わんばかりの威圧感がある。


 そんな店でもまったく臆さずに入るマドカは、同年代とは思えないほど落ち着いている。さすがお嬢様だよ。

 多少雰囲気が違うとはいえ、高級店にはついさっきまでいたばかりだからね。堂々といくぞ。マドカを見習おう!


「ようこそお越しくださいました。本日ご予約の九条様でいらっしゃいますか」

「はい、九条です」


 この渋い感じのおっさんがコンシェルジュというやつだろう。こなれた雰囲気でマドカに話しかけている。


「九条様、本日は誠にありがとうございます。ご同伴の方もようこそいらっしゃいました。ただいまより、ご用意させていただきましたプライベートサロンへご案内いたします」


 でっかいシャンデリアって怖いよね。こんなのが頭に落っこちたら、死んでしまうわ。


「あらかじめお聞きしました、ご要望に沿った商品を準備してございます。お手に取ってご覧いただけますので、ごゆっくりお選びください。お飲み物は、特製のハーブティーを用意いたしましたが、いかがなさいますか?」

「ではそれをお願いします」


 私とツバキはうなずくだけだ。飲み物なんて別にどうでもいい。


「かしこまりました。ではご案内いたします」


 渋いおっさんがそのまま案内役を担当し、近くにいた別のおっさんも動き出した。たぶんお茶の用意をしてくれるのだろうね。

 ここでの私は完全に傍観者だ。自分の武器に関してはすでに満足しているし、追加や別のものを試したいとも思っていない。


 プライベートサロンとやらに移動した後では、すでにいくつもの武器が並んだ状態になっていて、ふたりはさっそく手に取って見ていた。


 予約した時点で、マドカは自分とツバキが求める性能の武器を伝えていたらしい。だから完全に要望どおりのものを用意することは難しくても、近いものは準備してくれたようだ。

 プロフェッショナルな店員さんからあれこれと説明を聞きつつ、実際に手に持って感触を確認している。私はお茶をすすりながら、ぼけっと待つのみ。


 そうして、たっぷりと時間をかけて武器を選んでいた――。



「お待たせ」

「ういー、じっくり選んだね。気に入ったのはあった?」

「あたしはね。ツバキは?」

「うちも」

「よかったじゃん。これで戦力アップ間違いなしって感じ? どんなの買ったの?」

「それはダンジョンでお披露目するわ」


 なんだよ、もったいぶって。

 まあどうせ明日もダンジョンに行くし、すぐわかるからいいけど。

 と、誰ともなくお腹の鳴る音が聞こえた。


「銀座メシでも食って帰ろっか」

「そうね。遅い時間になっちゃたわ」

「うち、お寿司がええ」


 なんと、お寿司ですと? 銀座でお寿司とか、さすがお金持ちの発想は違う。

 私は通りで見かけたハンバーグのお店を考えていたのだけど、どうせなら寿司屋に行ってみたい。もちろんツバキが言う寿司屋は、庶民的な回るやつとは違うはずだ。


 そういや銀座って築地が近いよね。やっぱり寿司屋が多い感じなのかな?


 よっしゃあ、上等じゃい。金持ちマインド、オン!

 今日はとことん、贅沢してやる!



 ふいー、食った食った。

 回らない寿司屋というのは、初めてお店に入る時にはなんだか高いハードルを感じてしまうけど、入ってしまえば意外と楽なものだね。

 よっぽど偏屈な職人さんに当たらない限りは、たぶんいろいろ親切に教えてくれるし、接客が丁寧で愛想がいいから注文もしやすい感じだった。


 今日でまたひとつ、私は精神的な金持ちレベルが上がったことだろう。これからは神楽坂や中野でも寿司屋に入ってみよう。うん。


 お腹も胸もいっぱいの夜道、3人で路地を歩く。

 夜も深い時間になってくれば、街がなんだか昼間よりもずっとアダルティな雰囲気になってくる。

 ドレスのような派手な服を着た女をそこかしこで見かけるようになり、酒に酔って騒ぐ奴らもそこらにいる。変なのに絡まれたら嫌だからね、さっさと移動しよう。


 タクシーを求めて、いわゆる高級クラブと呼ばれるお店が連なる界隈をそっと通り抜けようとしていると、それが目に入った。


「おー、レトロな看板」


 ライトのついていない黒い鉄製の看板が、建物から突き出すようにしてぶらさがっていた。シンプルでレトロがゆえに、周囲の派手な看板に比べて妙に目立っている気がする。

 鉄の看板は尻尾がたくさんあるキツネのようなシルエットで、レトロ風おしゃれとコミカルが合わさったような印象だ。悪くない趣味だね。


「クラブ九尾って、ここにあったのね」

「マドカ、知ってんの?」

「噂だけね。ハンターが集まって情報交換する、一部では有名な場所みたいよ」


 へー、そういう場所があるんだ。オトナのハンターが集まる社交場という感じなのかな。

 おしゃれな店構えをなんとはなしに見ていると、ちょうど店のドアが開いた。


 ガチャリ、という音と共に出てきたのは、黒いパンツスーツ姿の女。すらりとした体型にピンと伸びた背筋、銀ぶちメガネと手首の細い腕輪が印象的だ。特に細い腕輪、青色のそれが気になる。妙に目立つね。


「あいつ、完全に警戒していました」


 黒いスーツの女に続いて出てきた女が言う。袴姿の和装の女。立ち姿から、どこかキリッとした感じ。そんな彼女の腕にも青い腕輪がある。おそろいだ。


「こんな回りくどいことしてねえで、松井の奴をさっさと捕まえたほうが早くねえか?」


 次に出てきた、派手な柄のワンピースを着た女が文句を垂れた。こいつの腕にも青い腕輪だよ。


「まあまあ。でもそろそろ情報はそろったんじゃないですか?」


 さらにもうひとり、今度はフェミニンな感じの服装のおっとりした雰囲気の女。またまたこいつの腕にも青い腕輪があるわ。みんなでおそろいとは仲良しだねえ。


「ああ、これ以上は集まりそうにないな。今夜中にガラ押さえるぞ」


 仲良しグループの4人組は、なにやら物騒なことを口にしつつ去って行った。


「なにあれ?」

「さあ? もう夕歌さんいる時間だし、早く東中野に行きましょ」


 それもそうだね。ちょっと不思議な連中だとは思ったけど、気にしても仕方ない。

 ささっと大通りに移動して、タクシーを捕まえた。

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― 新着の感想 ―
カジノの時のやつらまだ動いてたんか
更新お疲れ様です。 おおぅ、893の『葵ちゃんを処し隊(仮名)』とニアミスかぁ…危なかった。 そういえば仲間二人…というか葵ちゃんも893からタマを狙われてるとは知らないですよね。どうにか物理的被害…
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