敵を求めてその先へ
余裕がありすぎる第十階層を通り抜け、続けて中層の第十一階層に降りた。
いよいよ私もダンジョン中層に挑むハンターだ。初心者は脱したと思っていい。
ウルトラハードモードが標準の私としては、一度くらいはノーマルモードの難易度を体験してみたいものだけどね。
「あれ? 骸骨くん、結構変わっちゃったね」
新たな階層の骸骨系モンスターは能面? のような不気味な印象を受けるお面をかぶっていた。
その代わりになぜか防具を装備していない。武器は刀や槍、斧を持っているのもいる。防具的には弱くなったように見えるけど、より深い階層のモンスターが弱くなるはずはない。
現在レベル10の私にとって、第十一階層は常識的には格上の場所になる。
緊張感をもってモンスターと戦い、もしここでも楽勝なら次に進もう。戦闘経験を積むためにも、楽勝すぎては効果が薄いからね。
「うし、来いや!」
能面の骸骨くんの前に躍り出れば、さっそく槍を構えながら接近してきた。
明らかに足軽系骸骨くんよりも動きが速くなめらかだ。ただ、それでも私にとってはまだ余裕っぽい。
突き出された槍の穂先をじっくり見ながら避け……その時、穂先が赤い光を帯びていることに気がついた。あれに触れるのはよくない気がする。どんな効果があるのか気にはなるけど、身をもって実験する気にはとてもならない。
横手に回り込んでハンマーで殴れば、やはり防御力は雑魚同然だ。攻撃は不気味だけど、倒すことは問題ない。
「なーんか微妙、もう次いこっかな」
謎の赤い光を帯びた攻撃に脅威を感じてはしても、私とモンスターの力の差が大きすぎて戦闘経験的に全然ためにならない。
より意味のある戦いを求めたいし、深い階層に進めば進むほど取れる魔石の価値は高まっていく。
この階層に留まる意味はないと判断して先に進むぞ。私の目標は高いところにあるからね!
そうやって次の階層に進むたびに、数匹の骸骨系モンスターを倒しては次に進むことを繰り返す。
まだ行ける、まだ行ける、まだ行ける。
無理をして怪我するのは避けたいけど、楽をしていては超絶カッコいいサブクラスはゲットできない。
だから先を求めて進むし、やられるつもりだって全然ない。まだ16歳の希望ある身で、ダンジョンなんかで死んでたまるか!
目標と安全を天秤にかけながら、ちょうどいい感じの稼ぎスポットを求めてどんどこ先に進む。
そして気がつけば、もう第十七階層まで来てしまった。
めっちゃ進んだ。パッと見ただけで、環境が変わったのがわかる。江戸みたいな古い町並みは変わりないけど、そのほかがまるで違う。
まず目に入ったのは大きくて真っ赤な池。次いで、煌々と光るマグマの川。基本的に夜っぽいこのダンジョンで、赤く光る川は目立ちまくっている。
さらにホラー感マシマシの要素として、骸骨くんたちがなぜか建物から吊るされたり、柱っぽいものにくくりつけられたりしている。なんなのあれ?
意味わからんけど、オブジェではなさそう。なんか微妙に動いているし。
とにもかくにも、ちょっと難易度上がったっぽい感じするね。
「ふーん、気合い入れ直せってことかな」
レベル10で第十七階層は、ちょっと普通はありえない感じだ。でも私はウルトラハードモードで、装備もスキルも破格の性能だから、常識的な考えは意味がないと思える。私なりにやっていくしかない。
常識なんて、知ったこっちゃないわ。
「お腹減ってきたけど、あんま稼げてないからね。もうちょっとやってこう」
時間は19時半くらい。今日は移動ばかりでモンスターをあまり狩れていないから、もう少しがんばろう。
求めるちょうどいい感じの階層が見つからなくても、転送陣のある第二十階層まで行ったら今日は店じまいでいいかな。
もうちょっと周りを確認しよう。モンスターの様子をもっと見たいし、適当な高いトコに上がってみるか。
「……こういうパターンね。さすが中層って感じ?」
大雑把な地形は地図であらかじめてわかっていたとおり、江戸っぽい町並みのステージで上層と変わりない。
ただ実際に見てわかった謎の赤い池や、マグマの川は予想外だ。ほかにも遠くのほうには山があるし、これまでの階層とは全体的にかなり印象が違う。
それにオブジェっぽい変なモンスターとは別に、モンスターが集団行動をとっているのが大きな特徴だった。
単純にうろついている数が多いのではなく、集団行動をしている。整列して歩き回っていることから、部隊として動いていると表現したほうが正しいのかもしれない。
「先頭の骸骨くんがリーダーってことだよね。なんか派手だし」
立派な鎧武者姿の骸骨くんが引き連れるようにして、ボロい装備の足軽系骸骨くん8匹がつき従っている形だ。広いダンジョンを見渡してみても、その組み合わせに決まりでもあるのか、すべてがそうなっているようだ。
持っている武器はいろいろあって、刀や槍、斧もいるし弓を持っているのもいる。刀だけの部隊がいれば、弓だけの部隊もいるし、混成の部隊もいるようだ。
これまでのように時間さえかけなければ、ほぼタイマン勝負で戦えた状況とは完全に異なり、この階層では常に多数との戦いを求められる。
複数のモンスターと戦った経験はあっても、あれだけの数と毎回必ず戦うことはこれまでになかった。
単体なら楽勝でも、数が集まれば手強いかもしれない。
ただ、戦闘経験を積む意味ではまさしく求めていた状況のひとつとも考えていいのかも。あれを相手にしまくれば、数字にならないところでの経験を積み上げられる。
それにお金稼ぎを考えるとかなり美味しい。魔石を大量にゲットできる。
さすがに安全面での不安はあるから、ちょっと当たってみて、厳しそうな逃げるとしようかな。
むしろヤバいと思った状況で、ちゃんと逃げる練習もしておきたい。そういう意味でも、この第十七階層は私にとっていい経験になりそうだね。
振り返ってみれば、慣れもあってか最近はあまり緊張感がなかった。
本来は命懸けのダンジョンハンター、それも危険度の高いソロハンターという事実を意識して戦わないと。
「やったるぞ」
高所から飛び降りて、最も近い場所にいた骸骨パーティーに突撃だ。
まずは正面からぶつかってみる。厳しそうだったら即撤退を考えつつも、腰が引けていては戦いにならない。気持ちで負けるな!
薄暗い町の通路はいま、装備品の太陽の腕輪のお陰でちょっと明るい。装着した私を中心に、半径20メートルくらいはいい感じにホラー感と見えにくさを吹き飛ばしてくれている。
急速に近づく骸骨パーティーはとっくに私に気づいていて、弓矢をいくつか飛ばしてきた。
「当たっても、たいしたことはなさそうだね」
あの威力では魔法学園の制服っぽい防具は抜けない気がする。
それに弓の名手はいないらしい。真っすぐ走っているだけで、矢は普通に外れた。
合計9匹の骸骨パーティーが、広めの通路に展開して私を迎え撃とうと武器を構える。
対する私は右手にいつものハンマー、そして左手にはこの前手に入れた新しい武器を握っている。蜻蛉返しという名の、投げたあとで必ず手元に戻る斧だ。
「当たるかわからんけど、くらえ!」
待ち構えるモンスターとの距離が10メートルくらいのところで、左手の武器を思い切り投げた。
くるくると回転しながら飛んだ斧は、私が思ったところとはちょっとズレた方向に行ったけど、複数いる足軽系骸骨くんが並んでいることを幸いに命中、光の粒子に変えてしまう。
イケイケドンドンと思ったところで、不意に私の左腕に黒い鎖が巻きついた。
しまった! え、これってもしかして、分銅つきの鎖じゃない?
なんか忍者っぽい!