見たことない天使!
豆粒くらいに小さくしか見えなくても、変なのがいることはわかる。
たぶんモンスターっぽいけど、なんだろうね。
「……たしかに、葵の言うとおり妙なモンスターだ」
銀ちゃんは『一望千里』のスキルで、遠くまで見えちゃうからね。やっぱモンスターだよね。
「銀子、妙ってどういうことだ?」
「そうだな。あれは……黒い天使。私にはそう見える」
「え、なにそれ。カッコよくね?」
黒い天使とかマジかよ。
「普段のこの階層から考えれば、明らかにイレギュラーね。いきなり襲われなかったのは幸運よ」
「天使型でも黒ということは、メタル系ではないのですよね?」
「取得経験値が多いとされるメタル系モンスターは金銀銅の3種だけだ。ただし、ダンジョンやモンスターには未知の要素がまだまだ多い。それに私のスキル『奈落の目』でも見ているが、弱点は見当たらない。それはメタル系の特徴と言えるが……」
「ということは、あの黒いのはメタル系モンスター? もしそうなら完全な新種よね?」
おお、ラッキーじゃん。もう帰ろうかと思ってたけど、最後にいい感じのモンスターが出てくれちゃったね。
「銀子以外は、ここからじゃよく見えねえだろ。もう少し近づいて、まずは様子を見ねえか?」
「もし金の天使以上のモンスターだとするなら、できれば戦ってみたいです」
「私もだよ!」
弱っちそうだったらどうでもいいけど、強そうならね。そりゃやりたいよね。
みんなで謎の黒いモンスターのほうに歩いていくうちに、だんだん姿がはっきり見えてきた。
銀ちゃんが言ったとおり、やっぱり天使だ。天使の輪っかと羽があるから、もう絶対天使だわ。ただ、全部が黒い!
さらに金の天使と同じように、鎧姿で剣も持っている。全部黒いけど。
すごいわ。もう全身真っ黒で頭の上に浮かんだ輪っかだけが、ちょい紫がかった色? そんな感じに光ってる気がする。
いまのところメタルかどうかはわからんけど、どうなんだろうね。
「……近づくにつれて、あのモンスターの圧力が増していくようね。間違いなく通常のモンスターとは違うわ」
「まだ100メートル以上は離れてますけど、禍々しい気配を感じますねえ」
うん、あのモンスターめっちゃ強そうな気がするわ。
「たぶんイレギュラーだよね?」
「手強いわよ。みんな、気をつけて」
やばそうだねって話していたら、黒い天使がこっちを向いた。
気づかれたと思ったら、天使の黒い羽がバサッと広がった。うお、カッコいい。
金の天使は左右に一対の羽だったけど、黒い天使は二対になってるね。違うのは色だけじゃなかったわ。
なんて思っていたら、真っ黒な羽がめっちゃいっぱい飛んできた。まだ結構遠いのに。
「任せてください!」
前にいたリカちゃんが盾を構えて、いつもよりパワーアップした『金剛不動防御』で防いでくれる。
「これは……金の天使とは比較になりませんねえ。重さはあまり感じませんが、わたしの『拡張魔力装甲』が物凄い勢いで削られてます。長くはもちませんよ」
金の羽は楽々防御できたのに、黒い羽はもっとすごいんだね。
「射程も威力も金の天使の倍以上と考えていい。間違いなく、ほかの面も強化されているはずだ。強敵ではあるが……皆、やる気だな。しかし手を抜ける相手ではなさそうだ」
「言えてるな。葵、とりあえず『黒縄』を試してみようぜ。お前のあのスキルでもイレギュラーは一発じゃ倒せねえことあるだろ? やるなら少しは削った状態から始めようぜ」
そうだね。逆に言うと『黒縄』ですぐに倒せちゃうなら、そこまで怖くないなって思っちゃうし。とりあえずやってみるかな。
「わかったよ。ほいじゃ、スキル発動! おりゃー!」
無限に黒い羽を飛ばしまくる天使に、焼けた魔法の鎖を絡みつかせてやった。
大抵のモンスターならこれで終わりだし、そうじゃなくても結構なダメージが入るはず。
「……あれ? 金の天使になってね?」
「本当ですね……どういうことでしょう」
なんだありゃと思っているうちに、モンスターが消滅した。倒しちゃったね。
「葵姉はん、あっち」
ツバキが指差すほうを見たら、めっちゃ遠くに黒いやつがいる。そいつがすごい勢いで、こっちに近づいてるっぽい。
「なんで? 黒い天使って1体しかいなかったよね?」
「……黒が金に変わって、新たな黒が現れた? おかしいわね」
「葵、もう一度やれるか」
「よっしゃ!」
もういっちょ『黒縄』くらえ!
かなり遠くてめっちゃ速く動くから、狙いをつけるのにちょっとだけ苦戦した。だけど大丈夫。いい感じに発動したスキルが、またモンスターを絡めとった!
と思ったらだよ。
「うおっ、また金の天使になっちゃったよ」
「みんな、あっちよ!」
今度はマドカが指差すほうを見たら、また黒い天使が遠くからこっちに移動してるっぽい。
「こんにゃろー! よくわかんねーけど、もういっちょ『黒縄』くらえー!」
焼けた魔法の鎖でとっ捕まえたと思ったら、また金の天使!
またかよ。あちこち見回したら、黒い天使がこっちに向かって移動中だ。なんだよ、あれ。ずるいだろ。
「未知の能力だが、あの黒い天使は金の天使と場所を入れ替えているようだ。縄のスキルを使うと戦いにならんな」
ほうほう。入れ替わるとか、そんな技があるんだね。
「厄介ね。威力の高い攻撃を入れようとするたびにあれを使われたら、ダメージにならないわ」
「あのモンスターの意思で自在に使えるのか、何か発動条件があるのか……あるいは金の天使を全滅させれば発動を完全に阻止できるのか」
「ひとまず普通に戦ってみますか? 黒い天使はこっちに近づいてきますし」
「そうだな。葵の『黒縄』を使えば、入れ替わりで距離は稼げる。撤退は可能だろう。試してみるか」
ややこしいモンスターだね。普通に戦えたらいいのに。
「じゃあ、いつもの要領でいきましょ。リリカにスポットライトを当てるから、引きつけ役お願いね」
「入れ替わりが葵のスキル以外でも起きるのか試したいです。タイミングを見て私の『黒雷閃刀』を打ち込んでみます」
「わかった、それでいこう。押し込めるなら一気に倒す」
準備しながらちょろっと待って……黒い天使は私たちから100メートルくらいの場所で止まると、また黒い羽を飛ばしてきた。
リカちゃんが防御してくれて、さらにマドカがスポットライトのスキルを当てた。
こうなったらあとはやるしかない。リカちゃんを置き去りにして、みんなで一気に走り出す。
ちょっと距離があるからね。途中で羽の攻撃がこっちにきたらえらいこっちゃだったけど、なんとかなりそう。
そこそこ近づいたところで、黒い天使がツバキの『たしなみの大結界』の範囲に入った。これでモンスターは動きが鈍くなるはず。
すかさずツバキとまゆまゆが弱体化攻撃をしてくれて、そのタイミングでマドカと銀ちゃんが銃をぶっ放した。
やっぱり硬いね。メタル系なのかな? 何事もなかったように、天使は羽を飛ばし続ける。
沖ちゃんが天使の後ろに回り込む間に、お次は私の番だ。
ダッシュで横から超接近したら、そこでようやく羽を飛ばすのをやめた天使が、でっかい剣を私に向かって上から叩きつけようとした。
とんでもない威力がありそうなそれを『ぬるぬるアーマー』でにゅるんと受け流してやったら、天使がちょっと体勢を崩した。
「いまだよ!」
「ここです――『黒雷閃刀』ッ」
紫っぽく光る天使の輪っかごと、脳天を叩き割る攻撃だ。
サクッと倒せないにしても、ちょっとはダメージあるよねっと思ったら、瞬きする間に金の天使にチェンジした。
沖ちゃんにやられて、光の粒子に変わる可哀そうな金の天使くん。
みんなで周りに目をやると、遠くのほうにいる黒いやつ。また入れ替わりだ。
ほーん、そういう感じね。




