厄介者の巣窟
顔は怖いけど親切な刑務官にあれこれ話を聞いた。
とりあえず、どんなのだろうがダンジョンは楽しみ。
やっぱり私は将来有望な新人ハンターだからね、どんな時でもそこに活路を見出すのだよ。
ダンジョンのことを考えながら長ったらしい廊下を歩いていたら、小部屋が並ぶ場所に出た。
「そこがお前の独房だ。しばらくすれば大部屋に移動だが、その際に派閥は考慮される。なるべく早く決めておけ」
「やっぱ入らないとダメなんかね」
めんどくせー。なんでそんなもんに入らないといけないんだよ。
「あくまでこの刑務所内だけの話だ。身を護るためにも、仲間はいたほうがいい」
「まあ考えとくわ。それよりもうお昼の時間だよね。食堂とかどうなってんの?」
「昼食は間もなくだな。食堂に案内してやる。こっちだ」
おー、やっぱ親切な人だ。
「各施設の場所や食事の時間、ほか様々な規則は独房の中の冊子に書いてある。必ず確認しろ」
「ほーい」
「わからないことがあれば誰かに聞くといい。ではな」
冊子は気が向いたら読むかな。怖い顔の刑務所のおばさんは、どこかに行ってしまった。
さて、食堂は見た感じ品川の刑務所と似ているね。並んでメシを受け取って、好きな席に座って食べるみたいだ。そうすると、また席でケンカになりそうな気がするわ。
あ、でもこのムショはケンカしてもいいんだっけ?
だったらテキトーに座ればいいかな。とりあえずはメシだね。おとなしく並びますわよ。
新入りだからか、私ったらすごい見られてる。なかなか注目されてるわ。
「うおー、里芋? 里芋の煮物じゃん。いいね」
煮物がメインで漬け物と味噌汁にちょい多めのごはん。
純和風のメシだ。普通にいいね!
お盆を持ったままどこに座るかなーと思って周りを見ていたら、私と同じようにどうしたもんかと突っ立ったままの人がいた。新入りかな?
髪の毛が超ロングなのはいいとして、目がギンギンなのはちょっと怖い感じだね。
あ、目が合っちまったよ。でもあんまりフレンドリーじゃなさそうだからね、話しかけなくていいかな。とりあえず、空いてそうな場所に移動した。
よいしょっと座ったら、ささっと両隣りに座る奴らがいた。
しかもめっちゃ見てくるんだけど。なんだよこいつら。
「お前、絶望の永倉だな」
いきなりなんだよ、絶望って。うちは花園なんだよ。
「全然違うわ。そんなの知らないよ」
「とぼけてんじゃねえぞ」
「その生意気そうなツラ、間違えるもんかよ」
マジでなんなんだよ。腹立つわねー。
「私は花園の永倉葵だよ。花園なんだよ。わかった? 変な呼び方すんなよな、まったくもう」
「そんなことはどうでもいい。お前、のんきにメシが食えると思うなよ」
「覚えとけ。これからのお前はあたしらの子分として生きるか、ここで死ぬかだ。選びな」
「まずは亨介さんに詫び状を書け。メシはそれからだ」
なに言ってんだろうね、こいつら。意味わからん。
「りょーすけって誰だよ。メシが冷めるだろーが、どっか行けよ」
崇高なメシの時間を邪魔するとは、マジで許せん奴らだね。やっちまうぞ?
「こ、このクソガキ!」
「亨介さんへの、詫びが先だろうが!」
うおっと。両側からお箸を握りしめた手が、目の前に迫ったもんだからびっくりした。どっちもパシッと受け止めたけど。
「あぶないなー」
握った腕をぐいっと後ろに引っ張ってやったら、椅子から転げ落ちちゃったね。弱っちいね。
これ以上、メシの邪魔されたら穏やかな私でもブチギレちまうからね。その前におとなしくさせようね。
椅子から立ち上がって、転げたふたりのお腹を蹴っちゃうよ。
「おらよっと! ほいよっと!」
結構強めに蹴っ飛ばしてやったからね。よっぽどの根性がないと、歯向かう気にならないだろうね。
がははっ、私のメシの時間を邪魔するからだよ。さてと、メシメシっと。
「うおー、この里芋やっぱおいしいね」
練馬の商店街の定食屋に負けてないわ。ムショもやるもんだね。
モリモリ食べて満足! ふいー、食後の茶でも楽しみますかねー。
「よっ、ここいいか?」
テーブルの向かい側から声をかけられた。金髪ショートのちょっと派手な人だね。ムショなのに染めるところあるのかな。地味にすごくね?
「別に私の縄張りじゃないからね、好きに座ったらいいよ」
「縄張りって意味じゃ、ここら辺の席は久保田派のもんだけどな。それより、そっちの奴らだ。大丈夫なのか?」
「なにが?」
「いや、なにがって。そいつら山城家の手先だろ? 山城家といえば関西の名家だが、その実、裏社会で一目も二目も置かれるヤバい家だ」
「ほーん?」
そんなこと言われてもね、全然知らんわ。
「あー……いやマジか。自覚なし? あんた、永倉葵だろ?」
「そうだよ。将来有望な新人ハンターね、あと私のクランの略称は花園だから。そこんとこよろしく。キミは誰?」
「あたしは所内一の噂好きで通ってる高橋だ。そんなことより、ひとつ聞いていいか?」
「なに?」
「山城武人会をひとりで潰したって噂、あれって本当か? いま襲われた様子からして、どうやら本当のことみたいだけど」
やましろ? あ、なんかあったかも。そうだよ、思い出したわ。マドカがくれた服を傷つけやがった奴らだよ。なんとか武人会とか、そんな奴らだったよね。それのことかな。
「うん、まーね! ちょっとムカついちゃったからさ、乗り込んだことはあったよ。あ、でも別に潰したとかはないと思うけどね。全員、ぶん殴ったけどそれだけだよ」
「……ひとりの女にカチこまれて負けた山城武人会は、そのまま解散して消滅したって噂だ。トップの山城亨介はショックを受けて、いまは東北の親戚の家に厄介になってるとか」
「へー、そうなんだ」
超どうでもいいっす。
「当然、山城の本家が報復に動くって話になったが、ちょうどゴタゴタがあったみたいで、その話も立ち消えたらしい。そもそも厄介者だった亨介がおとなしくなったお陰で、本家の中には喜んだ奴らもいたみたいでね。だけどそれでも、山城武人会の消滅に納得してない連中はいる」
せっかくの食後のお茶の時間に、ややこしい話するなよ。だいぶ意味わからんし、ホントにどうでもいいよ。
「ういー」
「ここには山城家の系列がまとまった派閥がある。あんた、今後も気をつけたほうがいい。聞いてるか?」
「まあ、わかったよ。よくわからんけど」
「あんた目立つからね、山城家以外の派閥にも目をつけられるはずだ。できれば仲間を作ったほうがいいが……山城と対立したくない派閥は、あんたを歓迎しないだろうな」
私ったらめっちゃフレンドリーなのに、なんでそんなことになるのかね。
「めんどくせー。この辺の席は座っても大丈夫? メシの時にあんまケンカ売られたくないんだけど」
「久保田派は比較的に穏やかな派閥だし、新人をいびるような真似はしない。今後のことはわからないけど、しばらくは大丈夫じゃないか? いまも様子を見ているみたいだしね」
「そっか」
やっぱムショなんて、さっさと出て行くに限るね。ダンジョン攻略して、早くシャバに戻ろう。
「困ったことがあったら何でも聞いて。あたしは、これでも新人には優しい女で通ってるんでね。それじゃ」
金髪ショートの派手な女がいなくなったかわりに、超ロングで目がギンギンの人が目の前に座った。
それでもって、めっちゃ私のことを見てくる。ケンカ売ってないよね?
「えっと、なに? なんか用?」
「新入り?」
「そうだね。今日、来たばっかだよ」
「恵梨香も。仲間」
エリカ?
「私、永倉葵だよ。よろ」
「うん。葵、恵梨香は恵梨香。よろしく」
なんか怖いな、こいつ。意外となれなれしいし。
「葵は何をやって捕まったの?」
おお、ムショの中での会話っぽいやつだ! それっぽいわ!
「いやー、それがさ。私ったらなんも悪いことなんかしてないんだよ。完全に冤罪なんだよ。マジで許せんわ」
「本当に?」
「ホントだって。売られたケンカを買ったり返り討ちにしただけなのにさ、全然納得できねーわ。エリカはなにをやっちまったの?」
目がギンギンのこいつは、ちょっと怖いからね。なにをしてても驚かないわ。
「……将来を誓い合った幼馴染に……浮気された」
「ほーん。それで?」
「半殺しにした」
なるほどね。
「浮気相手も一緒に半殺しにした」
あー、なるほど。
「その家族もまとめて半殺しにした」
うーん……いやいや、さすがにそれはないわ。
なんでそんなことになったんだよ。




