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初めてのダンジョン突入

 ダンジョンの階段の手前、数メートルくらいのところに足を踏み入れた瞬間、不思議な感覚に包まれた。

 眠気と空腹で不調だった体がすっきりしたような、空気が全然違うような、まるで別の世界にやってきたような、なんとも言えない違和感だ。

 ただ違和感はあっても不快感はなく、むしろ爽快だ。


 これがたぶん魂の力の開放なんだろう。

 私の星魂紋せいこんもんを読み取って、身分証に表示される『星魂の記憶』、通称は受付のお姉さんも言っていたけどステータス。その記述のとおりに力が発揮される異空間、それがダンジョンというものらしい。


 なんかあふれるパワーを感じながら、いざ階段を下る!


「――やっと着いた、長い階段だなあ」


 地下に向かい始めて、感覚的には小さな山くらいは下った気がする、そんな長い階段だった。

 ダンジョンの第一階層は、話に聞いていたとおり石壁に囲まれた洞窟然とした空間で、通路は広く天井も高い。いかにもダンジョンって感じ。

 謎の光源によって、薄暗くても完全な闇には程遠い。不気味ではあっても、行動に支障はなさそう。


 第一階層は碁盤の目状に通路が広がり、第二階層への階段の位置もわかりやすい。

 私のような初心者でも、迷わずに探索することができるわけだ。

 もらった地図を頼りにする必要はなさそう。初心者にはありがたいことだ。


 とにかく稼がなくちゃ。いっちょ行ってみっか!


 誰かと鉢合わせても気まずい感じになりそうだから、ひとまずは第二階層に向かうのとは違う方向に進んだ。

 すると、さっそくモンスターを発見。


「うわ、でかっ」


 思ったよりも大きい。ダンゴムシ型モンスターは、猫くらいのサイズ感だろうか。

 猫ならかわいいけど、この大きさのダンゴムシはなかなか気持ち悪い。ちょっとばかり想定と違う。

 ただ、こいつは襲ってこない。さすがは第一階層、初心者向けだ。


「経験値になるし、とりあえずぶっ殺そう」


 クズ魔石がどんなものかも見てみたい。

 それに第一階層のクズ魔石でも、通常の乳白色の魔石とは違い、稀に透き通った魔石が落ちるらしい。それならビーズみたいなちっさい大きさでも10円で売れると聞いた。


 所持金ゼロの私にとって、10円はでっかい! もしかしたら、このダンゴムシが10円に化けるかもしれない。


 お姉さんは踏んづければ倒せると言っていたから、問題ないはず。あとはやる気の問題だ。

 でっかいダンゴムシ、気持ち悪いけどね。やるしかないよね。


「とあーっ」


 こういうの勢いだ。

 走り寄って、勢いよく足で踏みつければいい。倒せば光になって消えるはずだから、汚れもしない。

 ぼろのスニーカーで、会心の一撃を繰り出した!


「え、あれっ」


 思い切り踏みつけたにも関わらず、ダンゴムシは潰れずにうぞうぞ動いている。

 それにしても、めちゃ硬い感触だった。


「おかしいなー」


 えい、えい、やけくそ気味に踏みつけを繰り返すも、全然倒せる感じがしない。

 ダメだこれ。踏んだくらいじゃ、とてもじゃないけど倒せない。

 お姉さん、嘘ついた? 私が弱すぎる?

 足をどければ私などいないかのように、のろのろと進むダンゴムシ。だんだんムカついてきた。


「こんの、虫けらが」


 人間様をなめやがって。待ってろよ!


 長い階段をダッシュで駆け上がり、いったん外に出る。

 ダンジョンの入り口近くに、置きっぱなしの工具箱があったのを覚えていた。物色して、トンカチをちょいと拝借っと。

 のろのろと這いずり回るダンゴムシの元に駆け戻り、ジャンプしながら勢い任せに振り下ろす。


「どおりゃあああっ」


 握りしめた小さなトンカチを、変なテンションのままに叩きつける。

 ぶち込んだトンカチの平たい面は、かなり硬い感触があったものの、ダンゴムシにめり込んでそれなりのダメージを与えた。

 それでも光になって消えてはくれない。ダンゴムシは土臭い体液をまき散らして暴れている。

 気持ちの悪さが苛立ちに拍車をかける。はー、ムカつくわ。


「こんの、死ねやあああっ」


 トンカチの平たい面では、いくら叩いても勢いが足りないのか、硬い外殻をぶち破れない。

 なんだこいつ、やっぱりめちゃ硬い。これを靴で踏んづければ倒せるなんて、絶対に嘘だ。

 握ったトンカチの柄をくるっと反転させ、平たい面じゃなく尖ったほうを叩きつけることにした。


「どらあっ、どらあっ、どらあっ、どりゃああああああっ」


 手に伝わる気色の悪い感触を、攻撃的に高まるテンションのままに無視。

 尖ったほうの攻撃力はそれなりに高かったようで、浅い穴だらけになったダンゴムシはやっと光になって消えた。汚い返り血みたいな体液も消えてくれたのは助かった。


 それにしても疲れた。第一階層の雑魚モンスター相手でこれじゃ、先が思いやられる。まだ一匹倒しただけなのに。


「チッ、虫けらが。手間取らせやがって」


 ペッ!


「おお? あ、あった! 魔石、お金!」


 つい粗相してしまった場所の近くに、小さくても目立つ物体があった。

 やったやった。ビーズ大のちびっこい石を拾い上げる。


「んー? 透き通ってるように見えるけど、これって10円のやつかな。珍しいって言ってたし、さすがにそれはないか」


 ひと山いくらのクズ魔石だったとしても、少しでもお金になると思えば気分はいい。

 レベルが上がれば倒すのも楽になるだろうし、もっと頑張ろう。


 たしか、十五匹くらい倒せばレベルアップするとお姉さんは言っていた。

 倒すのは大変だけど、反撃してこないダンゴムシなら危険はない。

 ささっとレベルアップして、効率よく稼がなきゃね。

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きびしいせかい。 ただでさえ人生ハードモードなのに、スキル:ウルトラハードモードなんてどうなっちゃうの!? この主人公が次に何をするか楽しみすぎます!
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