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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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いざ尋常に勝負

 チンピラっぽい兄ちゃんの後についていくと、立派なビルの地下に入ることになった。

 無機質な大きなビルには、あまり人の気配が感じられない。


 ホントに大丈夫かね、これ。やっぱ帰ったほうがいいかな。


「あ、そういや種銭どのくらい持ってます? 急に誘っちまったんで、もし元手がなけりゃツケでいくらか貸しますよ。あんた兄貴のダチですからね、上客の扱いさせてもらいますんで」


 タネセン? 話の流れ的に現金をいくら持っているのか聞かれてそうだけど。

 成人女性、そして未来の大金持ちとして、ここは堂々と答えようではないか。


「まあ手持ちはちょっとだけどね、一応は50万あるよ」

「マジですか? 遊ぶ気満々じゃないですか。お客さん結構若いけど、いつも派手に遊んでる感じですか?」

「ハハッ、まーね!」


 これから派手に遊びまくる未来が待っているからね。間違いではないはず。むしろ合ってるから。


「さすが兄貴のお客ですね。いまから店あけるんで、少しそっちの部屋で待っててください」

「ほーい」


 なにがなんだかよくわからんけど、このビッグウエーブに乗ってみよう。

 兄ちゃんと別れて、言われた扉を開けるとあら不思議。


 ホテルのロビーみたいな空間が広がっていて、結構な人数、たぶん五十人くらいのむさいおっさんや、その愛人っぽい雰囲気の若い女たちが黙って座っていた。めっちゃいる。

 なんか、どう考えても私は場違いに思えてしまう。


 いまさらだけど、ここってなんなん?

 気軽にあれこれと聞ける雰囲気でもなく、仕方なく開店とやらを待つことにした。

 まあ、絶対にご飯屋さんではないだろうね。


 数分程度の居心地の悪い時間をやり過ごすと、私が入った扉とは別の奥のほうがババンと開け放たれた。

 おかしい。あっち側は扉じゃなく、普通に壁だったはず。隠し扉っぽい感じ?

 ふいー、なんかワクワクすっぞ!


「お待たせしました。どうぞお入りください」


 きちっとした黒スーツの怖い感じのおっさんが、やけに丁寧な態度で奥の部屋に誘う。

 待機していたおっさんたちが動くから、私もそれに合わせるしかない。ここで変に立ち止まっても仕方がないし。

 ええい、行けるトコまで行ってやるわ!


「ちょっとあんた、誰の紹介だ?」

「え、私?」


 普通に入ろうとしたら、黒スーツのおっさんに止められてしまった。


「あー、タカシに案内されて……」

「タカシ? あの野郎……あ、おいタカシ!」


 ちょうど近くにやってきたチンピラっぽい兄ちゃんのタカシ。私のことは上手く説明しておくれよ?


「どういうことだ、タカシ。誰に断って、こんなガキ連れてきやがった」

「違いますよ、その人は谷村の兄貴の客です。そうですよね?」

「えっと、そうっす。なんか問題あるなら、帰るっすけど」


 ややこしい感じになるくらいなら、別に帰るので。

 この店がなんなのか気にはなるけど、絶対に知りたいってほどではないので。


「た、谷村の兄貴の? 失礼しました。どうぞ遊んでいってください。タカシ、ご案内しろ」


 よくわからんけど納得されてしまった。そういうことなら遠慮なく入ってみますかね。

 タカシの先導についていき、ちょっとだけ奥に進んで通路を右に曲がったら、そこにはまた扉だ。

 ガードマンよろしく扉の前に突っ立っていた男がタカシとうなずき合うと、エスコートでもするように扉を開く。人力の自動ドアだ。


 そして。その先にはまさかの光景が広がっていた。

 ここはカジノ以外の何ものでもない。洋風のカードやダイスを使うテーブルがいくつかと、横手のほうには畳が敷いてあって、時代劇かと思うような和風のギャンブルスペースが用意されていた。


 そこかしこで、お客が早くもギャンブルに興じている。

 すっげー! なんだよ、ここ。


「とりあえず、どれで遊びます?」


 おおう、急にそんなこと言われても。ちょっと作法がわからん。

 あちこち見ていると私が目移りしていると思ったのか、タカシは機嫌のいい調子で話を続ける。


「やっぱ盆茣蓙ぼんござにしときます? ウチのツボ振りは腕がいいんで、見るだけでも価値ありますよ」

「へー、じゃあ、それにしとこっかな」


 全然わからん。なに言ってんのか、全然わからん。


 流れに身を任せてタカシについていくと、どうやら和風ギャンブルのひとつらしい。

 畳の上に白い布が敷かれた大きな板っぽいものが置かれ、その板の上の端には「丁」と「半」と書かれたパネル、そして真ん中を横切る黒い線が引かれている。

 要するに「丁」のエリアと「半」のエリアを表しているようだ。


 これはあれだ、いわゆる丁半博打ってやつだ!


 木でできた札が丁と半のエリアにそれぞれいくつも置かれている。

 すでに十人以上のおっさんたちが遊んでいて、そこからは独特のセリフが聞こえた。


「ツボをかぶります――」

「さあ、張った張った!」

「張った張った!」

半方はんかたないか、半方」

丁方ちょうかたないか、丁方」

「ドッチモ、ドッチモ」

「ドッチモ、ドッチモ!」

「ドッチモ、ドッチモ!」

「丁方少ない、丁方!」

「ないか、ないか、丁方ないか!」

「ハイ、コマがそろいました」

「勝負!」

「……シロクの丁!」


 おおー、すげー。なんかのドラマとか映画とかで見た感じのやつだ。なに言ってんのか、全然わからんけど。

 それしても謎の緊張感あるね。


「お客さん、どうします? 遊ぶならまず木札を買ってもらわねえと。俺が買ってきますんで」

「じゃあ買って。ほい、お金」


 気前よく50万を渡すと、タカシがフロアの端っこに座っていたおっさんのところに行って木札をもらってきた。

 こいつがカジノでよく見るチップみたいなものなんだろう。50万円分あるから、結構かさばって持ちにくい。


 とにかくだ。これで準備は整った。

 いっちょやってみるか。じゃんじゃん稼ぐぞ。


 ギャンブラー永倉葵、謎のカジノでデビュー戦いきます!

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