就職活動のお手伝い?
クランハウスに戻ったら、みんなバラバラで行動中だから報告会をする。
ダンジョンに入らない時ほど、こういった時間が大事なんだよね。
「――以上がサブクランの進捗です。あとは相手次第ですが、スカウトに踏み切ってよい時期だと思います」
いい感じの人たちが見つかったみたいだね。もしかしたら、いつかその中から花園に加わる人がいるかもしれない。将来のお仲間候補だ。楽しみだね。
「クランハウスは練馬に用意するんですよね?」
「ええ、駅の近くです。比較的に新しくて綺麗な雑居ビル、そのワンフロアが候補です。寮もその近くのマンションを想定しています。契約はまだですが、管理会社やオーナーとの話は進めている状況です」
着々と進んでいる。花園の未来は明るいわ!
「それと、蒼龍から練馬ダンジョンについての情報が届きました。あとで確認しておいてください」
蒼龍のおっさん、ちゃんと送ってくれたんだね。
「ようやく練馬ダンジョンの解禁だな。おう、葵。蒼龍は何か言ってたか?」
「いろいろ聞いたよ。悪魔っぽいお城とか、悪魔っぽいモンスターばっかりだって。なんかすごそうだったわ」
「モンスターについては葵の『ウルトラハードモード』で、変わる可能性が高いわよね。資料を読み込んだ後で、まずは入って空気感や状況の確認からね」
私も一応は資料を読んでおくかな。めっちゃムズイよって何回も言われてるし。
「葵、星ノ宮さんのほうはどうだった? 三鷹ダンジョンの新階層は特別な情報のはずだ」
「すげー喜んでたよ。なんかお礼もしてくれるって。あ、黒い天使のことって、資料にまとめてくれてんだよね? 早くほしいって言ってたよ」
「今夜にでも送っておくわね。ほかに何かある?」
セーラさんと蒼龍の話で、みんなに言うことは特にないかな。
「そんなもんだね。あ、そういやさ、誰かいいバイト先知らない?」
「バイト? どういうこと?」
「葵姉はん、バイトするん?」
「いやー、それがさ。天剣の鷹宮って奴いたじゃん? みんな覚えてる?」
急に話が変わったからか、みんな顔を見合わせているね。
「……鷹宮と言えば、剣聖杯の決勝で葵と戦った相手だな? あの大会の後、すぐにクランを抜けたはずだ。その鷹宮がどうかしたのか?」
「よく知ってるね、銀ちゃん。今日さ、蒼龍のお家の近所でなんか集団に襲われてる奴がいたんだよ」
「あの麻布でそんなことがあったのか?」
「まさかだよね。助けてやったんだけど、そいつらが鷹宮の妹と弟だって言っててさ」
「マジか? すげえ偶然だな」
びっくりするよね。
「アオイ、それとバイトがどう関係するのよ」
「聞いておくれよ、それが鷹宮っていま無職なんだって。妹が悲しそうに言うからさ、じゃあ私がバイト先探してあげるねって、そんな感じだよ」
「あの鷹宮さんが無職、ですか……」
妹と弟に心配かけてるしね。そりゃ沖ちゃんもあきれるわ。
「待て、葵。それは本当か? あれほどの実力者が無職? しかもバイト?」
「ハンターは引退したってことじゃねえか? あんなトラブルだらけのクランにいたんだ、しばらくハンターから離れてえって思っても不思議はねえ」
あれ、なんて言ってたっけ。そうだ。
「引退とは言ってなかったよ。なんか、いろんなクランに声はかけてるとかなんとか? でもお断りされまくってて、いまは無職だったかな? だから仕方なく、私がバイト先くらいは紹介してあげるよって、そういう話だね」
「葵、それは鷹宮さん本人が望んでいるのとは違いますよね?」
「まあ本人には会ってないから知らんけど。でも無職なら職はほしいよね?」
「いや、ハンターとして復帰してえってことだろ? どこかのクランに入ってよ」
でもそれがムリなら仕方ないじゃん。まずはバイトから労働を始めろよって思うよね。
妹が心配しているんだからさ、とりあえず無職を脱しろよ。まったくもう。
「葵さん、それはたしかな情報ですね? 元天剣の星の鷹宮鋭次が現在、所属先クランを探して困っているという状況ですか。おそらくですが元天剣の悪評が付きまとい、周辺にまで悪影響が生じているのでしょう」
「襲われているところをアオイが助けたのよね?」
「あ、そうそう。妹が言ってたけど、めっちゃ嫌がらせされまくってんだって」
ひどい話だよ。妹や弟には関係ないのに。あいつらが見るからに弱っちそうなのも問題だけどさ。
「雪乃さん、この状況は使えると思いませんか?」
「私もそう思いました。鷹宮さんやそのご家族にとっては災難ですが、花園のサブクランに鷹宮鋭次という才能を引き込めるチャンスかもしれません」
「え、待ってよ。鷹宮って、男じゃん。マドカのスキルリンクは使えないよ?」
サブクランは将来、私たちと一緒にダンジョンアタックする人を育てるとか、変な人じゃないよねっていうのをちゃんと見極めるのが目的だったような?
マドカのスキルにバチッとはまらないなら意味なくね?
「雪乃、銀子、どういうことだ?」
「そうですね。簡単に言えば、指導者兼護衛として雇うという意味です。指導者としての適性は不明ですが、少なくとも護衛としては頼りにできると思います。実際に接してみなければわかりませんが、彼個人に関する評判は悪いものではありません。それにトップクランの準幹部であったという経験も買えますね」
ほーん? ちょっとはすごそうな奴なのかな。まあまあ強かった気もするしね。
「私も同じ意見だ。鷹宮鋭次と言えば、少し前までは未来の日本のエースとまで言われたハンターだ。まだ二十代後半だがレベルは45、そしてレベル以上の実力者とも言われている。不真面目な人間がそうはなれん。葵には完敗したが、普通ならどこのクランも放っておかない人材だ」
いまは無職だけどね。
「なるほどな。そんな野郎がクランに入れねえのは、天剣の悪評のせいだってか。まあ鷹宮のほうも最悪な経験したばっかだしな。奴がまともなら、妥協して変なクランには入りたくねえだろ」
「まあね。テキトーなところには入りたくないよね。え? でも花園のサブクランは、ド新人も入れちゃう予定のクランだよね? 鷹宮はトップクランでバリバリやってたんだよね? 入ってくれなくね?」
私なら弱っちい奴らばっかのクランなんて嫌だわ。
「元天剣のハンターにとって、花園は特別ということよ。剣聖杯を経たその後も含めて、決定的に敵対関係になってしまったからね。その花園のサブクランに元天剣のハンターが入れば、これは話題になるわよ。一時的なものだとしても、汚名返上の機会としてはこれ以上ないわ。花園が鷹宮を許したと、世間はそう認識するはずよ」
「鷹宮にとっちゃ、いろんな意味で悪くねえ話だろうぜ」
ほーん、そういう感じか。小難しいね。
「花園にとってのメリットは、実力者が指導や護衛を引き受けてくれるなら、サブクランの新人たちを任せられるということですか。肝心の鷹宮さんの返答次第と思いますが、私は賛成です。個人的には剣の手合わせが気軽にできるようになりそうですし、鷹宮さんにも思うところはありません」
「たしかに、花園には瑠璃以外に剣士がいないからな。休日に出稽古ばかりでは、瑠璃もあまり休めんだろう?」
「休日の稽古は好きでやっているので全然構わないのですが、普段から気軽に打ち合える相手はほしいですね」
普通のトレーニングは一緒にやれるけど、剣を使った特訓はちょっとムズイわ。なるほどね。
「でもサブクランの指導ですか。わたしたちがやれればいいですけど、それなりに負担はかかりますよねえ」
よく考えたら新人の指導とか、クランランキングの上位を目指す私たちがやってる暇はあんまりないわ。なかなかいいのかも?
「アオイはどうなの? 一番の被害者はアオイよ。合理的に考えれば鷹宮をうちに引き込むことにメリットがありそうだけど、元天剣のハンターについて思うところはない?」
「そうだな。葵、はっきり言ったほうがいいぜ? お前が少しでも気にするなら、どんなにメリットがあろうがこの話はなしだ」
おー、気遣ってくれてる感じじゃん。
「私は全然、気にしてねーわ。むしろ花園に得があるなら、黙って入れよって思うわ」
そうだよね。なんかそう思えてきたわ。
「すみません。葵さんの考えはわかりましたが、私も花園の利益ばかりでなく、もっと皆さんのお気持ちにも配慮するべきした」
「雪乃さん、全然大丈夫だって。花園がもっとすごいクランになるなら、めっちゃいいことだし。それに鷹宮とか、全然覚えてなかったくらいだしさ」
みんなだって私が話題にしなかったら、忘れてたよね?
「いずれにしても先方の気持ちや条件次第ですが、交渉する価値はあると思います」
「元天剣とはいえ、全員が悪人というわけではないわ。鷹宮さんの伝手で、良い人材をサブクランに誘えるパターンも考えられるわね」
「だがよ、鷹宮が花園を恨んでるって可能性はねえか? 奴にもプライドがあるだろうし、諸手を挙げて引き受けてくれるとは思えねえな」
「そこは交渉次第だ。雪乃さんから話してもらって無理そうなら、素直に引き下がろう。こちらとしても是が非でもというわけではない」
まったくもって、それはそう。私たちがお願いするのはちょっとおかしいわ。
てゆーか、元々は私が妹に頼まれてバイト先を世話してやろうって話なんだよ。それがサブクランで雇ってやるなら、大出世だろ。
なんてったって、花園は将来有望なクランなんだからさ。そのサブクランに就職できるだけでもすごいだろ。
ホントにありがたく思っておくれよね。
これで文句なんか垂れやがったら、マジでぶっ飛ばすぞ。




