ぼっちのダンジョン
何匹目かのダンゴムシを倒すときに、勘のいい私は気づいてしまった。
渾身の力で何度も何度もトンカチを叩きつける必要はないということに。
最も防御力の高いだろう硬い外殻を叩くなんて、あまりに非効率だ。弱点を叩かないと。
「頭をぶっ叩け~」
へいっ!
「魔石、魔石、お金、お金」
足で踏んづけ、トンカチで頭を狙い打ちにしてやれば、滅多打ちにしなくたって楽に倒せる。
いままでのはなんだったのか、というくらいに楽じゃないか。
それにしても何が足で踏めば倒せるだよ、まったく。踏んでから頭を叩かないとダメじゃん。ちゃんと教えてほしかった。
でも弱点に気づいてよかった。お陰でたくさんの足がうごめく、お腹側を見なくて済んだのは助かったね。
「また発見っ」
ダンゴムシよ、貴様の死によって私は糧を得るのだよ。貴様の死は尊いぞ。
そうしてまた透き通っているような気がする極小魔石を回収。
調子よく繰り返していく。反撃しないモンスターなんて楽勝よ。
それなりの数を倒した気がするけど、そろそろレベルアップしたかな。
「あ、してるじゃん」
尻ポケットから取り出した身分証を見てみると、レベルが上がっていた。いつの間にか上がっているものなんだね。
でもやっとか。ダンジョンに入ってから、どれくらい時間たったかな。結構がんばってるはずだけど。
■星魂の記憶
名前:永倉葵スカーレット
クラス:―
レベル:2
生命力:6
精神力:6
攻撃力:6
防御力:6
魔法力:6
抵抗力:6
スキル:ウルトラハードモード/ソロダンジョン
クラススキル:―
加護:―
「なんだ、ステータスあんま上がってないね」
オール1ずつ上昇したみたい。私って、やっぱり弱くない? こんなもんなのかな。
あ、スキルに新しいのがある。
「どれどれ『ソロダンジョン』……?」
意識した瞬間、空気が変わった。ダンジョンに足を踏み入れた時と同じ感覚だ。
空気だけじゃない。この周辺のダンゴムシは倒したはずなのに、全部復活しているっぽい。ついでに、道の端に落ちていたはずのビニールっぽいゴミまで消えた気がする。気のせい?
いや、なんかおかしい。
妙なことを放置したままはダメだ。いったん帰ろう。
「レベル上がったし、今日はこんなもんかな」
戦いのハイテンションが落ち着いてしまえば、急に激しい空腹を感じてしまった。
眠気はないけど、お腹が減って倒れそう。
力を振り絞って階段を上がり、拝借していたトンカチを工具箱に戻す。
とぼとぼ歩いて戻れば、お姉さんはのんきに深夜番組を見ているようだった。本当に暇そう。
「おーい、戻ったよ」
「あら……えっと、スカーレットちゃん。葵ちゃんだっけ。遅かったわね」
「そうそう、私、永倉葵ね。お姉さんさ、ダンゴムシめちゃ強いじゃん。びっくりしたよ」
「ええ? あんなのが強いって、それは葵ちゃんが弱すぎるだけよ。でも倒せたでしょ?」
「コツをつかんで、なんとかね。レベルも上がったよ。でさ、スキル覚えたんだけど」
「レベル2でスキル覚えたの? それはすごいわね」
お姉さんはそう言いながら、モニターに映る深夜番組のアイドルを指差した。なんだろう?
「例えば、あの子たち。アイドルなのにハンターもやってるのよ。最近はそういうのが流行っててね」
「ふーん? それがなに?」
「あの子たちはレベル3のときにデビューして、二年後のいまになって、ようやくレベル7らしいのよ。でも追加で覚えたスキルはゼロだって。スキルっていうのはそんなにポンポン覚えられないのが普通ってことね。一般的にはそんなものよ」
おー、そういうこと。じゃあ私はラッキーなんだ。
「お姉さん、そういう番組好きなの?」
「暇つぶしよ。夜勤って退屈なのよね」
お姉さんはぐいーっと伸びをしながら私を見る。
「それにね、こういう情報って意外と役立つのよ。ハンターの相談にも使えるし」
「ほー、なるほど」
たしかに具体的な例はとても参考になった気がする。
「じゃあさ、私のスキルの相談に乗ってくれない? さっき覚えたやつなんだけど」
「いいの? 教えちゃって」
お姉さんは番組の音量を下げながら、真剣な表情になった。
「大事な個人情報だって言ったはずよ」
私が世間知らずの小娘だから心配してくれているらしい。
スキルに関しては内緒にするのが常識といっても、私は物を知らなさすぎる。勉強をサボったツケを十六歳にして痛感する羽目になるとは予想外だよ、まったく。
とにかく、当座のお金が欲しい私としては悩むことに時間をかけるよりも、手っ取り早く自分のスキルを把握したい。とはいえ自分のすべてを明かす気はないし、妥協点としては初期スキルの『ウルトラハードモード』を秘密にしておけばいいように思った。
意味不明の感覚に陥った覚えたばかりのスキル『ソロダンジョン』については、どうしても知っておきたい。相談相手はダンジョン管理所の職員なんだし、ひとつくらいは話してもいいだろう。
そんな感じで自分を納得させて話してみた。