パーティーアタック準備
ダンジョンの前に、お腹がいっぱいのツバキのため、腹ごなしの散歩をすることにした。
神楽坂の町並みは石畳の横丁やら、古い日本家屋風の料亭やらがあったりで、東中野とは趣が違う。普段は歩かない道をみんなで散歩することは、それなりに楽しかった。
どこからか向けられる視線を気にするのは、とっくにやめた。
マドカが美少女すぎるのだから仕方がない。こっそり見るくらいは許してやる!
お散歩タイムを終え、人でごった返すダンジョン管理所に入ってみれば、またもや私たちは注目の的だ。まだまだホットな話題になっているらしい。
しかも今回は謎の全身黒づくめコーデで顔まで隠した怪しい女が加わり、3人組となっているからさあ大変。ざわめきがうっとうしいくらい。
ツバキは人見知りのような印象だったから、これだけ人の多い場所は大丈夫かなと思ったけど、別に誰かとしゃべる必要はないからか特に心配ないようだった。
毎度の入場前の登録だけ済ませたら、さっそくダンジョンアタックのお時間です!
「ほいじゃ、いくよ」
マドカの『スキルリンクⅠ』と私の『ソロダンジョン』を発動させ、ダンジョンの領域に入り込む。するとそこには私たちだけしかいない空間のできあがり。
スキルの連係は前回のお試し以来だったし、3人でこれをやるのは初めて。ちょっと緊張したけど、上手くいってよかった。
「ふー、やっぱダンジョンに入るとシャキッとすんねえ。よし、着替えよっか」
「待って、アオイ。着替えって、ここで? 更衣室に寄らなかったから、今日は浅い階層で簡単な確認だけかと思っていたのだけど……」
「え、バシバシやるつもりだよ? さっそく、私のウルトラハードモードなダンジョンを体験してもらうから! だから装備は全身バッチリ決めちゃってよ」
「そんなこと言っても、ここで着替えるの?」
まったくもう、恥ずかしがっちゃって。
「大丈夫、大丈夫。誰も見てないし、カメラとかにも映んないから。さ、真の自由を共に感じよう!」
ばばっと勢いよく、英国お嬢様風の服を脱ぎ散らかした。
「……アオイって、いつもこんなことをしているの?」
「だって更衣室って、混んでるじゃん。いいからさっさと着替える! ほいほい、ツバキも脱いで」
「その、うちはこれがダンジョン用の装備」
「そうなん? たしかに、よく見たら普通の服とは違うね」
普段着にしているのか、なるほど。私も最初は魔法学園の制服ルックを普段着にしようかと思っていたし、それもありだよね。
「いいから、アオイは早く服を着て」
「ほーい、マドカは早く着替えてね」
ブツブツ言っているマドカも、すぐに慣れて真の自由の素晴らしさを知るだろう!
ツバキだけが着替えず見守る中、私はささっと、マドカはもたもたとフル装備に着替え終えた。
「なんか私のと雰囲気似てない?」
「前に見せてもらったでしょ? 似たような装備が実家にあったから、それを選んだの。かなり性能も高かったし、これがいいかなって」
私のは白シャツに黒のスカートとジャケットっぽい感じだ。ジャケットがちょっとマント風になっていて、それが魔法学園っぽい雰囲気を出している。
マドカの装備は私のに全体的に似通っていて、違いはマント風ジャケットの丈がかなり長く、色が深い赤であることだ。これはこれでカッコよく、マドカによく似合っている。
これにて魔法学園の制服ルックがふたりと、ヨーロッパ貴婦人の喪服ルックがひとりの組み合わせ。靴やアクセサリーもバラバラだし、統一感は全然ない。
「武器はなに使うの? 私のはこれね」
自慢の頼れるハンマーさんと投げ斧、そしてロングブーツを履いた足を上げてアピールした。マドカにはお泊り会の時に見せたから、ツバキのために見せてやる。
「アオイって魔法使いタイプを想像していたから、どうにもその武器は違和感あるのよね。あたしのはこれよ」
「おー、銃じゃんか。しかもでっかいね、カッコイイわ」
「銘は滅びの星屑散弾魔導銃といって、魔法武器の一種よ。強いから期待して」
魔法武器! 散弾魔導銃! 滅びの星屑!
なんかめちゃカッコいいワードが飛び出しまくりだ。
「うちのは、これ……」
残るツバキの武器は、なにやら薄くて小さい。指の間にはさんだそれは、どう見ても短冊のような紙だ。
「それが武器?」
「ツバキは呪符を武器にできるのよ」
「呪符! かっけー!」
「へ、へへ……ふへへ……」
よくわからんけど、イメージはできる。陰陽師的なアレだと思う。
「どうやって使うの?」
「魔法で、飛ばすだけ……そやけど、呪符作りが大変」
「作る?」
ツバキは困ったようにマドカを見る。なんだ、しゃべり疲れたのかな。
「呪符は強力で応用が利くけど消耗品なの。使うと自作して補充しないといけないのよ。だからツバキは、基本的にはほかの魔法を使って戦うわ」
「それは実戦で、見せたる」
たぶん言葉で説明するのが面倒になったんだろう。まあ見ればわかるなら、それでいいや。
「よっしゃ、百聞は一見に如かずってことで、とりあえずは戦ってるところを見せ合おう。それからフォーメーションとか連係とか考えるってことでいい?」
「あたしとツバキはそれでいいわ」
「じゃあ、第五階層くらいで試してみるかな。いくよー」
五階層毎に設置された転送陣は、一度でも身分証を登録すれば使用可能と聞いた。そして手を繋いだり、体に触れたりしていれば誰とでも一緒に転移できるらしい。
関西に住んでいたツバキはこの神楽坂ダンジョンは初めてだけど、私たちと一緒なら第五階層まで一気に行けるわけだ。便利だね。
転送陣を起動すると、ほぼ一瞬で景色が変わり江戸っぽい夜の町に移動した。
数十メートルは離れたところに、さっそくモンスターを発見。私も第五階層は久しぶりだけど、あれは足軽系骸骨くんの一種だね。
遠くからではわかりにくいけど、近寄ってみればあれが銀色の骨であることがわかる。茶色のボロい防具で体を覆うスタイルだ。そして刀か槍を持っている。
たしか、あの足軽系骸骨くんはそこそこパワーがあった。でもその程度の感じだったかな。特殊な能力はなかった気がするし、この階層だと骸骨は複数での行動をしないから、特に難しい敵とは思わない。
マドカはレベル10、ツバキはレベル12と聞いた。私と同じ歳の割には、ツバキも結構レベルが高い。なんでも、親族とよく近所のダンジョンに通っていたのだとかで、実力に期待だね。
とりあえず最初だから、第五階層はテストにちょうどいい難易度と思う。
問題は、ここが『ウルトラハードモード』なダンジョンであること。このスキルはマドカにリンクしてもらわなくても発動状態にある。これはスキルの効果がダンジョンそのものに対して適用されているから、になるのかな。そうでなければ私だけ敵が強くなるとか、おかしな状況になってしまうからね。
とにかくだ。ノーマルダンジョンとは難易度がどれくらい違うのか、ふたりに教えてもらうとしよう。そうしよう。
「ねえアオイ、ここって本当に第五階層であってる?」
「そりゃあね。なんかある?」
「あたしが知ってる第五階層とは、全然違うモンスターみたいよ」
なんと、全然違うのかい。強めではあっても、マイナーチェンジくらいのイメージだったわ。
あとは戦ってみて、どうかって話かな。




