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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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進む先はまだ遠く

 パーティーを組んでダンジョンに入るようになって、早くもひと月半ほどが経過した。

 すでに秋も真っただ中の10月に入っているのに、昼間はまだまだ暑い。どうなってんの。

 それにしても時の流れが早く感じる。私たちは毎日が一生懸命だから、特にそう感じるのかもしれないね。


 早朝から夜まで毎日、週に1度の休みをはさみ、ひたすら労働を続けている。

 そのお陰で私たちはパーティーとしての能力を高め、そして遅れていたマドカとツバキは最初に出会った時よりずっと強くなった。同じダンジョンに入り続けているせいで、マンネリ感はあるけど順調そのものと言っていい。


 この間に貯金は増えたし、各自のレベルは上がり、スキルの面でも成長できた。

 あれから徐々に階層を深くし、私の好きな第十七階層にずっと居座ることもできるようになった。


 ただ、レベルアップに必要な経験値が異常に多いせいで、私はひとつしかレベルが上がっていない。めっちゃ遅い。

 レベルが低かったマドカとツバキは、私よりももらえる経験値が多かったからか、もうレベル差はほとんどなくなりつつある。これはまあ、いいことだと思うけど。


 そんなふたりはレベルの上がり方が異常に遅いと言っているけど、それはたぶんウルトラハードモードのせいだから仕方ない。私だって遅いと思うけど、どうにもならないし。



 ハンターとしての活動はそれなりに順調だけど、気になるのは日常のほう。

 ダンジョンは専用のソロダンジョンだから問題なくても、外ではずっと私たちに付きまとう視線がある。これは絶対に気のせいとは違う。

 特にマドカには、好意的でない視線が向いている時が結構ある。くだらない噂に惑わされたアホな奴らだと思うけど、ホントのマジで迷惑というかうっとうしい!


 しかも、まあいろんな意味を持った視線が、いくつもいくつも私たちには向けられる。有名税なんて払う筋合いないってのに。

 気にしても仕方ないけど、うっとうしいものはうっとうしい。超うざったいわ。


 まったく、邪魔な奴らだよ。ストーカーとか、パパラッチみたいな連中か、とにかくそういうのが悩みと言えば悩みかな。

 いっそのこと声をかけてくれれば、ほかのスカウトマンとかいう連中のように、けんもほろろに突き放してやれるのに。面と向かって怒れば、多少なりとも効果はあるからね。



「ねえ、そろそろ飽きない?」


 厳しい労働後の夜、ここは遅い時間まで営業している素晴らしいお店だ。そこでわんぱくにカロリーを摂取し、食後のお茶を飲んでいるとマドカが不意に言った。

 不穏なセリフだ。その暴言はとてもスルーできない。


「牛丼は飽きない。そうだよね?」


 贅沢よくばりセットは、私がどれだけお金持ちになろうと、贅沢よくばりセットであり続ける。

 牛丼と豚汁とサラダの基本セットに加えて、から揚げと半熟玉子。この究極コンボの存在が色あせることはない。別に毎日食べているわけではないし、飽きるなんてことがあるわけない。


 いくらマドカがお嬢様であってもだ。贅沢よくばりセット、これはすごいだろ!


「葵姉はん。まどかおねえが言うてるのは、そんなんとちゃう」

「あんですと?」

「ダンジョンの話よ。アオイが勧める神楽坂の第十七階層のお陰で、あたしもツバキも見違えるほど成長できたわ。でも最近はもう慣れてしまって、集中が切れがちなのよね。アオイも気づいてるでしょ?」

「うちも、ちょい飽きた」


 あの階層は骸骨くんが、わんさか出てくる非常に効率的な稼ぎスポットだ。

 魔石と経験値、そして数字にならない戦闘経験の面でも、神楽坂ダンジョン第十七階層は効率的で魅力が高い。


 でもモチベーションは無視できない要素だね。

 やる気のある私たちでも、楽しくやるに越したことはない。効率ばかりを求めるのはよくないというのもわかる。


「まあ実際、私もちょっとは飽きてるけど。でも階層を進んでもどうせ骸骨くんだからなー。かと言って、ほかにいい場所があんまないんだよね」


 次に取るサブクラスのため、よさそうなダンジョンがないかは最初に探している。

 ほかに適当な候補がないからこそ、神楽坂ダンジョンに潜り続けているのだよ。


「拠点を変えるほどではないわ。気分転換に、たまには別のダンジョンに行ってみてもいいんじゃない?」

「おー、気分転換? それ、いいかも。観光がてらの旅行ってのもアリかもね。どうせ行くなら、東京にはない感じのダンジョンとか行ってみたいわ」

「いいわね。明日は休みだし、魔石の換金に東中野に行って、夕歌さんにどこかいい場所教えてもらわない?」


 おお、なんか盛り上がってきたね。


「夕歌さんならバッチリ教えてくれそう。でも夕歌さん、夜担当だから昼間は空くね。それぞれ普通に休む?」

「旅行、行くんやったら、お買い物に行かへん?」

「あたしは武器とアクセサリーが見たいかな」

「また? この前買ったばっかじゃん。旅行関係ないし」


 マドカとツバキはハンター用の装備を中心に無駄遣いしまくっている。


「別にいいでしょ。あ、化粧品も新しいの出てたっけ」

「うちは冬物のコート。旅行先が寒い場所ならいるやろう?」

「まあ冬物は私も欲しいね。夜はちょっと肌寒くなってきたし。秋と冬兼用のが欲しいわ。というかお金たまったし、そろそろ本気でタワマン買おうかな」


 なんだかんだと忙しくしていたことと、ホテル暮らしが便利で必要に迫られている感が全然ない。スマホもなければないで別によくね? と思い始めてしまっている。

 それでも私は究極の成りあがりストーリーを達成するため、ホームレスからのタワマン購入は成し遂げたい。


「タワマンって、まだそんなこと言ってるの? しかも賃貸じゃなくて買うって。ひとりで住むのにそんなのいらないわよ。そうだ、あたしもそろそろ自分の部屋が欲しいと思っていたし、あたしとツバキと3人で住む? ルームシェア」


 マジかよ。その発想はなかった。

 ちょっとわくわく感が込み上げたけど、いや待てよ。


「うーん、私ったらこれでも結構、綺麗好きなんだよなー」

「どういう意味よ」


 わいわいと食後の時間を楽しんでいると、ふと思い出した。大事なことだ。


「そういや新しいメンバーって探してる?」

「一応、あたしは情報収集してるわよ。目ぼしい人は見つかってないけどね」

「……うちは、特に。葵姉はんは?」

「探すっていってもきっかけがないと、なかなかね。神楽坂にはめちゃいっぱいハンターいるから、簡単に見つかるかと思ってたんだけど」


 これはと思う雰囲気ある人がいても、すでに仲間がいるパターンばかりだ。


「選ばなければ、それは簡単よ。ハンターが何人いると思ってるの?」

「具体的にはどれくらいいんの? ハンターランキングって、何万位とかまで順位つくんだよね。10万人とか?」

「ハンター自体は日本だけでも100万人以上いるみたいだけど、実際に活動しているのは75万人くらいよ。いまの個人ランキングの最下位が、そのくらいだったはずだから」


 そんなにいるんだね。ちょっと想像つかないわ。


「ちなみに私って、個人ランキングだと何位なの? レベルランキングだっけ」

「アオイのレベルだと、16万から17万位とかそのくらいよ。直近の半年で活動実績のない人はランキングから除外されていくし、レベルが上がる人は毎日いるわけだから、順位はどんどん更新されるけどね」


 え、そんなもん?


「17万位って、マジで? 私たちって、全然じゃん」

「統計によれば、レベル19以下のハンターが全体の8割以上だからね。レベルが30まで上がって、ようやく4万とか5万位に入るくらいじゃない?」


 うん、とりあえず個人ランキングは気にしても仕方ないことがわかった。

 パンチングマシンのランキングで、ちょっと上位に入ったからって、レベル的に私はまだまだ下っ端だったわ。


 微妙に落ち込んだ気分になりながら今日は解散した。

 明日は休みでちょうどよかったかも。気分転換にお買い物しよう。


 問題はストーカーみたいな奴らだけど、人目なんか気にしていられるか!

 楽しい、楽しい、お買い物!

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ぼっち女子が友達とショッピング とか真っ当な青春してて涙出ますよぼっち でもたまには、公園のベンチが恋しくなって欲しい 元ホームレスとはそういうものだ!
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