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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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学ぶべきハイソな日常

 化粧品を買ってマドカと合流したあとでは、メガネショップでおしゃれな伊達メガネや、調子に乗ってサングラスまで買ってしまった。

 いくつもあった地方のアンテナショップを見かけるたびに入っては気になったお菓子を買いまくり、休憩には無駄に高級感あるカフェに入ったりした。


 そうこうしていると、早くも日が暮れる時間になってしまう。楽しい時間はあっという間だよ。

 なんかやけに充実した休日じゃない?

 東中野をひとりでうろうろしていた時とは違いすぎじゃない?


「ここはあたしの好きなブランドよ。最高級のカシミヤを使っているのと、すべてが職人のハンドメイドなのが特徴ね。アオイの趣味にも合うと思うわ」


 ようやく私の目的を果たせる。冬物の上着を買うのは決まりとして、英国お嬢様風の服装に合うなら私としてはなんでもいい。

 ドアマンのいる扉を堂々とくぐるマドカに続いて店に入ると、元アイドルの美少女は店員さんと知り合いらしく、親し気に話し始めた。


 あのう、マドカさんや。おいてけぼりは困りますよ。そんな気持ちで私とツバキが見守っていると、それに気づいたのか心の友はすぐに戻ってくれた。


 いや、この店ちょっと半端なく高級店ですわ。よくわからないけど、下手にうろつけないくらいの感じ。

 勝手に商品を手に取っていいのか、店員さんに許可をもらわなきゃいけないのか。もうどうしていいか、作法がわからん。


「どうしたの? 好きに見たら?」

「あ、そうだ。マドカが選んでよ。私、それ買うわ」

「う、うちも」

「なにそれ。別にいいけど」


 いまの私に意思はない。出されたものを買う、それだけだよ。

 ファッションにこだわりがありそうなツバキが人任せにするのは意外に思うけど、普段は通販らしいから私と同じように戸惑っているのだろうね。ツバキもお嬢様のはずなのに、全然違うふたりだ。


「そうね、色と形から決めましょうか。アオイって、いつも白系のシャツと濃紺系のスカートの組み合わせよね。どっちとも調和する色ならキャメル系かな? 形はトレンド感より、服に合わせてクラシカルなほうがいいわよね。ツバキはやっぱり黒系で、形は……うーん、意外性を狙ってみるのもいいわね。ちょっといくつか探してみるから、待ってて」


 わかりました。マドカさんにお任せです。


 待つ間、私とツバキは別室に案内され、しかもお茶と茶菓子まで出されてしまった。マドカが上客扱いだからかも。

 微妙な緊張感を覚えながらしばらく待っていると、ようやく選び終えたらしい美少女がやってきた。たくさんの服を両手に抱えた店員さんをお供のように引き連れて。


「お待たせ。いくつか持ってきたから、ひとつくらいは気に入るのがあると思うのだけど」


 大きなテーブルに服が丁寧に並べられていく。

 出されたものを買うつもりの覚悟はあったけど、これだけ多いと全部買いますとはちょっと言えない。たぶん、めちゃ高いだろうし。買うとしても、かなり絞らないと。というか、こんなにはどう考えてもいらない。


 まあマドカセレクションはパッと見た感じ、どれもいい印象だわ。センスがよくて、私の服装にも合いそう。


 うーむ、どれにするかな。

 なんとなく目を引いた白のコートに手を伸ばしてみると、さわり心地がとてもいい。高級感ハンパないわ。


「お目が高い! こちらはカシミヤのビーバー生地に二層のボンディング生地を合わせた、上品な質感と柔らかな着心地を追求したコートとなっていまして」

「はい、シャープなシルエットを追求したスリムフィットのシングルコートなんです。体のラインに沿ったタイトなパターンメイキングで、スマートな印象を際立たせますね。また、ウエストにかけて絶妙なシェイピングを施し、メリハリのある洗練されたシルエットを実現してもいます。すっきりとしたノッチドラペルと、アームホールを高めに設定した細身の袖で、モダンでエレガントなただずまいを演出したものでして、お客様には大変お似合いになると思いますよ」


 なに言ってんだ、こいつ。


「どうする、アオイ」

「へ?」


 マドカもこれはかなりいいと思う、なんて言っている。

 でもあの説明が全然、わからん。なにを言われたのか、これっぽっちも全然わからんかった。


 うーん、まあいいか。見た目的には気に入ったし、さわり心地もめっちゃいい。もうこれでいいや。せっかくマドカが選んでくれたものだし、お勧めみたいだしね。

 試着で羽織ってみたらサイズ感もちょうどよかったので、ささっと決めてしまった。


「ほかはどう?」

「へ?」

「こっちも似合うと思うのだけど」


 当然のように聞かれてしまった。まだ終わっていなかった?

 もしかして、1点だけ買う感じの店ではない? それは上客のマドカだからでは?

 目の前にはたくさんのお洋服が並べられたテーブル。ニコニコと様子を見ている3人もの店員さん。


 わかった、これだけでは終われない。そういうことだね。

 これが、お金持ちの買い物ということ。


 私も真の意味でお金持ちの仲間入りを果たすには、メンタルが大切だ。単に稼ぎや貯金の額が大きいだけでは、それは真の金持ちとは言えない。

 メンタルから金持ちにならなければ!

 勉強させてもらいます、マドカ先輩。


 はい、お買い上げです。



 夢かうつつか、妙な感覚に陥りながら外に出た。高級店らしく、お見送り付きだ。こういうものなんだろう。

 前を進むマドカとツバキは満足そうな顔で話をしている。私はどこか現実感の薄いまま足を動かす。


 完全にこれまでの常識をぶっ壊す買い物をしてしまった。

 自分の部屋どころか実家さえない私は、当然ながら決済方法が現金だ。クレジットカードを使う浮世離れした連中とは違い、現ナマと引き換えで物を買うのである。

 今日は高い買い物をするつもりだったから、それなりの持ち合わせがあった。それは当然だからまあいい。


 しかし。それにしても、しかしだよ。

 まさかひとつの店のお買い物で、白い帯で束ねられた札束をドドンと6つも取り出す羽目になるとは完全に予想外だ。想定以上にもほどがあるだろ。


 私が買った商品はわずか3点にすぎない。

 ハンドメイドの高級品のコートを3着だけ。ハンドメイドの高級品というのはわかる。でも、わずか3着の服がなんで538万円になるのか。

 理解不能な世界だ。マジで意味わからん。


 先に精算したツバキが普通にななひゃくうん万円とか言われているのを聞いて、いやいや聞き間違いだろ、え? マジ? レシートは? は? けた数多すぎ。マジじゃん。

 そこに至って、私はようやくあそこがどういうお店か思い知ったのだ。


 さすがにだまされてね?

 これは常識があれば、誰だって思い浮かぶ疑問だね。間違いないよ。

 たかが服が、なんであんな値段になるんだよ。防御力は低そうだし、魔法の効果もないのにね。当然の疑問ですわ。


 でも!


 ああいうのはそれだけの値打ちがあると信じて買うものだ。

 それがお金持ちというもの。多くの人がそのブランドとクオリティに、それだけの価値を認めているからこそ成り立っている商売だ。


 庶民を脱し、お金持ちたらんとするならば、この程度は平然と受け入れていこう。

 そうしよう!


「うわああああああっ! やっぱ納得いかねーわ!」


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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 >高級買い物、やはり納得行かぬぅ!(旧ブロ○ー並感 まぁそれに価値を見出だすかは本人次第ですし、ちゃんと活用するなら問題ないんですよ。 でもな葵ちゃん?ブランドや高級品に必要以上…
100円から100万円くらいの跳ね上がり……金銭感覚こわれちゃった……
段階を蹴っ飛ばしてエレガントでおハイソな世界に踏み入れたらそらしゃーないw 思い出せ 初めて握り締めた野口で食った牛丼の味を コーヒー牛乳イッキ飲みした銭湯の贅沢を ぼろのお古とお別れ出来たお得なフリ…
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