報告と貯金と勧誘のお願い
初めての仲間といきなりのお泊り会。そんなイベントだって、これからはいつだって好きに開催できるはず。
スパッと解散した早朝、少々の寝不足気味でも労働は欠かさない。意欲があり余っているからね!
いつもどおりにソロの活動でも、仲間がいると思えばさらなる力が湧き上がってくるかのようだ。
これが、友情パワー!
タクシー移動で神楽坂ダンジョンに到着すると、周囲の視線や噂など気にもかけずに受付を済ませてしまう。
空気を読まずに話しかけてくる奴にだって、無視はせずに応えてやる。感謝しろ!
「私、もうパーティー組む人決めたんで。そういうことなんで」
「だからさ、まとめて俺らと組めばいいって」
「噂じゃお前らだけでほかには誰もいないんだろ? 俺らも人数少ないからさ、ちょうどいいと思わねえ?」
「思わねえ! 絶対、無理! 永遠におさらば!」
スキル『ソロダンジョン』発動!
ふいー、朝っぱらからうっとうしい野郎だよ。やっぱ専用のダンジョンは快適ですな。
いつものように真の自由と解放感を得ながら、戦闘装束にお着替えタイム。これが済むと、ビシッと気が引き締まる。
「今日もがんばるぞー、おー!」
張り切りすぎて、いつも以上にがんばってしまった。
そんな毎日が通りすぎていき、あっという間にマドカと会う約束の前日になった。
しかももう夜だ。連日の激しいバトルでも疲れなどない。私には力があり余っている!
東中野に移動して、管理所に突撃だ。
「たのもー!」
ずっと神楽坂ダンジョンにアタックしまくっていたせいで、ここに来たのはちょっと久しぶり。
換金しないといけない魔石がたまりにたまっているから、精算が楽しみだね。
「おいすー、夕歌さん」
「おいすー、葵ちゃん。久しぶりじゃない。そうそう、雪乃から聞いたわよ? 早く話したかったんだから」
私がパーティーを組んだことを言っているらしい。ホテルで世話になっている雪乃さんは、この夕歌さんのマブダチだ。雪乃さんに話したことは、秘密にしてくれと頼まない限りは筒抜けだろうね。
「いやー、ついに組んじゃったわ。仲間ができてテンション上がっちゃって、いつも以上に暴れまくってたよ」
「噂にもなってるけど葵ちゃんが組んだのって、元アイドルの九条まどかなんでしょ?」
「そうだよ。私は全然知らんかったけど、めっちゃ美少女だよ。ハンパない」
「葵ちゃんと並んだら絵になりそうね。そうだ、今度こっちにも連れてきてよ」
「まあ一緒に組むんだし、そんな機会は普通にあるんじゃない? とりあえず魔石の換金よろ、すげーあるから」
次元ポーチからドバドバ出していくと、カウンターからこぼれ落ちるくらいになってもまだ止まらない。
「ちょ、ちょっと待った! トレーに入れて、トレーに!」
テンション高いからね、すまんかったね。つい勢いでやってしまった。
こぼれたものをいそいそと片し、粛々と査定を進めてもらう。いつもなら雑談しながらのところを、今日は魔石が多すぎてその処理だけでも大変そうだ。この時間、窓口には夕歌さんひとりしかいないからね。
そうやって魔石の査定を進めていき、やっと出ました合計金額。
「もう結構慣れたつもりではいたのだけど……葵ちゃんてやっぱりおかしいわね」
「いやいや、がんばった成果だから。それで、いくらになったん?」
「51,272,000円。全額貯金でいい?」
ファーーー! ごせんまんオーバー!
「うんうん、貯金でよろ。いやー、ついにきたわ。私の貯金、大台に乗ったわ」
「大台って、億になったことよね。そういえば葵ちゃんて、貯金してばっかりよね」
「まずは目標を達成したいからね。しっかし、これで余裕で億超えたわ。私も億万長者ってやつ? ホームレス成りあがり計画は順調でござるな」
「なにがござるよ。だまし取られたりしないようにね? 言いふらしたらダメよ?」
億万長者を前にして、夕歌さんは結構冷静だね。もしかして夕歌さんてお金持ち?
「まだ東中野で一番のタワマン買うには足りないし、買ったら一瞬で消えるから。自慢するなら、タワマン買った後にするよ」
「はいはい。それより、葵ちゃんがパーティー組むなんて、どういう心境の変化? 当分はソロでやるって言ってなかったっけ。やっぱりアイドルパワー?」
世間知らずの私は芸能人なんて全然知らんからね。アイドルとか関係ないし、どうでもいいわ。
「マドカとはいろいろ気が合って。それになんと私の『ソロダンジョン』に、マドカのスキルがあれば一緒に入れるみたいでさ。やっぱそれがでかいわ」
「へえ、そんなことができるんだ? でも葵ちゃんがソロじゃなくなって、私も少し安心かな」
「夕歌さんや、いつも心配かけてすまんのう」
「本当に思ってる?」
思えばこの人には世話になりっぱなしかも。いつもいろいろ教えてもらっているし、なんだかんだと頼りにしている。
「まあ安心しといてよ。これからパーティーの人数は増やしていこうって、マドカとも話してるから。あ、そうだ」
「なに?」
「もしハングリー精神あふれまくってて、将来有望か、絶望のどん底にいるようなソロハンターがいたら教えてよ。いろいろ条件あるけど、それさえ合うなら私たちのパーティーに誘うかも。夕歌さんの紹介なら考えてみるわ」
自分で言っててそんな奴いないわと思いつつ、もしもの可能性はある。一応、言うだけ言っておいて損はない。
私とマドカだけで新メンバーを探そうとしたところで、簡単に見つかるとは思えないから早めに手は打っておきたい。
「葵ちゃんと九条まどかのパーティーかー、下手な人を紹介するわけにいかないわね。まあ、ハンター同士の仲介も管理所業務の一環だから、ちょっと探してみるわね」
「おー、頼りにしてるよ」
「それで、いろいろある条件っていうのは?」
マドカのスキルリンクが作用することが最低条件。そのためには女であることと、体型がマドカや私に近いことが必要になる。これを満たさないと私のソロダンジョンには入れないからね。それを夕歌さんに伝えた。
「最低条件ってことで、よろ。あとはやっぱりハングリー精神あふれまくってないとね。じゃないと、私とマドカについてこられないと思うからさ」
「体型が近いって条件は、具体的な数字はわからないの?」
「だいたいでいいなら、マドカを基準に身長はプラスマイナス10センチくらいで、体重もプラマイ10キロくらいだって。両方ともギリギリだと無理かも」
「曖昧ねえ。まあ明らかに外れる人もいるから参考にはなったわ。ところで、九条まどかの身長と体重は?」
「ネットに載ってるってさ。噓偽りないって」
「本当に少しの誤魔化しもないの?」
「そう言ってたけどね」
さすがはハンパない美少女、自信に満ちているわ。