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思いつき妄想ヴィクトリーロード

「はーい、お待たせ。魂石の代金、598,500円ね。まーたいっぱい稼いだわねえ」

「お姉さん、私は決めたんだよ」

「なにを?」

「住所がないとスマホ契約できないからさ、家を買おうってね」

「え、買うの? なんで? 借りればいいじゃない」


 わかってないなー。


「家なしからタワマン買ったら、すっごい成りあがりでしょ? ロマンあるじゃん」

「……葵ちゃん、タワマン買うの?」

「そう。東中野で一番すごいやつをね!」


 お姉さんは露骨に呆れた顔をしている。なんでよ。


「一番すごいって、いくらするかわかってる? 私も具体的な値段知ってるわけじゃないけど、1億どころじゃないわよ?」

「億ションていうくらいだからさ、それはわかってるよ」


 普通にいけると思うんだよね。今日の魔石を売ったお金だけで、60万くらいになった。

 いまの感じだともっと深い階層にだって私なら問題なく進める。てことは、もっと稼げるのだよ!


「お姉さん、例えば第十階層で取れる魔石の値段っていくらになる? 高品質のやつね」

「第十階層? えっと高品質の魂石なら、11,400円になるわね。でも葵ちゃん、まだ第五階層に行ったばかりでしょ?」

「そりゃいきなり行ったりしないけど、近いうちには行けると思うんだよ。で、今日と同じくらいモンスター倒したら、たぶん倍以上の稼ぎになるわけじゃん? そうすりゃ億くらいあっという間よ」


 レベルが10まで上がれば、クラスもゲットできる。

 そうすればステータスだって上がるはず。より強くなって、モンスター退治がはかどるって寸法よ。


「それ、捕らぬ狸の皮算用って言うのよ。焦って大怪我しないようにね。特に葵ちゃんは、ソロなんだから」

「わかってるって。でも稼げるとわかったらさ、がんばりたいじゃん。ダンジョン以外でも、いっぱい稼げる手段があればいいんだけどね」

「ダンジョン以外にねー。あ、ギャンブルなんてダメよ? 絶対に損するんだから」


 なんですと? ギャンブル?

 あの一獲千金を目論んだ奴らが熱い勝負を繰り広げるやつ? そのギャンブル?

 そういや私、成人してるからやれるじゃん。


「……ハハッ、そんなことするわけないじゃんか。いやー、お腹減った。じゃあお姉さん、またね!」


 何事も経験だよ。とりあえず、今日稼いだうち50万だけ使ってみよう。

 どうせ明日にはもっと稼ぐんだから、もし負けても大丈夫。すぐ取り戻せるからね!



 勢い込んで外に出たものの、もう結構遅い時間だ。

 たしか、いわゆるカジノはお台場にあると聞いたことがある。そこまで行くのはいいけど、終電の時間を気にしながらでは勝負に集中できない。


 明日、改めて鉄火場に乗り込むとしよう。

 バラ色の未来を考えながら牛丼を食べ、東中野ダンジョン管理所に戻って宿泊した。


 翌日も朝はいつものルーティーンをこなす。

 起床して洗濯、シャワー、そして朝ごはん。

 ルーティーン後にはいつもならダンジョンに入るところを、今日の私は! いま、この時から違った私になるのだよ!


 お腹がふくれて気合も入ったら、まずは駅前に移動です。

 大金持ちにリーチ状態の私としてはタクシー移動でもいいかと思ったけど、初勝負の前は謙虚であるべきだろう。

 電車でお台場に移動し、カジノの場所を確認、いったん近くの神社でお参りしてから事に臨むつもりだ。


 ヴィクトリーロードが早くも見えるぞ!


「あ、パチンコか」


 通りかかりに聞こえた騒音を耳にして意識した。私としたことが庶民の身近なギャンブルの存在を忘れていたようだ。

 これまで特に興味なかったけど、この際だ。ちょっとだけやってみるか。


 ふらっと入ってみれば、全身に浴びる爆音を疑問に思う。

 なんでこんなうるさくしてんの? なにか理由があんの?

 疑問はさておき、作法がわからないので、ひとまずは朝っぱらから人の多いフロア内をパパっと観察した。


「ふんふん、なるほど。まずは玉を買うわけね。お金持ちの私はいきなり万券をぶっこむのです。んでもって、空いてる台に陣取って玉を投入、そろっとレバーをひねれば……」


 おお、できたできた。

 なんとなく理解できる。穴っぽいところに玉が入るように、微妙な力加減でレバーを握っていればいい。

 そうしていると時折、ジャララッと玉が出てくる。これをどんどん増やしていけばいいってわけだ。

 なんかアタリが出れば、派手な演出で玉もジャラジャラ出てくると。簡単だね。


「……チッ、簡単とか思っていた私がアホだったわ。なんじゃこりゃ」


 気がつけば玉がなくなっていた。割とあっという間だ。

 あっちゅーまに万のお金が消えてしまった! どうなっとるんじゃ!


 ふと周りを見渡せば、真剣な顔つきのおっちゃんやおばちゃん、兄ちゃん姉ちゃんばかりだ。

 激しい騒音の中、誰もが無言でパチンコ台に向き合っている。


 真剣勝負なんだ、これは!


 そんな様子を見てわかってしまった。これはアレだ。ラッキーだけでどうにかなるほど甘い遊技とは違う。技術と経験が必要なタイプのやつだ。

 よっぽどの運がなければ、きっと勝てない。

 甘く考えて、すんませんでした!


 幸い傷は浅い。敗北者は潔く立ち去るのみ。


「ハハッ、未来の大金持ちはアレですわ。庶民の遊戯は合わなかったわー」


 やっぱカジノよね。

 私のヴィクトリーロードは、赤か黒かを選んでチップを倍にしていくあの遊技だ。

 当然、何度も連続で勝つことは無理だけど、勝てば簡単に倍になる。それを味わってみたい。そしていずれは乾坤一擲けんこんいってきの大勝負だよ!



 電車でお台場に向かいながら、改めてバラ色の未来に思いをはせる。

 まずは元手に用意した50万をいきなりぶっこむ。

 パチンコでは無理だったけど、今度こそビギナーズラックの恩恵を受けられるはず。なんかそんな予感がする。


 50万が倍になって100万、さらに倍になって200万、400万、800万、そして1,600万。

 たったの五回連続当てるだけで、50万円が1,600万円になってしまうのだよ! すごすぎる。


 当分の間、食いっぱぐれないわね。タワマンゲットも限りなく近い未来にある。

 がははっ、世の中楽勝!

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― 新着の感想 ―
おっと 面白くなってまいりましたw
こんばんは。 アカーン!カジノはアカーン! ゲームと違って賭け事というのは最終的に胴元が勝つようになってるんや!ハマったらまた極貧ホームレスやぞ!?
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