自己責任が基本の施設
「おらーっ、私はまだおかわりするつもりなんだよ! まだメシの時間は終わってねーんだよ!」
ホントに邪魔すんなよな。
ケンカ売ってきた奴にちゃんとはっきり言ってやったら、なんとまさかだよ。椅子を持ち上げやがったんだけど。
まだメシ食ってる人がいるのに、あまりにも迷惑すぎるだろ。こいつ、やばいわ。
「山城派に……楯突くんじゃねえ!」
「うおっ」
マジかよ。椅子を投げやがったよ。思わず避けちゃったわ。
「な、なんだこれ!」
「おい、ふざけんな!」
「あーあー、ひどいことしやがるね」
「こっちはカレーがひっくり返ったんだけど……」
別のテーブルでメシを食っていた人たちに、椅子が当たってめっちゃ怒ってる。
当然だよね、そうなるよね。
「山城派と新入りか。こっちが大人しくしてりゃあ、調子に乗りやがって」
「どっちもまとめて、ぶっ潰してやる」
いやいや、なんでだよ。私は悪くないだろ。
「待て。さすがあの永倉葵、いい度胸だ」
めっちゃ大柄な人が私に近づきながら変なことを言った。偉そうな感じもするし、どっかの派閥のボスかな。
「ちょっと待っておくれよ! 私ったら度胸はあるけどさあ、こいつらが勝手に暴れてるだけだから。私はこれっぽっちも関係ないわ」
「言い訳はいらねえ。あんたの戦いは武闘大会の中継で何度も見てる。久しぶりにイキのいい新入りだ、手合わせしようぜ」
「私はカレーのおかわりしたいんだよ。メシの途中なんだよね、だからムリ!」
遊んでもいいけど、あとにしろよな。まったくもう。
「メシのおかわりなんか、できるわけねえだろ」
「え、そうなの?」
大盛りにはできたのに?
「寝ぼけたこと、言ってんじゃねえ!」
大柄女子が周りを吹っ飛ばす勢いで突っ込んできた。
ケンカっぱやいわねー。
ささっと避けたら、山城がどうという連中に大柄女子がぶち当たった。
もろに体当たりを受けて、吹っ飛ばされるふたり組。しかもそいつらがまた、別のテーブルにいた奴らを巻き込んでしまった。
えらいこっちゃ。もうあっちこっちで怒鳴り声がするよ。
エリカと高橋は……さっさと端っこに避難しているね。と思ったら、高橋に殴りかかる奴がいた。もうどうなってんだよ。
「永倉葵、勝負しろ!」
うへー、めんどくせー。
「待て! ふざけてんじゃねえ、何が勝負だ!」
「てめえだよ、この野郎!」
「おい誰が野郎だ、この女狐が!」
大柄女子が被害を与えたっぽい奴らから、普通に食ってかかられている。
怒鳴り合いからの殴り合い、突き飛ばし合いで、もっと被害が拡大しちゃってる。こいつはもうダメだね。
うん、私は付き合ってられないよ。
無視して食堂から出ようね。もう関係ないわ。
別の部屋に移動して食後の休憩タイムにしようと思ったら、横手から誰か吹っ飛ばされてきた。
「うわっと」
あぶないね。普通に避けたらテーブルにぶち当たって、すぐに立ち上がったのはおっかない感じの女子だ。女子だけど武闘派っぽいね。
ところがだよ。その武闘派女子に私がにらまれてる。なんでよ? そもそも誰なんだよ。
「邪魔だ、引っ込んでろ!」
うお、なんだよこいつ。いままさに引っ込むところだったのに。
これって八つ当たりだよね? 誰かにやられた怒りを私に向けやがったよね?
ちょっと許せんわ。なんで八つ当たりで邪魔とか、引っ込めとか言われなきゃいけないんだよ。
私ったらもう腹が立っちまったわよ。
「おらーっ、お前のほうが邪魔なんだよ! こんにゃろー!」
言ってやったぞ。将来有望な新人ハンターでクラン代表のこの私が、なめられちゃいけないからね。
「どけっ」
「え、また誰? どけじゃねーよ」
また新手だよ。横から私を突き飛ばそうとした意味わからん奴を、逆に突き飛ばしてやった。
「やりやがったな?」
「お前が先にやろうとしたじゃねーかよ!」
「うるさい!」
「あんたの相手はアタシだろうがっ」
もうわけわからん。次から次へといろんな奴らが登場して、勝手にケンカをおっぱじめた。
しかもどさくさに紛れて、私を殴ったり蹴ったりしようとするなよ。巻き込みやがってよー。
「うわっ、あっつ! マジかよ。お茶投げんなよ!」
誰かが投げた熱いお茶が空中でばらまかれて、かかっちゃったよ。
ホントにふざけてるね。コップとか椅子を投げ合うアホな奴らは、特に許せんわ。殴り合いだけにしとけよな、まったくもう。
うん、もうあれだ。全員、許さんわ。
やっちまおう。
そうと決まれば手っ取り早くやるかな。
これでいいや。長テーブルを持ち上げてっと。
「どりゃー!」
ぐるぐる回転攻撃をくらえばいいんだよ!
「や、やめっ……」
「ぐほっ」
「いてえっ!」
長テーブルをぶん回して、ふざけた奴らをなぎ倒す。
このままどんどこぶっ倒そうと思ったら、さっきの大柄女子が受け止めた。ガシッと押さえられてしまったね。こいつ結構、パワーあるわ。
でもね、私ったらまだまだこんなもんじゃないんだよね!
「うおーっ、おんどりゃー!」
もっと力を入れてやるぞ。するとまんまと大柄女子を持ち上げて、そのままぶん回す!
大柄女子つきの長テーブルで、全員なぎ倒してくれるわ!
「な、永倉、待て! ちょ、ちょっと待って」
「うるせー!」
ぐるんぐるんぐるん、ぽいっと! 勢いをつけて放り投げちゃうよ。
そんでもって、また別の長テーブルをゲット。もう1回、ぐるぐる攻撃をくらいな!
「戦争だ、戦争だ! 早く全員集めろ!」
「永倉葵に便乗しろ、奴に続け!」
「この機にムカつく奴ら全員、ぶっ殺しちまえ!」
なんか物騒な感じはあるけど盛り上がってきたね。楽しくなってきたね!
「どりゃー! 逃げてんじゃねー!」
この期に及んで戦わない奴らは許さんわ。逃がさんよ!
がははっ、なんか楽しくなってきたわ。こういうのも悪くないね。
長テーブルをぶん回し、放り投げ、椅子が空中を乱れ飛ぶ。
お茶を投げる奴は私が許さんから、丁寧にぶっ倒すうちにすぐいなくなった。
「ふいー、そろそろいいかな」
私に突っかかってくる奴はもういない。ほとんどの奴がやられて倒れるか、疲れて倒れるかで、もう楽しいケンカも終わりだね。
よっしゃ、こんなところにしといてやるかな。
テーブルをぽいっと放り捨てたら、エリカが近寄ってきた。ずっと隠れていたみたいだね。高橋は……あ、金髪ショートがぶっ倒れてるね。まあ、大丈夫そうかな。
「葵、すごく強かった」
「たいしたこっちゃないよ。そういやさ、刑務官の人とかなにやってんだろうね」
普通ならもっと前に止められそうな気がするけど。
「この刑務所は自己責任」
うーん? ケンカしても怒られないとは聞いたけど、これだけ自由にやってもいいんだね。
なんか思ったよりずっとすごいわ。なんだよ、ここ。なんでもアリなんだね。
「そんなもんか。明日もダンジョンに行くし、そろそろ今日は休むかな。エリカはどうすんの?」
「恵梨香も部屋に戻る」
「じゃあ行こうよ」
ボロカスになった食堂なんかに用はない。おかわりもできないし。
そういやこれ、明日の朝メシの時にはちゃんと綺麗になってるのかな。
まあ私が気にするこっちゃないか。
独房に戻って顔を洗っていたら、おっかない雰囲気の刑務官がやってきた。
なんか用かな。お休みの前の点呼かね?
「永倉葵スカーレット。請求書だ、確認しろ」
「……え、請求書?」
どういうことだよ。
ちょろっと見たら、なんかテーブル代とか掃除の費用とかのお金を請求されてるっぽい。ポーション代も?
「なに、これ?」
「書いてあるとおりだ。お前が仕出かしたことだろう?」
さっきのやつの弁償ってこと?
壊しちゃった物はともかく、怪我の治療費も私が出すのかよ。最初にケンカをおっぱじめたのは私じゃないのに。
「説明はしているはずだ。自己責任、わかるな?」
マジかよ。ホントにマジかよ。
なんで私が払うんだよ。
「お前の場合はクランに請求することになるが、支払われない場合には財産を差し押さえることになる。足りなければ、刑務所内での労働だ。ちなみにその金額は関わった全員で等分されている。大暴れしたお前に文句を言う権利は、ないと思うがな」
そうかな。え、ホントにおかしくね?
文句は言いたいわ。めっちゃ言いたいんだけど!
うーん、ちょっとわからんけど50人くらいで暴れて、私の分が15万円くらいの請求ってどうなん?
等分って割には結構高くね? お金持ちの私なら余裕で払えるけど、なんか納得できねーわ。
やっぱ腹立つわー。
あのケンカ売ってきた奴ら、今度見かけたらまたぶっ飛ばそう。そうしよう!




