見えた大台と引き出される力
魔石の換金を定期的に行いつつ、毎日毎日休むことなく、ひたすら神楽坂ダンジョンに潜り続けた。
戦闘技術を磨くため、これまであまり意識しなかった回避と防御に力を入れ、攻撃もただ一撃で倒すのではなく、狙ったところに狙った威力で、狙ったタイミングできちっと当てられるように考えて行動し続けた。
武器も右手のハンマーと左手の投げ斧、ブーツの蹴りも合わせてのコンビネーションを常に意識する。一定の時間毎に右手と左手の武器の入れ替えもやっている。
これまでよりもじっくりと時間をかけてモンスターを倒すため、討伐のスピードはがくっと落ちたけど、これは先々のことを考えればやっておいて損はない。
いつかゲットする超絶カッコいいサブクラス、そして上級クラスのために。
妥協は許されないのだよ。私は本気だからね。
思い返せば適当にやっていた時には、毎日100匹以上のモンスターを倒せていた。
第十七階層は集団でモンスターが現れるから、本来なら200匹以上も狙えていたところ、あえてじっくり戦闘を行うことによって倒す数は100匹にも届かない。
そうしたお陰でいまでは、かなりの手ごたえを感じるようになっている。
瀬織津姫の指輪の戦闘技術アシスト機能を、自分のものとして吸収できている実感がある。
私ったらたぶん装備の支援抜きでも、だいぶ強いのではないだろうか。そこそこというか、結構強くね? と自分なりに思えるようになった。
それにこれまで意識したことはなかったけど、基礎ステータスにプラス補正される巨大な数値の力を、最近は引き出せているようにはっきりと感じる。戦闘技能の向上に伴って、ようやく体や感覚がステータスに追いついてきたのだと思う。
たぶん、これまでの私は補正値の半分どころか、そのまた半分の力も発揮できていなかったんじゃなかろうか。その潜在能力じみた力を半分も発揮できるならそりゃ強い。
戦って、戦って、戦いまくる。
毎日、ジャンジャンバリバリ戦う。息をするようにモンスターをぶっ倒す。
もはや私は骸骨くんにとっての悪夢に違いないね。
たまに出てくるやたらと強いモンスターや、無限に湧き出る変なモンスターにもめげず、戦って戦って戦いまくった。
無限湧きのモンスターは魔石を落とさなかったから、ホントに最悪だった。なんだよあれ、もう二度と戦いたくない。
私ったら、たぶん世界で一番か二番くらいの勢いで戦っているわ。
目標があるといいね。全然、飽きない。むしろ楽しい?
「ういー、こんだけやって、やっとレベル15かー。サブクラスまで結構遠いわねー」
我ながらちょっと頭おかしいくらいの勢いでモンスターを倒しまくったおかげで、ようやくレベル15になれた。
レベル11で東中野に魔石を売りに行ってから、たぶん2週間以上が経過している。
売りさばいた魔石は数もざっと4桁は超えている。金額にしてプラス5千万以上稼いだことになる。
これまでの貯金を合わせて約8千万。億の大台が見えてきた。
毎日の稼ぎ場として使っている第十七階層の適正レベルである、レベル17になるころには大台を達成できる見込みだ。
本当ならもっと先の階層に進んでもいいのだけど、第十七階層はモンスターがたくさんいるから、魔石の数的にも戦闘経験的にも割がいい。
試しに第二十階層まで行ってみると、十八階層以降は単体でそこそこ強いっぽい敵がいる感じだった。それだとお金も経験値も戦闘訓練的にも、第十七階層のほうが優秀だと言えてしまう。
あとはレベル17を超えた時に、戦闘訓練やレベル上げの効率がどうなるかで先に進むかどうか決めよう。
そこまではここでがんばっていく。まだまだやるぞ。
とりあえず、今日はどのくらい経験値稼げたかな。ステータスの確認だ。
■星魂の記憶
名前:永倉葵スカーレット
レベル:15(レベル上昇に必要な経験値:1,040,789)
クラス:はぐれ山賊
生命力:42(+1,200)
精神力:42(+1,350)
攻撃力:42(+1,500)
防御力:42(+1,200)
魔法力:42(+1,275)
抵抗力:42(+1,125)
運命力:558
スキル:ウルトラハードモード(試練を与える。ダンジョン難易度の上昇、難易度に応じた報酬獲得率アップ、成長率が難易度相応に変化)
:ソロダンジョン(専用のダンジョンに入ることができる)
:武魂共鳴(装備品が使用者と結びつき、レベルに応じて成長する)
:毒攻撃(攻撃時に毒ダメージを与える)
:星の糸紡ぎ(星魂紋の詳細が可視化される)
:状態異常耐性(状態異常への耐性を得る)
:カチカチアーマー(カチカチしたシールドを召喚する)
:キラキラハンマー(キラキラするハンマーが追加攻撃する)
:生命力吸収(攻撃時のダメージに応じて、対象から少しだけ生命力を吸収する)
:念動力(念じることより物体に干渉する)
:健康体(病気知らず)
クラススキル:拘束具破壊(拘束具を簡単に破壊できる)
:威嚇(威嚇対象に恐怖を与える)
加護:弁財天の加護(魅力・芸術能力・財運アップ。五頭龍をソロ討伐し弁財天に認められた証)
:厄病神の加護(災厄を返し悪因悪果を与える。疱瘡悪神をソロ討伐し厄病神に認められた証)
改めて見ると、なんとなくステータスの伸びがよくなっている気がする。
レベルがひと桁だった時には、ほぼ毎回レベルアップ時に1しか上昇しなかった。
それがレベル11から15にかけて、各ステータスが19も伸びているのだからすごい成長ぶりだ。
代わりにスキルをなかなか覚えなくなったのが残念ではあるけど、すでにたくさん覚えているのだから贅沢というものだろう。しかも私のスキルはどれも優秀っぽいし。
「よーし、とりあえずの目標はレベル17だよ」
急いで経験値稼ぎをするのではなく、引き続き戦闘技術を高めることに重点を置いて戦う。技術を高めつつ、ステータスの補正値を完璧に引き出せるように力をつける。これの継続だ。
たぶんあとレベルを2上げるには、必要経験値的にかなりの数、それこそ4桁の数はモンスターを倒す必要がある。
そのころには自信が持てるくらいに強くなっていると期待しよう。
目標を立てて、サボりもせずに戦うこと、また数日が過ぎた。
この数日間、集中してがんばっていても、まだレベルは上がらない。それでも、ステータス上で次のレベルに必要な数字がどんどん減っていくからストレスを感じにくいのがありがたい。
スキル『星の糸紡ぎ』の効果のお陰だ。これは精神衛生上、とても助かっている。
「うおーい、また来たよー」
東中野ダンジョン管理所は、今日も閑散としている。
特に今日は雨と風が強いから、ずっと暇だったに違いない。
「おいすー、葵ちゃん」
「ここは今日も暇そうだねー」
「この天気じゃ仕方ないわ。昼間も少なかったし、いまの時間は誰もダンジョンに入ってないのよ」
誰もおらんとは、それはすごいね。
中野区って一応、そこそこ人口多いはずなんだけど。どこの過疎地だよ。
「ふーん。でもそんだけ人気なかったら、このダンジョン閉鎖とかされない?」
「赤字ってわけじゃないから大丈夫よ。それに葵ちゃんのお陰で、当ダンジョン管理所の業績は前期に比べ大幅に改善しています。ありがとねー」
「なーに、いいってことよ」
気やすいやり取りが心地いいやね。
神楽坂ダンジョン管理所なんて、受付の人は忙しそうで無駄話なんかとてもできる空気じゃないからね。誰かひとりくらいとは、仲良くなりたいと思っているんだけど。
ちょろちょろっと魔石の換金を終えたら、いつものように雑談タイムだ。
「あ、そういや葵ちゃんて、パンチングマシンはやってみた?」
「急になんの話?」
「最近、ダンジョンの入り口の所に設置されたんだけど見たことない? 神楽坂にもあるはずよ」
「あったっけ? あ、私の場合はスキルで『ソロダンジョン』にしちゃうから、入り口付近だとたぶん消えるね」
ダンジョンの入り口周辺のゾーンから、ステータス上の魂の力が開放される。そこに入る時には必ずスキルを発動させて私専用のダンジョンに入るから、余計な異物はなかったことになってしまう。
「そういうことね。だったらちょっとやってみない? どうせ受付にいても暇だし、私も見に行くわ」
いくら暇だからってこのお姉さん、ついに受付をほっぽりだす気だ。
パンチングマシンなんて全然興味ないんだけどね。
まあ、せっかくだからやってみるか。ぶっ飛ばすぞ!




