深淵レベルを体験!
頭が骸骨の青鬼くんと戦い始めてから1分くらい。早くもわかってしまった。こいつはダメだわ。
将来有望な新人ハンターの私はちゃんと状況を理解できる。
「あーっ、ちょっと! これムリ!」
素直に逃げ出すことにした。
逃がしてくれるかどうかはわからなかったけど、50メートルくらい移動したら追いかけてこなくなった。あぶねー。助かった。
うへー、息苦しいわ。やっと落ち着ける。
それにしてもだよ。いや、この階層マジでやばいわ。
強い風はめっちゃやりにくいし、薄い空気もかなりきっつい。でも最悪なのは寒さだね。
これって、気温何度なんだよ。寒すぎて戦うどころじゃないわ。マジで防寒具はもらっとけばよかった。
戦ってれば体があったまるかと思っていたのに、どんどん寒くなるんだからね。
もうやばい。普通に凍えてしまうわ。
こういう時にツバキの結界があれば、あんまり気にしなくてもよかったのに。
「ぐわー、どうすっかな。ハンマーとキックでぶっ倒そうと思ってたけど」
特に手が冷たくて、ハンマーを握っていられない。感覚がなくなって、ホントに落とすかと思ったわ。
全体的にめっちゃ寒いし、せめて手袋がほしい。うん、そうするかな。手袋だけ貸してもらって、もう1回チャレンジするのがいいかな。
倒すだけなら、遠くから超つよスキルの『黒縄』とか、指輪から魔法の矢の連射とかでもいける気はする。
でもあの青鬼くんは、もろに接近戦が得意なタイプだよね。
ああいうモンスターには、ちゃんと接近戦で勝ちたいわ。
「今日のところは出直すかー」
こんな寒い場所であれこれ考えるのも嫌だ。もう帰ろう。
少しでも体をあっためるために、息切れは無視して猛ダッシュ。強烈な風を突っ切って、第一階層に駆け戻った。
ホントに寒い!
もう手がやばい。手袋をすると感覚が変わるから、あんまり好きじゃないけど。まあそうも言ってられないわ。
あの第二階層よりは、ここのほうがだいぶマシだったんだね。
「ういー、ここからまた2時間走るのかよ」
早くあったかいお茶とか飲んで、ゆっくり休みたいわ。
「あ、そういや紫水晶だ。拾ってないじゃん」
テストのこと忘れてたわ。ちゃんとゲットして戻らないとだね。
あぶないあぶない。よし、大きい石を探すとしよう。
ハンマーでぶっ壊した岩山の残骸を探すと、簡単にいくつか見つかった。
結構大きいのも見つかったし、ちょっとした満足感がある。
でもどうせなら、もっと巨大な紫水晶ないかな? すごいやつ見つけたいわ。
「あの刑務官たちが、びっくりするくらいのやつほしいよね。おー、これなんかいいね」
シンプルにひとつのでっかい感じのはそんなにないけど、いっぱいくっついて大きく見える感じのはそこそこある。
もっとでっかいの、ないかな?
強風をものともせずに、砕けた岩をどんどこ投げてどかして、邪魔な岩はぶっ壊して紫水晶を探す。
大きさもそうだけど、形もカッコいいのがいいよね。
あ、水晶と岩がくっついてても、それがなんかいい感じになってるのもある。これはシブいね。
もっといいのあるかな?
「――うおっ、私ったらなにやってんだよ」
つい石探しに夢中になってしまった。たぶん1時間くらいやってたね。
我に返ってしまったけど、周りを見回すとマジで寂しい気持ちになるわ。
ムショには全然ホーム感はないけど、ここよりはずっとマシだ。戻ろう。
「いまいち気合が入らんねー」
青鬼くんからは逃げることになってしまったし、どうにもテンションが上がらない。
でっかい紫水晶は見つけたし、なにより第二階層まで見つけたのに。私ったらめっちゃすごい成果を出したはずなのに。
やっぱモンスターを倒さないことには、ちょっとどころじゃなく納得できないわ。
このまま試験に合格して、転送陣設置キットをゲットして、そんでもって第二階層に置いたらもう出所できるんだよね。
早く出たいとは思っていたけど、このままじゃ引き下がれないわ。青鬼くんを倒さんことにはさ。
そうだよね。明日またチャレンジして、倒したら第二階層を見つけたよって言おうかな。そんでもって、晴れて出所だ!
よっしゃ、そうするぞ。
普通に走って、入り口に到着。ダッシュじゃなくても、ずっと走るとかなり息が切れる。空気が薄いって、なかなか厳しいね。
まあこんなダンジョンも明日でおさらばと思えば、まだがまんできるかな。
「おーい、戻ったよー」
階段を駆け上がって、やっとひと息つけた。
「途中で引き返したわけでは……なさそうだな」
「出発からまだ6時間ですよ。かなり早いですね」
「さすがと言うべきか。早速だが、紫水晶を出してくれ」
ほいほいっと。
「いいやつ取ってきたよ」
よさげなかたまりを10個くらい持って帰ったからね。文句なんかつけられるわけがないわ。
「こんなに持ってきたのか?」
「どれも大きいな。これほどの物を見るのは久しぶりだ」
刑務官たちが紫水晶を手に取って、まじまじと見てる。ふふん、立派な石だろう!
「がんばったからね。これで転送陣の設置キットってのをもらえるんだよね?」
「明日までには準備しておこう。しかし、本当に今日だけで試験を終えるとはな」
「ここまでダンジョン探索に意気込みがあり、そして結果を出した囚人は最近では珍しい」
なんてったって、私は将来有望な新人ハンターだからね。そこらの奴とはそりゃ違うよ。
「あ、私のほかにはダンジョンアタックしてる人いないんだよね?」
「基本的に入る者はいない。モンスターはおらず、あの暗闇にあの厳しい環境だからな」
「過去に何度も探索されていて、稼ぐにも鍛えるにも向いていない、というのがわかってますしね」
じゃあ、私が発見した第二階層の階段を横取りされる心配はないね。
「そんなもんか。あとさ、思ったよりめっちゃ寒いわ。防寒着は邪魔だからいらないけど、手袋とほかにあったまる道具みたいなのない?」
「魔石カイロなら貸し出せる。手袋も用意しよう」
「おお、そんなのあるんだ」
なんだよ。最初からもらっとけばよかったわ。
「永倉、早く着替えてシャワーを浴びろ。まだ夕飯の時間には間に合う」
「うおっと。それは大事だね。ほいじゃ、また明日もくるわ!」
晩メシ抜きになんてなったら、ホントにブチ切れちまうよ。絶対に逃せないわ。
シャワーと着替えをマッハで終えて、食堂に駆け込んだ。
よかった、余裕で間に合ったね。
「あったかいメシ、ありがたやー」
においで食堂に入る前からわかったけど、今日はカレーだ。カレーって、不思議なわくわく感があるよね。
「おばちゃん、大盛りにできる?」
「構わないよ」
「やった。じゃあ、大盛りでさらにルー多めで!」
「はいよ」
サラダとお茶も取ってと。
ふほほっ、ちょっと疲れてるし、メシがマジで美味そうだわ。
さて、どこに座るかな。あ、あの超ロングの髪はエリカだよね。あそこにするかな。
「葵、おかえり」
「うん、ただいま。晩メシに間に合ってよかったよ」
栄養バーなんかじゃ、食った気にならんからね。
さっそく食べるよ。おお、ピリ辛で美味いわ!
「よっ、試験はどうだった?」
「高橋」
金髪ショートの姉ちゃんが私とエリカの前に座った。
「それはバッチリ通ったよ。20キロの往復とか、めんどくさかったけどね」
「はい? もうその試験まで終わったの?」
高橋がびっくりしてるね。1日でスパッとクリアしたからかな。
とにかく、いまはメシだよ。失ったエネルギー補給が大事。モリモリ食べながら話す。これって、おわかりしてもいいんかね?
「葵、20キロも往復した?」
「そうなんだよ。でもちゃちゃっと終わらせたからね、明日には転送陣設置キットもらえるわ」
「あの環境で20キロの往復をいきなりやるか……さすが噂になるほどのハンターは違うね」
「まーね!」
うおー、食べ終わってしまった。おかわりもらえるか、聞きに行ってみるかな。
「おいっ、てめえ! なにのんきにメシ食ってんだよ!」
「亨介さんへの詫び状、書いたんだろうな? あの人はてめえのせいで……」
なんだよもう。
「メシの時にうるさいわ。意味わからんこと言うなよ」
ちょっと前に返り討ちにした奴らだよね?
また私とケンカしたいのかな、なんて思っていたらだよ。いきなり殴りかかってきた。当たるわけないけどね。
「こいつ!」
「ただで済むと思うなよ?」
お、なんか集まってきたじゃん。お仲間かね?
わらわらとなんなんだよ。めんどくさい奴らだね。
でもそうだ、このレベル5のムショってケンカしても怒られないんだよね?
どうせ出所は決まったようなもんだし、それも込みでやっちまってもいいかな?
キョロキョロしてみたけど、止めようとする人もおらんね。
さてと。ムショを出たら二度と会わないと思うけどね、もう絡まれないようにキッチリ黙らせてやろうかね。
まったくもう、私に勝てるわけないのにさ。
早くカレーのおかわりしたいねー。
そのためにもいっちょ、気合を入れてやっちまうかな。




