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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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旅の道連れ人

 約束の日の昼下がり。今日は実家のある関西に行っていたマドカが戻ってくる。

 ホテルのフロントで雪乃さんとだべっていると、開いた自動ドアから生暖かい空気が流れ込んできた。

 振り返らなくても不思議とわかる。待ち人の登場だよ!


「ごめん、アオイ。少し遅れた」

「15分遅刻、アイスおごりの刑に処す! 違った、やっぱかき氷がいい!」

「わ、わかったわ」


 知り合ってから間もないし、まだ一度しか会っていない仲だ。それでもひと晩共に過ごせば、軽口を叩けるくらいには仲良くなれる。心の友よ!


「いや、冗談だって。ところで、そっちの人は?」


 1週間ぶりに顔を合わせた九条マドカは今日も美少女だ。軽くて柔らかそうな赤いシャツと白のスカートが、そんな彼女によく似合っている。肩から下げたポーチも赤で、きっと好きな色なんだろうね。


 そしてもうひとり、全身黒づくめの女がいた。長袖の黒シャツは首元までピッチりとボタンを留めて、頭に乗せた帽子には黒のベールがつけられて顔が判然としない。さらにゆったりと膨らんだスカートは足首まで覆い隠し、手には黒いレースの手袋まではめている。


 肌を極力見せない、まさに全身黒づくめコーデ。なんかヨーロッパ貴婦人の喪服みたいだ。

 映画の中から飛び出してきたみたいで、ちょっとカッコいい。うん、なんかすげーわ。


「紹介するわね。ほら、ツバキ」

「う……まどかおねえ、もう帰りたい」


 想像とは全然違う声、ひどく疲れたような、かすれた声だ。ひょっとしたら体調が悪いのかも。


「どうしたん? 私の部屋で休む?」

「あ、優しい……」

「大丈夫よ、いつもこの調子だから。ほら、ツバキ」

「……あの、うちはその、九条つばき」


 方言? とにかく、とんでもないレベルの恥ずかしがり屋か人見知りのようだ。とりあえず体調がどうのということではないらしい。


「なるほど、ツバキね。私は永倉葵、よろ。もしかして、マドカの妹?」

「そうね、従妹いとこよ。歳はひとつ下で、小さい頃からおねえって呼ばれてて」

「へえ、じゃあ私と歳は同じだね」


 私は16歳で、マドカは17歳。この程度の歳の差なんて、誤差だけど。


「アオイ、お昼はまだよね? あのお店で話さない?」

「オッケー、じゃあ行こっか」


 フロントで優しく見守る雪乃さんにも挨拶して、ふたりと一緒に外に出る。

 それにしても夏に黒づくめのコーデは暑そうだ。まあ好きでやっているのだろうから、とやかく言うまい。



 少し歩いて看板のないレストランにやってきた。この穴場の店には、これからも世話になりそう。誰かに見られているような、うっとうしい視線も店に入ってしまえばシャットアウトできる。

 前の時と同じ半個室のテーブル席に座ったら、ぱぱっと注文を済ませてしまう。


 さて、今日は午後からダンジョンに行く予定だったけど、妹を連れてきたということは予定変更になるのかな。東京観光でも別にいい、たまにはね。


「ツバキ、お店の中だから帽子はとって」

「恥ずかしい……」


 否定するようなことを言いながらも、素直に言うことを聞いている。そんな彼女の黒のベールに覆われた顔がやっと見えた。


「お、やっぱマドカにちょっと似てる。さすが従妹」

「まあね。でも、やせすぎだし顔色も悪いでしょ?」


 それはたしかに。美少女マドカと同じ遺伝子を感じるけど、頬はこけているし、顔色も青白くて健康的には全然見えない。

 陰気な雰囲気と黒づくめの格好も相まって、言ってしまえばちょっと不気味な感じはある。不健康だけど綺麗な顔立ちが、余計に不気味な印象を際立たせているようにも思える。


 でもね、私はその個性を好ましいと感じる。

 私にはわかる。これは、ひとつのスタイルだ! 他人に流されない個性は素晴らしいことである。


「実際に体調は悪くないんだよね? だったら雰囲気あっていいよ。マドカとは正反対なのが、むしろいい感じ?」

「わかって、くれるん……?」

「あたぼーよ!」

「優しい……葵姉はん」

「え、私も姉なの?」


 なんでそうなんの。


「ツバキは気に入った女の人は、みんな姉さんて呼ぶのよ。アオイは随分と気に入られるのが早かったけどね」


 マジかよ。


「そういや方言? マドカは使わないの?」

「あたしはこっちが長いから。ツバキの方言はかなり怪しいところあるけどね」

「へえー、そうなんだ」

「あ、お待ちかねの料理がきたわよ。話の続きは食べてからでいい?」

「もちろん。私は食べるという崇高な行為に集中したいからね。込み入った話なんか無理」

「わかってるわね、アオイは」


 ふっ、あたぼーよ。


 次々と料理が運ばれて、テーブルがいっぱいになった。

 色鮮やかなサラダと小鉢の群れ。そして今日のメイン料理には、目を引き付けられずにはいられない。

 皿に盛られた大盛りの黄色いライスの上に、分厚く切られた牛肉がこれでもかこれでもかと乗せられ、さらにビーフシチューのようなタレがドバドバかけられた料理が今日のメイン。美味そうすぎる。


「ツバキも残さず食べるのよ」

「こ、こないには、食べられへん」

「体重を増やすって約束したでしょ? ほら、いいから食べるわよ」


 いただくでござる。

 最近覚えたばかりのベジファーストを実戦しつつ、崇高なる食の時間に集中した。



 ういー、食った食った。

 寝転がりたい欲求を完封し、背筋を伸ばしたまま椅子に座り続ける。これも雪乃さんの教育の賜物です。

 私、永倉葵に隙はない。英国お嬢様風の格好に恥じない淑女なのである。たぶん。


「うう、うえっぷ。し、しんどい……」


 食べ過ぎて食後のコーヒーも飲む気にならないツバキは、口を半開きにしてうめいている。かなり間の抜けた姿が、彼女の不気味な雰囲気を台無しにしていてなんだか面白い。

 苦しむ女子を尻目に、私とマドカは食後のデザートまで堪能していた。コーヒーと共に、完璧な食後である。


「それで、実家はどうだったん?」


 マドカは装備をもらいに実家へ行き、そこで使い方も教えてもらうと言っていたはずだ。武器の手ほどきをしてもらったとすれば、そんなにゆっくりできなかったんじゃないかと思う。


「目的のほうは上々の成果だったんだけど。帰る間際に、ツバキも連れて行けって言われちゃって」

「東京観光に?」

「いいえ、ダンジョンハンターとして」

「あ、そういうこと。じゃあ早くも3人目のメンバーをゲットできたんだ」

「いいの?」

「マドカが仲間として認めてるなら私もいいよ。それなりの力はあると見た!」


 私もマドカも必死にやると決めている。実家で親族にどうこう言われようと、邪魔になるような存在なら連れてこないはずだ。マドカの覚悟はそんなに安いものではなかったと信じているよ。

 それにマドカの妹なら、信用の面でも心配なさそう。私たちって、他人に知られたくない秘密がいっぱいあるし。仲間にするならちょうどいいのかも。


「正解、ツバキは優秀よ。少し休んだらダンジョンで、実際に見てもらうのがいいと思う。あたしもアオイのスキルや実力を確認したいし、全員でお互いをもっと知り合う時間にしましょう」

「おうよ!」


 いよいよパーティーでの活動だ。

 わくわくが止まらないわ! やったるぞ。

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