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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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高級店の罠

 神楽坂のダンジョン管理所には、ハンター向けのお店がたくさんあって超便利。

 ハンター向けの道具だけではなく、日用雑貨などのお店までたくさんある。だから私たちも普段から利用している。私は消耗品くらいしか買わないけど、マドカとツバキは戦闘用の装備をよくお試しだとか言って買っていた。


 だからこそ休日のお買い物は、いつもと違う場所に行く。お出かけ!


 午後の2時頃に待ち合わせだから、今日はかなり寝坊した。私の場合は休みでも割と早起きだけど、しっかり休むためにのんびりすることが多い。

 そんな昼下がり、ホテルのロビーで雪乃さんとだべっていると、ホテルの前に車が止まるのが音でわかった。


「お、来たわ。じゃあ行ってきます」

「いってらっしゃい、葵さん」


 ホテルを出て、マドカとツバキが乗っているタクシーに乗り込む。


「ういー、お迎えご苦労」

「運転手さん、銀座までお願いします」


 行き先は高級ブランド店が立ち並ぶ銀座だ。神楽坂からは30分もかからない。

 私たちはお金持ちだからね。妥協なく、良い物を買う。とりあえず街をぶらぶらと歩き、気になった店に入る。あとは予約した時間になったら、老舗の魔法武器専門店に行くことだけ決めている感じだ。


 適当な場所でタクシーから降りたら、さっそく3人で歩き出す。

 最近はおしゃれタウン神楽坂をホームにしているせいもあってか、いかにもな銀座感ただよう街にも気後れすることはない。こういう街を歩いている奴の大半は、どうせ田舎者だ。偏見だけど、たぶんそう。


 とにかく平日の昼間だからか混雑はない。適度に人がいて、適度ににぎわっている。気候もいいし、ショッピングがてらに歩くには最高の日かもしれない。


 さて、今日の目的は買い物だよ。

 どこかに入ろうとは思うのだけど、立ち並んだ店がどれも高級感出しまくりで、いざとなるとちょっと入りにくい。店によっては、人力でドアを開け閉めする仕事の人までいるくらいだ。東中野では見たことないね。


 というか、なんだよあれ。自動ドアにしろよと思うけど、あの人は変な客が入らないよう、ガードマン的な仕事もしているのかな。ああいうのを見てしまうと、初心者にはアウェー感が強すぎる街だとどうしても思ってしまう。


 私とツバキが精神的に一歩引いているのとは対照的に、マドカは実になじんでいる。頼りになるわ。


「ねえねえ、マドカ。ここまで来といてなんだけどさ、ちょっと居心地悪いわ。これって店、普通に入ってもいいんだよね?」

「なに言ってるの、変な格好しているわけじゃないんだし別に大丈夫よ。会員制の店や予約が必要な店もあるけどね。もしダメって言われたら、出ればいいだけよ。アオイもツバキも、気になった店があったら入りましょ」


 それもそうか。でもね。


「やっぱマドカが店選んでよ。どうせ服も買うんだよね? 化粧品とかアクセとか、どこでも付き合うからさ。なんとなく店に入って趣味と合わなくても、すぐには出にくい感じするし。お勧めがあるならそこで買うわ」


 私ったら、やっぱ小市民だわ。少々の貯金があったところで、まだまだ小市民!

 早く成金マインドを身につけたいね。


「うちも、まどかおねえに任したい」

「しょうがないわね。じゃあ、まずは化粧品見たいから付き合って」


 どこへでも行きますとも。


 少し歩いて大きなビルの化粧品売り場に行くと、マドカがさっそく美人の店員さんに話しかけた。あれは美容部員とかいう立場の人だっけ?

 私もこれまでにマドカの付き合いで何回か化粧品は買いに行ったけど、ほとんどが聞かれるがままに答え、言われるがままに商品を買っている感じだ。


 ぶっちゃけ必要性をあまり感じていない。なんとなく流されて、雰囲気で買っている!


 今日もまた、私はカモにされてしまうのか?

 いや、そんなことはないのだよ。私はノーと言える日本人だからね、今日は買わないよ。


「いらっしゃいませ。本日は何かお探しのものはございますか?」


 ほらきた、カモになってたまるかよ!


「あー、いや。ちょっと見てるだけなんで。ね、ツバキ」

「う、うん」

「初めてご来店いただいたお客様ですね。当店は豊富な商品を取りそろえておりますので、ゆっくりとご覧になってください」


 笑顔が素敵な店員さんだ。ニコニコと見つめられている。

 くっ、この笑顔には弱い。どうすれば。


「もしよろしければ、お客様の普段のスキンケアについて、お伺いしてもよろしいでしょうか?」


 しまった、こうなってしまったら逃げられない。いつもの展開ではないか!

 でもなぜか無視できない。この笑顔の威力よ!


「……えっと、洗顔と化粧水くらいしかやってない感じっす」

「なるほど。基本的なお手入れをされているんですね。お肌の調子はいかがですか? 気になる部分などございますか?」

「あーっと、そうっすね。最近、ちょっと乾燥が気になるような……」


 しまった、つい普通に答えてしまった。おそるべし、美容部員のトーク力!


「わかります! これからの季節は特に乾燥対策が大切になってきますから。実はいま、お客様のような若い方向けに、みずみずしい使い心地で、うるおいをしっかりキープできる新商品をご用意しているんです。少量お試しいただけますが、いかがでしょうか?」


 お姉さんはうかがいを立てるようなことを言いつつも、すでに動きだしていて隙がない。


「では、こちらの美容液を手の甲でお試しください」


 勝手に話が進んでいって隙がない! お姉さんは自然な流れで私の手をとって、液体をぬりぬりしている。

 おそるべきことに、ツバキの手袋と顔を隠すベール付きの帽子までもが、極めて自然にはぎ取られているではないか。いつの間に。


「こちらの美容液は話題のドラマで人気の女優さんも愛用されているんですよ。見たことありませんか? 月曜日の夜の」

「女優?」

「うち、知ってるかも。話題になっとった」

「そうなんですよ、すごく話題になっているんです! それにしてもおふたりとも、肌がとってもきれいですね。普段からきちんとお手入れされていますか?」


 まあね? ちょっとは気を使ってますからね?


「いやー、とりあえずの一応ってくらいは」

「うちも、まどかおねえに言われるから……」

「そうなんですね。実はいまなら、この美容液とクリームをセットでお求めいただくと、限定デザインのポーチをプレゼントさせていただいているんです。こちらなんですが」


 ポーチとやらを見せられた。

 なんだ、これ。ブタみたいな顔をしたウサギがプリントされている。いらねー。


「かわいい!」

「え、ツバキ?」

「かわいいですよね! さらに今日は素敵なタイミングで、新商品発売記念として先着30名様限定で、ミニサイズの化粧水もついてくるんですよ。これがとっても人気で、もう残りわずかなんです」

「葵姉はん、どないしよう?」


 うん、欲しいなら買えばいいと思うけど。


「よろしければ、おそろいでご購入されてみては? プレゼントのポーチは2種類ありますので、お好きなほうをお選びいただけますよ。いまならスキンケアアドバイスカードもお付けできますので、お家でのケアも簡単にできます」

「……ほな、試してみよかな。葵姉はんどないする?」


 ツバキは2種類あるおまけのポーチを、どっちも欲しいみたいで目移りしている。仕方ないなー。


「じゃあ、私も買ってみるかな」

「ありがとうございます! おそろいなんて素敵ですね。あ、そうだ! おふたりだけの特別なサービスなのですが……実はもうひとつ、素敵なサンプルもご用意できるんです――」


 乗せられた。精算していて思う。

 私はいったい、なにをやっているんだ。


 まあ、別にいいけどね。買ったものは普通に使うつもりだし、ポーチをあげたツバキは喜んでいたし。

 なんにしても、しばらく化粧品は買わないよ。絶対!

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