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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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クランマスターのお仕事

 結構大変だった黒い天使と戦った次の日は、クランとしての活動をすることにした。

 雪乃さんたち事務チームが進めてくれていたサブクランやら同盟するクランやらの関係で、みんなはその手伝いでちょっと忙しいみたいだ。


 そんな中、私もクランマスターとして働く。

 なんてったって、クランマスターだからね。それらしい働き方だよ。


「――セーラさん、おいすー!」

「こうして顔を見るのは久しぶりね、葵」


 相変わらず、どう見ても女優みたいに美人だね。

 もう存在感ありまくりだし、ナチュラルに放つオーラが違うよ。オーラがさあ。

 黒いコートや中にチラ見えするピンクのシャツもめっちゃシャレてるわ。たぶんお高いブランド物だ。


 英国お嬢様風にバッチリ決めた、どこへ出しても恥ずかしくないこの私でもちょっとしょぼく感じてしまう。

 うおー、やっぱこの人はすごいね。


 今日はいつものように銀座のカフェで待ち合わせだ。

 セーラさんは忙しい人だから、前もって予定しないとなかなか会えない。なのに今日はわざわざ電話でもなく、こうして会おうって言ってくれた。

 超忙しい合間を縫った隙間時間みたいだけど、やっぱり会って話すのは楽しいね。


「ご注文はお決まりでしょうか?」

「あ、私はアールグレイで!」

「カプチーノを」


 席に着いたらさっそく寄ってきた店員さんに、適当に注文した。

 注文を待つ間にあれこれとお互いの近況を話したり聞いたりしつつ、到着した熱い紅茶に口をつける。

 やっぱこのお茶、匂いがいいよね。文明レベルの上昇具合を感じ取れるとってもいいお茶だ。


「サブクランの進捗はどう?」

「結構進んだよ。雪乃さんがスカウトするリストみたいの作ってさ、みんなが実際に調査とかしてくれてるわ。あとは同盟とか協力するクランみたいなやつ? それのめんどくさそうなやり取りもやってくれてるね」

「葵は調査には参加しないの?」


 よくぞ聞いてくれました。


「それが1回やったんだけどね、なんかちょっとムカつく奴がいたんだよ。こっそり観察してたんだけど、ぶっ飛ばしたくなってさあ。その時はマドカに止められてね、それから私は調査禁止になっちゃったよ」


 セーラさんがおかしそうに笑ってる。まあ、やっちまったらまた豚箱送りになるかもしれんしね。私は二度と他人の調査なんかやらないよ。

 そんな話をしていたら、セーラさんがちょっと時間を気にした。


「あ、もう時間?」

「ごめんなさいね。もっと話していたかったのだけど、また次の機会にしましょうか」

「ほいじゃ最後に本題だね」


 ついつい余計な話で時間がたってしまったわ。


「ええ、昨晩送ってくれたメッセージや写真の件ね。何が起こったか理解はしているのだけど、直接話を聞きたくて」

「なかなか珍しいことなんだよね? 新しい階層が出てきちゃうとかさ」

「そうよ。楓様も聞いたことがないと言っていたわね」


 え、マジかよ。楓おばあちゃんくらいのベテランなら、話くらいは聞いたことあると思ったわ。


「おー、そうなんだ。とにかくさ、毎日あの階層で天使のモンスターを倒しまくってたんだよ。そうしたらね、黒い天使がいることに気づいたんだよね」

「……黒い天使」

「そうそう。変なモンスターいるなって思って」

「イレギュラーということ?」

「たぶんそうだと思うよ。あれだけ毎日、金の天使をぶっ倒して初めて出たからさ。ちなみに黒いメタルのモンスターだったよ」

「……そう。未知のメタル系モンスターでもあったのね」


 さすがのセーラさんもびっくりしているね。


「いやー、もうめっちゃ強かったんだよ。セーラさんたちなら大丈夫かもしれんけど、あのモンスターの特徴をまとめたのをマドカが作ってくれてるから、今度送るね」

「ありがとう。それは助かるわ。イレギュラーの情報も新階層の情報も、これはあまりにも想定外よ……ダンジョン最下層でのイレギュラー討伐は、これまでにもそう例があることではないわ。それが鍵? いえ、葵のスキルが関係している可能性もあるわね……」

「それはよくわからんけどね」


 出てきちゃったもんは仕方ないし。


「それにしても、よく新しい階層に踏み込まなかったわね?」

「いやー、私は入りたかったんだけどね。みんなが勝手なことはやめとこうって言ってさ、あのダンジョンはセーラさんたちのモンだしね」

「実際に未知の階層はどんな危険があるかわかったものではないわ。踏み込まなかったのは賢明よ。それに紫雲館としても、完全に未知の階層に挑めるチャンスが身近に生まれたことはとてもありがたいの。クランに活気が生まれるから」


 ほーん?

 紫雲館は日本一のトップクランで、どんどこ新しい未知の階層に進んでいるよね。


「セーラさんたちなら別に珍しくないんじゃないの?」

「ガラスの森ダンジョンのこと? あそこの第五十階層以降は、危険過ぎてクランの中でもトップ層しか入れていないの。レベル40未満のクランメンバーにとって、三鷹ダンジョンの新たな階層はとても魅力的に思えるのよ。私にとっても魅力的だしね」


 未知の探索にプラスして、変わらずメタル系モンスターが出まくるなら、レベル上げスポットとしても進化した感じになる。たぶん三鷹ダンジョンの価値が上がったよね。


「それもそっか。じゃあ、ちょうどよかったよ。いい感じのダンジョンだったら、また私たちにも使わせてね」

「もちろん。調査には時間がかかると思うから、しばらく時間をちょうだいね。あともしよければ、黒い天使の情報は早めにいただける?」

「マドカに言っとくわ。たぶんもうできてると思うし」

「ありがとう。改めて何かお礼をしないといけないわね」


 もう時間になったっぽいセーラさんは、コーヒーカップが空になるまでは私に付き合ってくれて、忙しそうな雰囲気なんか見せずに去っていった。

 やっぱり優雅な人は違うね。私だったら忙しそうな気配出しまくっちゃうと思うわ。



 銀座でタクシーを捕まえたら、今度は麻布あざぶに移動した。

 すんごい高級住宅地で、なんとなく感じる文明レベルの高さがちょっと居心地悪いレベルだ。練馬が私にはちょうどいいのかもしれんわ。


 タクシーの窓から次々現れる豪華なお家を眺めつつ、蒼龍のおっさんのことをちょろっと考える。


 あのおっさんはセーラさんとは違って、もうハンターを引退しているから超暇なはず。もう暇を持て余しちゃって、退屈な毎日をすごしているに違いない。

 今日だって、昨日の夜にメッセージを送ったらすぐにいつでもきていいよって返事あったし。


 でも現役の時はすごかったんだよね。私は全然知らんけど、伝説とか言われてるくらいだからね。

 あれ? でもそんなすごいハンターだったのに、引退後は暇を持て余す毎日かよ。仲間とかお友だちに囲まれてさ、華やかな生活じゃないのかよ。


 マジかよ。なんて寂しいジジイなんだ、蒼龍のおっさん。顔はめっちゃ怖いけど、そんな悪い奴じゃないのに。結構、可哀そうな奴なんじゃね?

 仕方ないね。私は優しくしてあげようね。


「お客さん、着きましたよ」

「うお、もう着いたか。ありがとねー」


 タクシーから降りて、セキュリティ厳重そうなでっかい門のピンポンを押した。

 ここに来るのは初めてじゃないからね。もう緊張なんかしないよ。


 いつもの執事選手権殿堂入り間違いなしの紳士の案内で、またいつものテカテカスーツのジジイの部屋に入った。

 勝手にソファに座って、ちょっと思った。


「おっさん、またその青っぽい色のテカテカした服? いつもそれじゃん。たまには違う服にしなよ」


 今日の私はカラシ色のスカジャンを羽織ってる。いっぱい持ってる英国お嬢様風の服だって、ちょっとずつ色とかデザインとか違うからね。なかなかのおしゃれさんなんだよ、私ったらさ。


 ところがどうだね? おっさん実は一張羅いっちょうらなんじゃね? それしか持ってないんじゃね?

 そうだよ、だから家でもテカテカスーツなんだよ!


「……俺のは馴染みの店のオーダーメイドで、同じものを30着は持っているだけだ。放っておけ」


 おー、いきつけの店みたいな?


「なんかすごそうだけど、でも30着も同じのはないわ。あ、そうだ! 今度新しいのプレゼントするよ。練馬の商店街に洋服作りのプロがいてさあ、ちょっと仲良くなって私の服を作ってもらう約束したんだよ。だからついでにおっさんのも頼んであげるね!」

「間に合っているが……まあ、その厚意は受け取っておくか」


 嬉しいよね? やっぱ嬉しいよね?

 お世話になってるし、寂しいおっさんにプレゼントくらいしてあげようね。

 いやー、いいことすると気分がいいわ。

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― 新着の感想 ―
蒼龍に対しての決めつけ毎回笑う
超大物を勝手に寂しいおっさん扱い 自由な子は見ていて楽しい
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