青田買い争奪戦
今日も今日とて、モンスターを狩り尽くす。もう第十七階層だと無双状態!
労働で稼ぐついでのストレス発散になるし、とても気分がいいですな。
特に神楽坂ダンジョンの中はずっと夜だから、深夜テンションのような感じでつい時間を忘れてしまうわ。
長時間の労働でお腹も減った。腕時計にチラッと目を落せば、晩ご飯にはちょうどいい時間帯だった。今日もがんばった!
「ふいー、そろそろあがるかー」
疲れた状態での戦いに慣れてきたし、戦闘技術に自信が持てるようにもなってきた。装備とスキル頼りの戦闘スタイルとはもう言わせない。言われたことはないけど。
バリバリ稼いだ満足感を噛みしめつつ、ダンジョンの出口付近でいつものお着替えタイム。
真の自由を感じながら解放感に浸り、タオルで汗をぬぐう。このままシャワー室に直行したい気分になるけど、ダンジョンの外は騒がしいからね。管理所の設備は使いにくくて仕方ないわ。
「お風呂とご飯、どっちを先にするかねー」
着替えたらダンジョンの領域から離れ、ソロの世界から騒がしい世界へと帰還のとき!
やっぱり夕食時でも神楽坂ダンジョンは盛況だ。今日もうるさいねえ。
「永倉葵スカーレットさん、ちょっといい?」
うお、誰。急に進路をふさぐなよ。
ぶつかりそうになって、思わず立ち止まってしまった。進路妨害は反則だろ。
「あ、抜け駆け」
「待てよ、こっちが先に声かけるって言っただろうが!」
「うるせえ、どけよ!」
「ちょっと! こっちが先に――」
「永倉、俺が先だ! いいか?」
いいわけねー。誰だよ、こいつ。
というかだよ。なんでか、私が出てくるのを待ち構える人々で、ごった返しているらしい。
ただでさえ混み合うダンジョン前が、人だかりになってしまった。もう通行の妨げどころではない。
どうしたもんかね、これ。
ここ数日は、やたらと話しかけられると思っていたけど、今日は特にひどい。
完全無視か走って逃げればなんとかなったのに、今日は無理っぽいね。
見せしめに誰かぶっ飛ばす? やっちまう?
「はい、はーい! こちらはダンジョン管理所警備部です。勧誘目的のハンターはただちに移動してください。勧誘はルールを守って実施しましょう。従わない場合にはペナルティを課すので、そのつもりで行動してください。こちらはダンジョン管理所警備部です――」
メガホン越しの割れた大きな声が、雑音をかき消すようにがなり立てた。
天の助けかと思いきや、素直に移動する人は全然いない。これは私が動かないと、ダメっぽいわ。
最悪、私が神楽坂ダンジョンを出禁になりかねない。世の中は理不尽なことだらけだからね。立派な成人女性である私は、そういう可能性を知っているのだよ。
メガホンの忠告もあったことだし、とりあえずは率先して私が歩き出す。すると道を開けてくれたのはいいものの、そのまま大勢がぞろぞろ付いてきやがった。
「道も開いたし、急いで逃げるかねー」
でもなー、ここで逃げても当分はこんな状況が続きそうだよね。
集まった奴らの目的が、私をパーティーやクランに引っ張り込むことなら、全部に対していちいち話を聞いて断るなんて面倒すぎる。
やっぱり私の意志を表明するのが一番かな。あきらめろって、そう言うしかない。
ダンジョンから戻った報告をするべく、受付の行列で待つ間も落ち着かない。牽制し合っているのか、誰も話しかけてこないのはいいけど、それも管理所から出るまでだと思う。
どうしようかな。ちょっと冷静に考えたい。
よっしゃ、頭を使ってやるぞ。働け!
うん、それこそテキトーな誘いに乗る気はないけど、ひょっとしたらいいと思える誘いだってあるかもしれないね。
ちょっと見た感じでは、何人かわからないくらいの人が私を誘おうとしているのだから、全部が悪い話ということはないと思う。
ソロでの活動は充実しているけど、正直なところ誰かと一緒にダンジョンに入りたい気持ちだってある。友だちはほしいし。
それにいつかはクランを作りたいとも思っていた。
いまのところ問題ないとはいえ、誰かと組めば安全性が高まることも間違いない。取り分が減ることは確実だけど、命には代えられないのだからね。
もっと深い階層に行く時には、必ず仲間が必要にもなってくる。上級クラスをゲットするなら、もう絶対と夕歌さんは言っていたし。
問題は『ソロダンジョン』と『ウルトラハードモード』が神がかったスキルの組み合わせなこと。
それにひとりぼっちのダンジョンに挑まないとした時に、ウルトラハードモードがどう作用するのか全然わからない。考えてみれば、ソロ以外の状況だと私のスキルは扱いが難しい気がする。
うん、あれこれ考えるのめんどくなってきたな。
「お待たせしましたー。あ、話題の有名人ですね。帰還の処理と魔石の換金でいいですか?」
見覚えのない受付のお姉さんは、どうしてか楽しそうだ。私がこのダンジョンにいるって噂を流した張本人じゃなかろうな?
「帰還のほうだけでたのんますわー」
「はい……ではお疲れ様でした」
「あ、そうだ。ねえねえ、ちょっといい? パーティーとかクランのことなんだけどさ」
「込みいった話ですよね? そういうことは相談窓口のほうにどうぞ」
「そっか、わかったよ」
なるほど。受付が暇な東中野ダンジョンとは対応が違うらしい。
現状にどう整理をつけるのがいいか、相談してみたかったんだけど。どうするにせよ、変に恨まれても嫌だからね。
まあいいや、東中野まで逃げるかな。あっちで夕歌さんに相談してみよう。ここら辺じゃあ、追いかけられて牛丼屋にも寄りにくい感じだろうし、ホテルに押しかけられたら最悪だわ。
受付から離れ、何気ない足取りで外に出る。
当然のように後についてくる知らない人たち。どこまで一緒に行く気なんだろうね。
なんか楽しくなってきたな。
ちょっとした意地悪気分で、角をさっと曲がったところでだ。
突然、手をつかまれて、開かれたドアの向こうに引っ張り込まれた。




